嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

134 ヴォルフラムの役割?

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◆◆◆◆◆


「それは・・拷問官の手法ですね。その男は、異端審問官より、拷問官に向いていたようだ」

今まで黙って話を聞いていたルドルフが、ポツリと言葉を漏らした。ヘクトールもアルミンも同時に頷いていた。

「たしかに、件の男は異端審問官より拷問官に向いていたようだ。ヴォルフラムは、フォルカー教の教義に背いた『悪魔つき』として拷問が加えられた。ヴォルフラムは、右耳を付け根から斬り落とされた。同様に、右手の五本の指も、付け根から斬られていた。拷問を加えた男は、ヴォルフラムの耳と指を、牢獄の番犬の餌に混ぜて食わせたと証言している」

「ひでぇな・・」

「だが、拷問はそれだけでは終わらなかった。ヴォルフラムの右目には、『悪魔つき』を示す烙印が押され眼球を焼かれた。その『悪魔つき』の目を完全に塞ぐ為に、右のまぶたには、罪人を示す焼き印が押された」

「気分が悪くなりますね・・」

「更に気分が悪くなるぞ、ルドルフ。男は何故だか分からないが、ヴォルフラムの右側の体を執拗に責め苛む事に注力した。肺や臓器をギリギリで外し、鋭く細身の剣で身を突き刺し、その行為自体を楽しんでいた節がある。その為に、ヴォルフラムは・・短期間の拷問にも関わらず、右側の身体機能の多くを奪われてしまった」

ルドルフが大きく息を吐き出す。彼の表情は暗い。それは、アルミンも同様であった。

「拷問官でもない素人が、それだけの拷問をおこない・・ヴォルフラムが、生きていたとは信じがたい」

「確かにそうだな、ルドルフ。だが、ヴォルフラムは生きていた。拷問を受け、剣を刺されたその状態で・・ヴォルフラムは、鎖に繋がれて牢獄に放置されていた。牢獄でヴォルフラムを発見した者は、恐らく彼の死を予期した事だろう。だが、先も述べた通り、ヴォルフラムは生きていた・・」


ヘクトールは、不意に何事かを考え沈黙した。その沈黙さえも、二人には恐ろしく感じられた。ルドルフは、たまらず声を掛ける。

「ヘクトール様、続きを・・」

「ああ、すまない・・少し考え事をしていた。先にルドルフが指摘した通り、男には異端審問官よりも、拷問官としての才能があったようだな。死なないように拷問を続ける為には、相当の技術が必要だ。件の男は、新人拷問官よりよほど腕がある。おそらく、男に拷問の技を仕込んだ拷問官も職を解かれ・・男と共に殺される事だろうな。まあ、どうでもいいことだが」

「ヘクトール様は、既にディートリッヒ家に、男の処分を譲ると決めたのですね?」

「アルミン・・今回に関しては、被害はあちらが大きい。それに、件の男が死ぬなら・・誰が殺そうと問題はない筈だ?それよりも、問題はヴォルフラムだ。奴は、右手五本の指を、根元から切られた。指を失っては剣を握れない。右足首と右手首の健も斬られた。ヴォルフラムは、剣士としては死んだも同然だ。もう奴は『マテウスの騎士』を名乗れはしないだろう。ヴォルフラムは、自分の身さえ・・守れない体となってしまった訳だからな・・」

「ヘクトール様。ヴォルフラムの心は・・死ぬかも知れない。奴は『マテウスの騎士』であることに、異常に拘っていました。その資格を失った己を、ヴォルフラム自身が許せない筈だ」

アルミンの指摘は正しい。ルドルフは、姿勢よく立つヴォルフラムの姿を思いだし、暗澹たる思いに駆られていた。

不意に、ヘクトールが表情を失う。

その異変を、ルドルフとアルミンは同時に感じ取った。二人は警戒を強めて、ヘクトールの様子を伺う。

「ヴォルフラムは、穏やかに見えて気性が激しい。自死を選ぶ可能性も高いだろう。だが、ヴォルフラムには・・まだ左手が残っている。左手が残っていて幸いだった。正面から挑めば殺される。だが・・背後からなら・・殺れる筈だ。そうは思わないか?ヴォルフラムには、役割を果たすまでは・・何としても、生きてもらわなくてはならない」

「・・ヴォルフラムの役割?」

アルミンの質問に、ヘクトールは僅かに嗤った。それは冷たく背筋を凍らせるものだっだ。

「ルドルフには既に話したな?お前は、ただの妄想に過ぎないと断じたが・・俺は本気だ。ヴォルフラムに、王太子殿下を殺させる。その為の処刑計画を作成し・・処刑を実行する。お前たちに協力を要請する事もあるだろう。だが、迷いが一つある。その迷いを解消するために、お前たちの意見を聞きたい」

「ヘクトール様が迷うとは意外ですね」
「何を迷っておいでか、ヘクトール様?」

ヘクトールが、視線をマテウスに移してた。そして、優しく髪を撫でながら静かに呟いた。

「マテウスを・・この処刑計画の立案に参加させるべきかどうかで迷っている。処刑計画を進めるにあたり、マテウスの協力は不可欠だ。だが、マテウスは心が弱い・・壊れたら、もう駄目かもしれない」

「っ!」
「・・・」





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