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第四章
127 ヘクトール兄上、私は正気ですよ?
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◆◆◆◆◆
「フリートヘルム様は、とても優しい方です。私の事を、とても心配してくださいました」
俺の言葉に、ヘクトール兄上は苦い表情を浮かべた。俺は兄上の表情を不思議に思いながらも、言葉を続けた。
「しかし、少し意外ですね。フリートヘルム様には、枢機卿のお相手を頼みました。兄上に会いに来て説明と謝罪を済ませてから、枢機卿の相手をされているのかな?フリートヘルム様は、意外と動きが早いですね」
「あいつが殿下の尻だけを追う、ただのバカなら良かったんだがな。フリートヘルムは、思った以上に・・厄介な相手のようだ」
「そうなのですか?」
孕み子の対応に苦慮する、フリートヘルムの印象が強すぎて・・彼の別の一面を想像できないのだが。
「フリートヘルムは、俺に礼を尽くして謝罪をした。その上で、シュナーベル家が、王太子殿下に関わらぬように警告してきた。ヴェルンハルト殿下の身に何かが起これば、『マテウスの犯行』と断定して陛下に訴え出ると、フリートヘルムは・・俺を脅してきた」
「っ!」
「フリートヘルムは・・あの気狂いのヴェルンハルト殿下を、何としても、王座に据えるつもりらしい。それが、殿下への『愛の為』なのか、それとも、『ディートリッヒ家の繁栄の為』なのかは分からない。だが、厄介だ。フリートヘルムは、危険な存在だと認識した」
孕み子の俺の前で、おどおどした態度を取っていたフリートヘルム。その彼が、ヘクトール兄上に脅しを掛けるとは驚きだ。
だが、ディートリッヒ家の次期当主なら、危機回避に動くのは当然の行為ではあるか?
ディートリッヒ家の医師は、俺と出来るだけ接点を持たないようにしていた節があった。あれは、偏見の為だけではなく、フリートヘルムから、俺に警戒するように、指示があったのかもしれない。
まあ、でも・・俺の失態だ。フリートヘルムの警戒を招く発言を、執務室でしてしまったのだから。とにかく、ヘクトール兄上に謝らないと駄目だ。
「兄上・・いざとなれば、私を切り捨てて下さい。私は執務室内で前後不覚に陥り、その際に『処刑』という言葉を口走りました。それを、執務室に潜むディートリッヒ家の暗部組織に、聞かれた可能性があります。申し訳ありません、ヘクトール兄上」
「マテウス・・辛くなければ、もう少し詳しく、この兄に説明して欲しい」
ヘクトール兄上の真剣な声に応じて、俺は何も隠すことなく説明することにした。
「ファビアン殿下は、異端審問官から逃れて、執務机の下に身を隠しました。ですが、父親の王太子殿下は、その事にひどく腹を立て机を何度も蹴って・・ファビアン殿下に罵声を浴びせていました。その場面に出くわし・・何故か、私の意識が曖昧になりました。その時に、私はカールに出逢いました」
「カールに出会った?」
「あの、兄上・・変に思わないで下さいね?でも、本当にカールに出逢ったのです。そして、私は『殿下を処刑してもいいかな、カール?』と、弟に尋ねていました。過去に殿下とカールが、親友関係にあったのは確かだから・・カールに、尋ねたかったのです」
「マテウス・・」
「ヘクトール兄上、私は正気ですよ?そんな不安な顔をしないでください。私と会話したカールは、幻だと認識しています。そのあと、私は意識を取り戻しました。でも、不覚にも私は口走ってしまった・・『処刑』の件を。誰を処刑するかを、口にした記憶はありません。ですが、私の完全なミスです。ごめんなさい、ヘクトール兄上」
「何があろうと、俺はマテウスを、切り捨てたりはしない。ディートリッヒ家が、シュナーベル家と敵対するつもりなら、此方も相手の弱点を突くまでだ。マテウス・・『処刑』は俺が引き受ける。お前は、この件に関わらないようにするんだ・・いいね?」
「兄上!私はまだ、答えを得ていません。カールは、何も答えてはくれなかった。私自身も、まだ何も、決めきれていないのです。ただ、運命は巡り、いずれは決断をしなくては。でも、私は・・っ!」
首にチクリと痛みが走った。振り返ると、ルドルフおじさまが、小さな注射器を手にしていた。
急激に睡魔が襲う。
「兄上・・いやだ、怖い。眠りたくない」
「そばにいる。マテウスが目覚めるまで、手を繋いでいる。今は少し休む時だよ、マテウス。頼むから、抵抗せず・・休みなさい。お前は、いつも頑張り過ぎだ。眠りなさい、マテウス」
「あにうえ・・」
俺はヘクトール兄上の腕の中で意識を失った。
◆◆◆◆◆
「フリートヘルム様は、とても優しい方です。私の事を、とても心配してくださいました」
俺の言葉に、ヘクトール兄上は苦い表情を浮かべた。俺は兄上の表情を不思議に思いながらも、言葉を続けた。
「しかし、少し意外ですね。フリートヘルム様には、枢機卿のお相手を頼みました。兄上に会いに来て説明と謝罪を済ませてから、枢機卿の相手をされているのかな?フリートヘルム様は、意外と動きが早いですね」
「あいつが殿下の尻だけを追う、ただのバカなら良かったんだがな。フリートヘルムは、思った以上に・・厄介な相手のようだ」
「そうなのですか?」
孕み子の対応に苦慮する、フリートヘルムの印象が強すぎて・・彼の別の一面を想像できないのだが。
「フリートヘルムは、俺に礼を尽くして謝罪をした。その上で、シュナーベル家が、王太子殿下に関わらぬように警告してきた。ヴェルンハルト殿下の身に何かが起これば、『マテウスの犯行』と断定して陛下に訴え出ると、フリートヘルムは・・俺を脅してきた」
「っ!」
「フリートヘルムは・・あの気狂いのヴェルンハルト殿下を、何としても、王座に据えるつもりらしい。それが、殿下への『愛の為』なのか、それとも、『ディートリッヒ家の繁栄の為』なのかは分からない。だが、厄介だ。フリートヘルムは、危険な存在だと認識した」
孕み子の俺の前で、おどおどした態度を取っていたフリートヘルム。その彼が、ヘクトール兄上に脅しを掛けるとは驚きだ。
だが、ディートリッヒ家の次期当主なら、危機回避に動くのは当然の行為ではあるか?
ディートリッヒ家の医師は、俺と出来るだけ接点を持たないようにしていた節があった。あれは、偏見の為だけではなく、フリートヘルムから、俺に警戒するように、指示があったのかもしれない。
まあ、でも・・俺の失態だ。フリートヘルムの警戒を招く発言を、執務室でしてしまったのだから。とにかく、ヘクトール兄上に謝らないと駄目だ。
「兄上・・いざとなれば、私を切り捨てて下さい。私は執務室内で前後不覚に陥り、その際に『処刑』という言葉を口走りました。それを、執務室に潜むディートリッヒ家の暗部組織に、聞かれた可能性があります。申し訳ありません、ヘクトール兄上」
「マテウス・・辛くなければ、もう少し詳しく、この兄に説明して欲しい」
ヘクトール兄上の真剣な声に応じて、俺は何も隠すことなく説明することにした。
「ファビアン殿下は、異端審問官から逃れて、執務机の下に身を隠しました。ですが、父親の王太子殿下は、その事にひどく腹を立て机を何度も蹴って・・ファビアン殿下に罵声を浴びせていました。その場面に出くわし・・何故か、私の意識が曖昧になりました。その時に、私はカールに出逢いました」
「カールに出会った?」
「あの、兄上・・変に思わないで下さいね?でも、本当にカールに出逢ったのです。そして、私は『殿下を処刑してもいいかな、カール?』と、弟に尋ねていました。過去に殿下とカールが、親友関係にあったのは確かだから・・カールに、尋ねたかったのです」
「マテウス・・」
「ヘクトール兄上、私は正気ですよ?そんな不安な顔をしないでください。私と会話したカールは、幻だと認識しています。そのあと、私は意識を取り戻しました。でも、不覚にも私は口走ってしまった・・『処刑』の件を。誰を処刑するかを、口にした記憶はありません。ですが、私の完全なミスです。ごめんなさい、ヘクトール兄上」
「何があろうと、俺はマテウスを、切り捨てたりはしない。ディートリッヒ家が、シュナーベル家と敵対するつもりなら、此方も相手の弱点を突くまでだ。マテウス・・『処刑』は俺が引き受ける。お前は、この件に関わらないようにするんだ・・いいね?」
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首にチクリと痛みが走った。振り返ると、ルドルフおじさまが、小さな注射器を手にしていた。
急激に睡魔が襲う。
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「そばにいる。マテウスが目覚めるまで、手を繋いでいる。今は少し休む時だよ、マテウス。頼むから、抵抗せず・・休みなさい。お前は、いつも頑張り過ぎだ。眠りなさい、マテウス」
「あにうえ・・」
俺はヘクトール兄上の腕の中で意識を失った。
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