嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

128 ヘクトール =シュナーベル

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◆◆◆◆◆◆


「そばにいる。マテウスが目覚めるまで、手を繋いでいる。今は少し休む時だよ、マテウス。頼むから、抵抗せず・・休みなさい。お前は、いつも頑張り過ぎだ。眠りなさい、マテウス」

「あにうえ・・」

ヘクトール兄上に抱き締められたまま、俺は意識を失った。


◇◇◇◇


「ルドルフ、マテウスを仮眠室のベットに寝かせる。お前は、マテウスの診察に専念しろ」

「承知しました、ヘクトール様」

ヘクトール =シュナーベルの命令は明快だった。それ以外の意見は受けつけないだろう事は、その場にいる誰もが理解していた。だが、ルドルフ = シュナーベルは医師としての信念から、ヘクトールに意見せずにはいられなかった。

「ヘクトール様、仮眠室のベッドはダブルサイズでしたね?ファビアン殿下を共にベッドに寝かせても、十分に余裕があるはずです。マテウス様の診察と治療が終わりしだい、ファビアン殿下の診察に掛かりたいと考えております。マテウス様とファビアン殿下を、共にベッドに寝かせて治療しても宜しいでしょうか、ヘクトール様?」

「駄目だ!!」

ヘクトールの語気は強かった。冷たい殺気を宿した眼差しで、ヘクトールはルドルフを見つめる。しばらくの間、ルドルフと視線が絡む。だが、先に視線を逸らしたのはヘクトールの方だった。彼は抱きしめていたマテウスを抱き上げると、仮眠室に向かった。

「ルドルフ、仮眠室の扉を開けろ。アルミンは、仮眠室のソファーにファビアン殿下を寝かせろ」

ルドルフが仮眠室の扉を開けると、マテウスを抱いたヘクトールが先に部屋に入る。そして、ファビアン殿下を抱いたアルミン = シュナーベルが、ブツブツと文句を言いながら後に続いた。

「まあ、俺は構いませんが。ヘクトール様・・ファビアン殿下は、まだ子供ですよ?ヘクトール様は、マテウスへの独占欲が強すぎます。マテウスと殿下が同じベッドに寝ても、何も起こるはずがないでしょ。ヘクトール様じゃあるまいし」

「アルミン、マテウスはお前の主だという事を忘れるな。『マテウス様』と呼べ。それと、相手が子供だろうとも油断するな。俺は過去に相手を子供だと油断して、大きな過ちを犯した。その時に、二度と同じ過ちは犯さないと誓った。アルミン、お前はマテウスの護衛だ。相手が、子供だからといって油断をするな・・いいな?」

アルミンは膨れっ面になりながらも頷き、仮眠室の中のソファーにファビアン殿下を寝かせた。アルミンは殿下の顔を覗き込み、様子を伺う。その姿を見ていたルドルフが、アルミンに声を掛けてきた。

「ファビアン殿下は、まだ目覚めないのか?」

マテウスを仮眠室のベッドに慎重に寝かせたヘクトールは、ルドルフに代わり返事をする。

「アルミンの事だ。ファビアン殿下に薬を盛っている筈だ。違うか、アルミン?」

「よく分かりましたね、ヘクトール様?」

「親に虐待を受けて気絶したにしても、目覚めが遅すぎるからな。お前が、殿下に薬を盛り過ぎていないかが心配だ」

ヘクトールの指摘に、アルミンは肩をすくめた。マテウスの手を握りしめ、髪を優しく撫でる男を見つめながら、口を開いた。

「王太子殿下の執務机の下に隠れていたファビアン殿下は、気絶はしていませんでしたよ。ぼんやりとはしていましたけどね。でも、俺が体に触れると殿下は暴れ出しそうになったので、薬を盛ったんですよ。殿下がマテウスの救出の邪魔になっては、面倒ですからね」

「ファビアン殿下は、産みの親からも虐待を受けていた。おそらく、親から虐待を受けている間に、自分の感情を麻痺させる術を得たのだろう。そうすることで、ファビアン殿下は心を守っているのだろうな・・その気持も分からなくはない」

「シュナーベル家当主に、カール様を生贄として差し出した貴方の言葉とは思えませんね。ヘクトール様、貴方は虐待に加担した人間だ。虐待された人間の気持ちが分かるような言葉を、口にしないで頂きたい」

「黙れ、ルドルフ!」

ルドルフの言葉で仮眠室の空気は一気に緊張した。ヘクトールはピリピリとした殺気を部屋中に撒き散らす。だが、それに反応したのは、マテウスだった。苦しそうな声で、誰もが知る名を呼んだ。それは、ヘクトールの名ではなかったが、男は慌ててマテウスの手を握った。そして、優しく髪を撫でる。

「で、アルミン。殿下に盛った薬の量は把握してるのだろうな?」

ヘクトールの声から殺気は消えていた。アルミンは緊張感を解きながら、ヘクトールの質問に応じる。

「ファビアン殿下に薬を大盛りしたら、マテウス様に怒られますから・・そんな事はしませんよ。もう少し、眠った状態がつづくとは思いますよ。それより、ヘクトール様の過去の過ちとやらを知りたいですね・・後学のために」

ヘクトールはアルミンの言葉を無視すると、ルドルフに指示を出した。先のルドルフの発言は水に流すつもりだと、二人は理解して安堵の息を密かに吐いた。





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