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第四章
131 異端審問官
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◆◆◆◆◆◆
ヘクトールの口から発せられた言葉に、アルミンとルドルフが一気に殺気立った。ヘクトールは、二人に向かい不快そうに話しかける。
「何か文句でもあるのか?」
「婚約中であるマテウス様に性交を強要しているのは・・マテウス様に早く子を孕ませる為ですか?シュナーベル家の領地に閉じ込める為に孕ませる。貴方の父上がなさった行為と同じですね、ヘクトール様。グンナー様も、婚約中に孕まされた。成熟していない孕み子を孕ませれば、孕み子の弱い子宮は確実に傷つく。だが、貴方の父上はグンナー様との性交を続け三人も孕ませた。そして、グンナー様は子宮が裂けて亡くなった。その経緯を知りながら・・何故、ヘクトール様は同じ道を歩もうとされるのか!」
ルドルフの言葉に、ヘクトールは静かに殺気を纏った。ヘクトールの低い声が部屋に響く。
「ルドルフ、いい加減にしろ。マテウスは、孕み子として十分に成熟している。同意の上での性交に口を挟むな。マテウスとグンナー様を、同一視するような発言は慎め、ルドルフ」
ヘクトールの反撃に押し黙ったルドルフに代わり、アルミンが口を開く。
「兄貴はいまだにグンナー様が忘れられずに、独身でいるような奴ですよ?何を言っても無駄ですから、無視するに限ります。それよりも、ヘクトール様。今回の騒動の経緯を、教えて下さい」
「どうやら、ルドルフよりもアルミンの方が、現実主義者のようだな」
「お褒めの言葉どうも~」
ヘクトールは、アルミンから視線をマテウスに移す。よく眠っていることを確認してから、会話をはじめる。
「今回の騒動を引き起こした、異端審問官の標的が判明した。奴の狙いは、『マテウス=シュナーベル』と『ヴォルフラム = ディートリッヒ』の二人だった。二人を捕らえる為に、男は王城に乗り込んできたようだ」
「!?」
「っ!」
「当初は、教義に背き髪を染めた『ファビアン殿下』が標的だと思われていた。だが、実際には・・殿下は、二人を捕らえる為の餌にされただけのようだ」
ルドルフとアルミンは、ほぼ同時にファビアン殿下に視線を向けた。そして、その視線はマテウスの眠るベッドに向けられた。
ヘクトールは、二人の反応を見ながら静かに話を再開した。
「異端審問官は、ヴォルフラムを捕らえる事には成功した。だが、奴はその場にいなかったマテウスを捕らえ損ねた。そのため、渦中の異端審問官は、怒りを隠すことなく、マテウスを求めて王城内を探し回っていたらしい」
「異端審問官にしては、動きが不自然だな?まあ、そいつとばったり出会さずに済んで良かったけど・・」
アルミンの感想に、ヘクトールもルドルフも同意した。異端審問官の動きは、あまりに不自然で稚拙だった。
「だが、マテウスを探していた男は、予想外の展開に直面した。異端審問官がマテウスを捕らえようとしていると知り、ヴォルフラムはひどく暴れ始めた。それを押さえ込むため、仲間がその場で拷問紛いの行為を行った。その行為は、周囲の注目を集めすぎた。異端審問官は、邪魔が入る事を恐れて、ヴォルフラムだけを捕らえて、いったん王城を去る事にしたようだ」
不意に、ヘクトールが異様な殺気を放った。アルミンとルドルフは、即座に警戒してソファーから腰を浮かせた。
「・・マテウスが、その場にいなくて本当に良かった。異端審問官に囚われ、牢獄に繋がれたマテウスの姿を想像するだけで・・狂い死にしそうになる」
そう発言したヘクトールの瞳には、狂気が揺らいでいた。二人は緊張感に冷や汗をかいた。それでも、ルドルフは発言せずにはいられなかった。
「ヘクトール様、質問があります」
「なんだ、ルドルフ?」
「異端審問官は、所属する異端審問所の指示なく動く事はあり得ません。その男は、異端審問官で間違いはないのですね?」
「残念ながら、正真正銘の異端審問官だ。異端審問所も質が落ちたな・・」
ルドルフは真剣な表情で、ヘクトールに対して更に問いかける。
「私も、元は処刑人です。現役の時に、良心的な異端審問官も、悪質な異端審問官も見てきました。ですが、彼等は異端審問所に所属する役人に過ぎません。我が国では、王国か教皇庁からの指示がない限り、異端審問所も異端審問官も動きません」
「・・それで?」
「ヘクトール様は、ファビアン殿下は標的ではなかったと断言された。では、その異端審問官は、誰の指示に従い、ヴォルフラムとマテウス様を捕らえようとしたのですか?」
「俺に答えばかり求めるな、ルドルフ」
「 っ、申し訳ございません、ヘクトール様。では、幾つか推論を申し上げます。もしも、ヴォルフラム = ディートリッヒが標的ならば、王弟殿下の敵対勢力が考えられます。或いは、ディートリッヒ家の敵対勢力である可能性もなくはない。ですが、それならば・・マテウス様を、同時に標的とした意味が分かりません。フォルカー教の教会自体が、ディートリッヒ家と、シュナーベル家に対して敵対するつもりならば・・また様相は変わってはきます。ですが、今の段階でそれはまず有り得ない」
「あのさ~、ルドルフの推測を聞くよりも、俺は早く結論を知りたい。とっとと、説明してよ。ねぇ、ヘクトール様?」
◆◆◆◆◆◆
ヘクトールの口から発せられた言葉に、アルミンとルドルフが一気に殺気立った。ヘクトールは、二人に向かい不快そうに話しかける。
「何か文句でもあるのか?」
「婚約中であるマテウス様に性交を強要しているのは・・マテウス様に早く子を孕ませる為ですか?シュナーベル家の領地に閉じ込める為に孕ませる。貴方の父上がなさった行為と同じですね、ヘクトール様。グンナー様も、婚約中に孕まされた。成熟していない孕み子を孕ませれば、孕み子の弱い子宮は確実に傷つく。だが、貴方の父上はグンナー様との性交を続け三人も孕ませた。そして、グンナー様は子宮が裂けて亡くなった。その経緯を知りながら・・何故、ヘクトール様は同じ道を歩もうとされるのか!」
ルドルフの言葉に、ヘクトールは静かに殺気を纏った。ヘクトールの低い声が部屋に響く。
「ルドルフ、いい加減にしろ。マテウスは、孕み子として十分に成熟している。同意の上での性交に口を挟むな。マテウスとグンナー様を、同一視するような発言は慎め、ルドルフ」
ヘクトールの反撃に押し黙ったルドルフに代わり、アルミンが口を開く。
「兄貴はいまだにグンナー様が忘れられずに、独身でいるような奴ですよ?何を言っても無駄ですから、無視するに限ります。それよりも、ヘクトール様。今回の騒動の経緯を、教えて下さい」
「どうやら、ルドルフよりもアルミンの方が、現実主義者のようだな」
「お褒めの言葉どうも~」
ヘクトールは、アルミンから視線をマテウスに移す。よく眠っていることを確認してから、会話をはじめる。
「今回の騒動を引き起こした、異端審問官の標的が判明した。奴の狙いは、『マテウス=シュナーベル』と『ヴォルフラム = ディートリッヒ』の二人だった。二人を捕らえる為に、男は王城に乗り込んできたようだ」
「!?」
「っ!」
「当初は、教義に背き髪を染めた『ファビアン殿下』が標的だと思われていた。だが、実際には・・殿下は、二人を捕らえる為の餌にされただけのようだ」
ルドルフとアルミンは、ほぼ同時にファビアン殿下に視線を向けた。そして、その視線はマテウスの眠るベッドに向けられた。
ヘクトールは、二人の反応を見ながら静かに話を再開した。
「異端審問官は、ヴォルフラムを捕らえる事には成功した。だが、奴はその場にいなかったマテウスを捕らえ損ねた。そのため、渦中の異端審問官は、怒りを隠すことなく、マテウスを求めて王城内を探し回っていたらしい」
「異端審問官にしては、動きが不自然だな?まあ、そいつとばったり出会さずに済んで良かったけど・・」
アルミンの感想に、ヘクトールもルドルフも同意した。異端審問官の動きは、あまりに不自然で稚拙だった。
「だが、マテウスを探していた男は、予想外の展開に直面した。異端審問官がマテウスを捕らえようとしていると知り、ヴォルフラムはひどく暴れ始めた。それを押さえ込むため、仲間がその場で拷問紛いの行為を行った。その行為は、周囲の注目を集めすぎた。異端審問官は、邪魔が入る事を恐れて、ヴォルフラムだけを捕らえて、いったん王城を去る事にしたようだ」
不意に、ヘクトールが異様な殺気を放った。アルミンとルドルフは、即座に警戒してソファーから腰を浮かせた。
「・・マテウスが、その場にいなくて本当に良かった。異端審問官に囚われ、牢獄に繋がれたマテウスの姿を想像するだけで・・狂い死にしそうになる」
そう発言したヘクトールの瞳には、狂気が揺らいでいた。二人は緊張感に冷や汗をかいた。それでも、ルドルフは発言せずにはいられなかった。
「ヘクトール様、質問があります」
「なんだ、ルドルフ?」
「異端審問官は、所属する異端審問所の指示なく動く事はあり得ません。その男は、異端審問官で間違いはないのですね?」
「残念ながら、正真正銘の異端審問官だ。異端審問所も質が落ちたな・・」
ルドルフは真剣な表情で、ヘクトールに対して更に問いかける。
「私も、元は処刑人です。現役の時に、良心的な異端審問官も、悪質な異端審問官も見てきました。ですが、彼等は異端審問所に所属する役人に過ぎません。我が国では、王国か教皇庁からの指示がない限り、異端審問所も異端審問官も動きません」
「・・それで?」
「ヘクトール様は、ファビアン殿下は標的ではなかったと断言された。では、その異端審問官は、誰の指示に従い、ヴォルフラムとマテウス様を捕らえようとしたのですか?」
「俺に答えばかり求めるな、ルドルフ」
「 っ、申し訳ございません、ヘクトール様。では、幾つか推論を申し上げます。もしも、ヴォルフラム = ディートリッヒが標的ならば、王弟殿下の敵対勢力が考えられます。或いは、ディートリッヒ家の敵対勢力である可能性もなくはない。ですが、それならば・・マテウス様を、同時に標的とした意味が分かりません。フォルカー教の教会自体が、ディートリッヒ家と、シュナーベル家に対して敵対するつもりならば・・また様相は変わってはきます。ですが、今の段階でそれはまず有り得ない」
「あのさ~、ルドルフの推測を聞くよりも、俺は早く結論を知りたい。とっとと、説明してよ。ねぇ、ヘクトール様?」
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