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第四章
126 マテウスを優先しろ
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◆◆◆◆◆◆
気がつくと、俺たちはヘクトール兄上の執務室の前にたどり着いていた。不意に、アルミンがニヤニヤと笑いだす。
「何でニヤニヤしてるの、アルミン?」
「いやぁ、全く似合っていないマテウスの肩だし衣装を見て・・ヘクトール様が、どんな反応を示すかが楽しみだ~」
「兄上なら、きっと私を見て『可愛い』と言って下さるはず!兄上の目は腐っているから、大丈夫!間違いない!」
「何か掛けるか?」
「いいよ。兄上が可愛いと言ってくれなかったら、アルミンの欲しいものをあげる」
「では、俺の額に口付けをくれ、マテウス」
「っ!」
「のるか?」
「アルミンの意地悪」
「マテウスの性悪男」
「わかった、のるよ。ただし、アルミンが負けたら・・後で何か要求するから。今は思いつかないから、後で要求するからね」
「後で何か要求するって、ずり~!」
「いくよ、アルミン!」
◇◇◇
俺は兄上の執務室の扉を、静かにノックした。そして、室内からの許可が下りる前に、俺は執務室の扉を開き中に入った。
俺は執務室の扉の前で、出来るだけ優雅に見えるように最敬礼をした。最敬礼をすると、執務室の床しか見えない。でも、兄上の反応が怖いので・・まずは、この態勢から入ることにした。
俺は可愛らしい声を意識して、ヘクトール兄上にゆっくりと話しかける。全ては、兄上の『可愛い』の言葉を得るため。全力を尽くす!
「ヘクトール兄さま。もしも、私を心から愛しいと想って下さっているなら・・どうか、愛の証として、マテウスの我が儘を全て叶えてくださいませ。もしも、我が儘を聞き入れて下さるなら、私も兄上への愛の証として・・身も心も全て差し上げます、あにうえ」
執務室に沈黙が落ちた。
ん??
兄上からの反応がない。しまった!言葉遊びが過ぎて、兄上に呆れられたのかも?あるいは、この衣装が似合わなすぎて、言葉を失ってしまったのかもしれない。
俺は恐る恐る、執務室の床から視線を上げた。
「あぅ、ルドルフおじさま!!」
執務室のソファーには、ヘクトール兄上と主治医のルドルフおじさまが座っていた。ほぼ同時に、二人と視線が絡み、俺は顔が真っ赤になった。
執務室での兄上のイメージ像は、孤独に仕事をこなすイケテル男だった。だが、部下や、時には、ルドルフおじさまが、執務室に居たとしても何もおかしくはない。その事を、失念していた・・完全に。
「うにぁ、あにうえ・・あの、その」
不意に、ルドルフおじさまが立ち上がる。そして、上着を脱ぎながらこちらに近づいてくる。俺は思わず後退りしてしまった。
「マテウス様。もしも、この場が舞踏会ならば・・私は、迷わずマテウス様にダンスを申し込む事でしょう。不得手なステップを誤魔化しながら、貴方の前では・・必死に、良い男を演じるに違いない」
「ルドルフ様」
ルドルフがにこりと笑い、俺の露出した肩に上着を掛けてくれた。ルドルフは香水をつけているのか、彼の上着からは微かに良い香りがした。俺が顔を赤らめて、ルドルフおじさまを見つめると、彼は少し困った表情を浮かべた。
「ですが、私はマテウス様の主治医です。肩を冷やす衣装は・・舞踏会の時だけになさいと、アドバイスせねばなりません。それに、首が赤い。ヘクトール様から理由も伝えられず、急に呼び出され不審に思っていましたが、ようやく状況を把握しました。さあ、マテウス様・・仮眠室で、診察させてください」
「ルドルフおじさまは、ヘクトール兄上に呼び出されたのですね?では、兄上は、殿下の執務室での騒動を、把握されておられる訳ですね。良かった!では、説明を省きます。ルドルフ様、まずは、私ではなく、ファビアン殿下の治療を優先してください。先程から気を失ったまま、目を覚まさないのです。心に大きな傷を負った殿下を、先に診察してください、お願いしますね、ルドルフ様!」
「ルドルフ、マテウスを優先しろ」
兄上の声は鋭く、一気に部屋の主導権を握った。俺は驚きを隠すことなく、ソファーに座るヘクトール兄上に視線を向けた。
「兄上、私は平気です。ファビアン殿下の治療を、優先してください!」
「駄目だ!」
ヘクトール兄上は突然立ち上がり、大股で俺に近づく。あまりの勢いに驚き、俺はアルミンの腕を掴もうとして左手をさ迷わせた。
だが、兄上にその左手を掴まれ、その胸に抱き寄せられた。戸惑い僅かに肩を震わせた俺を、ヘクトール兄上は強く抱き締める。
「兄上、私は・・」
「頼むから・・俺の前でまで、平気なふりはしないでくれ、マテウス。お前が王太子殿下から・・酷い仕打ちを受けた事は、フリートヘルムから聞き及んでいる。先程、ディートリッヒ家の次期当主が、俺の執務室を訪ねてきた。フリートヘルムは、今回の出来事の発端と、詳しい状況を説明していった。そして、お前を騒動に巻き込んだ事を、彼は俺に謝罪していった」
「フリートヘルム様は、とても優しい方です。私の事を、とても心配してくださいました」
俺の言葉に、ヘクトール兄上は苦い表情を浮かべた。
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気がつくと、俺たちはヘクトール兄上の執務室の前にたどり着いていた。不意に、アルミンがニヤニヤと笑いだす。
「何でニヤニヤしてるの、アルミン?」
「いやぁ、全く似合っていないマテウスの肩だし衣装を見て・・ヘクトール様が、どんな反応を示すかが楽しみだ~」
「兄上なら、きっと私を見て『可愛い』と言って下さるはず!兄上の目は腐っているから、大丈夫!間違いない!」
「何か掛けるか?」
「いいよ。兄上が可愛いと言ってくれなかったら、アルミンの欲しいものをあげる」
「では、俺の額に口付けをくれ、マテウス」
「っ!」
「のるか?」
「アルミンの意地悪」
「マテウスの性悪男」
「わかった、のるよ。ただし、アルミンが負けたら・・後で何か要求するから。今は思いつかないから、後で要求するからね」
「後で何か要求するって、ずり~!」
「いくよ、アルミン!」
◇◇◇
俺は兄上の執務室の扉を、静かにノックした。そして、室内からの許可が下りる前に、俺は執務室の扉を開き中に入った。
俺は執務室の扉の前で、出来るだけ優雅に見えるように最敬礼をした。最敬礼をすると、執務室の床しか見えない。でも、兄上の反応が怖いので・・まずは、この態勢から入ることにした。
俺は可愛らしい声を意識して、ヘクトール兄上にゆっくりと話しかける。全ては、兄上の『可愛い』の言葉を得るため。全力を尽くす!
「ヘクトール兄さま。もしも、私を心から愛しいと想って下さっているなら・・どうか、愛の証として、マテウスの我が儘を全て叶えてくださいませ。もしも、我が儘を聞き入れて下さるなら、私も兄上への愛の証として・・身も心も全て差し上げます、あにうえ」
執務室に沈黙が落ちた。
ん??
兄上からの反応がない。しまった!言葉遊びが過ぎて、兄上に呆れられたのかも?あるいは、この衣装が似合わなすぎて、言葉を失ってしまったのかもしれない。
俺は恐る恐る、執務室の床から視線を上げた。
「あぅ、ルドルフおじさま!!」
執務室のソファーには、ヘクトール兄上と主治医のルドルフおじさまが座っていた。ほぼ同時に、二人と視線が絡み、俺は顔が真っ赤になった。
執務室での兄上のイメージ像は、孤独に仕事をこなすイケテル男だった。だが、部下や、時には、ルドルフおじさまが、執務室に居たとしても何もおかしくはない。その事を、失念していた・・完全に。
「うにぁ、あにうえ・・あの、その」
不意に、ルドルフおじさまが立ち上がる。そして、上着を脱ぎながらこちらに近づいてくる。俺は思わず後退りしてしまった。
「マテウス様。もしも、この場が舞踏会ならば・・私は、迷わずマテウス様にダンスを申し込む事でしょう。不得手なステップを誤魔化しながら、貴方の前では・・必死に、良い男を演じるに違いない」
「ルドルフ様」
ルドルフがにこりと笑い、俺の露出した肩に上着を掛けてくれた。ルドルフは香水をつけているのか、彼の上着からは微かに良い香りがした。俺が顔を赤らめて、ルドルフおじさまを見つめると、彼は少し困った表情を浮かべた。
「ですが、私はマテウス様の主治医です。肩を冷やす衣装は・・舞踏会の時だけになさいと、アドバイスせねばなりません。それに、首が赤い。ヘクトール様から理由も伝えられず、急に呼び出され不審に思っていましたが、ようやく状況を把握しました。さあ、マテウス様・・仮眠室で、診察させてください」
「ルドルフおじさまは、ヘクトール兄上に呼び出されたのですね?では、兄上は、殿下の執務室での騒動を、把握されておられる訳ですね。良かった!では、説明を省きます。ルドルフ様、まずは、私ではなく、ファビアン殿下の治療を優先してください。先程から気を失ったまま、目を覚まさないのです。心に大きな傷を負った殿下を、先に診察してください、お願いしますね、ルドルフ様!」
「ルドルフ、マテウスを優先しろ」
兄上の声は鋭く、一気に部屋の主導権を握った。俺は驚きを隠すことなく、ソファーに座るヘクトール兄上に視線を向けた。
「兄上、私は平気です。ファビアン殿下の治療を、優先してください!」
「駄目だ!」
ヘクトール兄上は突然立ち上がり、大股で俺に近づく。あまりの勢いに驚き、俺はアルミンの腕を掴もうとして左手をさ迷わせた。
だが、兄上にその左手を掴まれ、その胸に抱き寄せられた。戸惑い僅かに肩を震わせた俺を、ヘクトール兄上は強く抱き締める。
「兄上、私は・・」
「頼むから・・俺の前でまで、平気なふりはしないでくれ、マテウス。お前が王太子殿下から・・酷い仕打ちを受けた事は、フリートヘルムから聞き及んでいる。先程、ディートリッヒ家の次期当主が、俺の執務室を訪ねてきた。フリートヘルムは、今回の出来事の発端と、詳しい状況を説明していった。そして、お前を騒動に巻き込んだ事を、彼は俺に謝罪していった」
「フリートヘルム様は、とても優しい方です。私の事を、とても心配してくださいました」
俺の言葉に、ヘクトール兄上は苦い表情を浮かべた。
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