嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

129 カールの欠片

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◆◆◆◆◆◆


ヘクトールは、優しくマテウスを見つめていた。だが、婚約者の衣装には、不満があるようだった。マテウスの肌を滑らかに包む衣服に触れながら、眉をひそめている。

ヘクトールの様子を伺っていたルドルフは、主の鋭い視線を受けて、思わず視線を反らしたくなった。

「ルドルフ・・俺を観察して、何か意味があるのか?マテウスの診察に、専念するよう言った筈だ。聞き漏らした訳ではあるまい。早急に、マテウスの診察にあたってくれ」

「失礼しました、ヘクトール様。マテウス様の診察を始めます」

「ルドルフ・・俺はマテウスの傍を離れる気はない。だが、診察の邪魔になるなら・・すぐに言え。すぐに、離れる」

「承知しました」

ルドルフは、ヘクトールの苛立ちに肝を冷やしながらも、マテウスの診察にはいる。

「それにしても、フリートヘルムの奴!確かに、説明はあった。必要に迫られ・・弟のアルトゥールの衣装を、マテウスに着用させたと、奴から報告は受けていた。俺も衣服の件に関しては、事後承諾した。だが・・肩出しの衣装を、マテウスに着せたとは聞いていないぞ!これは、俺に対する嫌がらせ行為なのか?腹立たしい!」

「それはどうですかねぇ?フリートヘルムは、マテウス様に『孕み子は、可愛い衣装が好きなのか?』と聞いていましたよ?フリートヘルムは、本気でその衣装が・・マテウス様に、似合うと思ったんじゃないですか?まあ、実際に衣装を選んだのは、ディートリッヒ家の暗部組織の奴ですけどね!」

ヘクトールは、アルミンの軽い口調の言葉に眉間にシワを寄せた。そして、苛立ちを隠さず言葉を紡ぐ。

「マテウスが・・この様な露出した格好で、王城の廊下を歩いていたのかと思うと辛い。マテウスの肌を見た奴等を、全員処分したい。まあ、一番に処分したいのは、アルミンだがな」

「うおぉ、ヘクトール様!待って下さいよ!」

「アルミン・・お前は、マテウスの露出した肩に、上着を掛ける気遣いもできなかったのか?お前は、馬鹿なのか?」

「ヘクトール様~、口が悪いです。あのですね、これには深い事情があって、どうしようもなかったんです!俺は上着の下には、シャツを着ない主義なんです。上着の下は、薄いエロ下着しか身につけていません。上着からのぞくシャツは、つけ襟なので・・上着を脱ぐと、エロ下着姿になってしまいます。マテウス様の隣を、上半身エロ下着姿の男が共に歩いていても・・平気ですかね、ヘクトール様?」

突然、ルドルフが動いた。

そして、弟のアルミンの頭を、思いっきり拳骨で殴った。アルミンは呻き声を上げながら、床にしゃがみ込む。アルミンを見下ろした後、ルドルフは急いで、マテウスが眠るベッドに向かい診察を再開する。

「兄貴、くそ痛い!!」

「アルミン。王城勤めをするならば、シャツくらいは着ろ!兄として、恥ずかしい」

「ルドルフは、全然分かってない!マテウスを護衛する為には、この格好が一番いいんだよ。動きやすくて、護衛しやすいの!」

兄弟喧嘩に終止符を打ったのは、ヘクトールの深いため息だった。

「ルドルフ、頼むから・・マテウスの診察に、専念してくれ。アルミンは、黙ってファビアン殿下を見ていろ。マテウスの眠りを妨げるようなら、もっと殿下に薬を盛っても構わない。ただし、殺すなよ。さて・・俺は、マテウスに似合う衣装を探してくる」

ヘクトールはそう言うと、仮眠室のクローゼットに向かい扉を開く。

クローゼットには、二着だけヘクトールの衣服が掛かっていた。それ以外は、マテウスの為の衣装で、大量に収納されていた。マテウスの衣装を、楽しそうに選ぶヘクトールの姿を見て、アルミンもルドルフも黙り込んだ。

そして、三人の男たちは、黙々と各自の作業に専念した。


◇◇◇◇


『マテウス、僕の名前を呼んで』
『・・・』

『マテウス、呼んで。僕の名を・・』

『・・カール』

『ようやく、僕の名前を呼んでくれたね?嬉しいよ、マテウス。でも、どうして僕の名を呼ぶことに・・抵抗を感じているの、マテウス?』

『だって、貴方は本物のカールじゃないから。過去の記憶の中のカールでもない。貴方は、私が作り出した幻の存在だから・・名を呼ぶことに、意味があるの?』

『誰だって、名を呼ばれたいものだよ?それに、僕に相談事をしたのは・・マテウスの方じゃないか。また相談事をしてよ、マテウス?』

『それに・・どんな意味があるの?貴方はカールじゃないんだよ?私が作り出した幻だもの。貴方に質問をしても、私が望む答えしか、貴方は答えられない・・そうでしょ?』

『マテウス、カールと呼んでよ。寂しいよ』

『カール・・お願い。貴方は幻だから、本物のカールに成り代わろうとしないで。それは、亡くなったカールを、侮辱することになるから』

『マテウス、殿下を処刑するの?』
『カール!』
『望んでいただろ?』

『冷静になれば・・気持ちも変わるものだよ。だって、ヴェルンハルト殿下は生きているもの。誰よりも・・その存在が生々しい。そう感じるから、迷う。彼が、ファビアン殿下の父親であることは変えられない。王太子殿下は、実の父親の陛下から常に疎まれていた。産みの親を、目の前で火刑にされた。あの人は、心を病んでいる。心を病んでる人を・・処刑しても許されるの?』

『だけど、マテウスは僕を処刑した』
『カール!』


◆◆◆◆◆

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