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第四章
124 処刑対象の名と、処刑の許可をくれ
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◆◆◆◆◆
アルトゥール= ディートリッヒは、王太子殿下の妃候補である。彼が王城に妃候補として現れ、同時に俺が妃候補を外され王城を去ることになった。
アルトゥールにあまり良い印象はないが、まさか彼の衣服を借りる日が訪れようとは思いもしなかった。
「アルトゥール様の衣服・・最高の生地を使っている。このさらりとしながら、肌にしっとり馴染む感じ・・上質の絹はいいよね」
「マテウス・・着替えは終わったのか?」
「あ、早く見たいの、アルミン?」
「早着替えが得意なんだろ?もう、振り返るからな。文句言うなよっと、・・んっ!」
アルミンが振り返り、俺を見て黙り込んでしまった。わかってる、分かってるから、アルミン。オフショルダーのデザインなんて、俺は普段着ないから・・完全にビビったな?
絹の光沢と質感を生かした、オフショルダーのロングドレス。ドレスの深いスリットからチラリと見える異素材の細身パンツ。孕み子の華奢な体格を、最大限に生かしたパンツスタイルだ。
だがこれは、アルトゥールをイメージしてデザインされた衣装だ。だから、俺に似合わなくても、俺の罪ではないはずだ!だから、沈黙はやめて、アルミン!
「アルミン・・似合う?」
「マテウス、すまない」
何故謝る!そんなに俺の肩だしスタイルはヤバイのか。ヤバイよな。泣きたくなってきた。孕み子なのに、孕み子の衣装が似合わなすぎて泣ける。
「アルミン」
「殿下が首を絞めから、首が赤くなってる」
「あっ!」
俺は思わず、首に手をやった。フリートヘルムと、この衣装を用意した部下に配慮不足を訴えたかった。詰め襟はなかったのか!
「目立つ?」
「首だから少し目を引く。マテウス、すまなかった」
アルミンが妙に暗い表情を浮かべて謝る。俺は、アルミンに話しかけた。
「アルミン、謝るの二回目。どうしたの?」
「ヴェルンハルト殿下がお前を襲った時、殿下はマテウスの喉元に親指を宛がっていた」
「そうなの?私は首に手を宛がわれて、怖かったって感覚しかなかったな?」
「俺も怖かった」
「アルミン?」
「殿下の親指の位置が、最悪の場所を捉えていた。そこを潰されたら、マテウスは一生声を失うところだった。それ以上の後遺症も考えられた。そう思うと・・動けなかった。俺はマテウスの護衛なのに、俺は殿下からマテウスを救う事ができなかった」
「アルミン、私は無事だよ?傷ついてはいないよ?大丈夫だから、アルミン。それに、アルミンはファビアン殿下を救ってくれた。それで、十分に役割を果たしてくれたよ?」
アルミンはファビアン殿下を抱いたまま、俺に身を寄せた。肩を震わせた俺に、アルミンが耳元でささやく。
「十分じゃない・・お前は殿下に襲われて、泣いていた。ひどく怯えて震えていた。もう、あんな姿は見たくない。お前は言っていたよな?なあ、マテウスはカールに会って処刑していいかを聞いたんだろ?そして、答えを貰った。マテウス、処刑対象の名と、処刑の許可をくれ」
「アルミン!」
「ディートリッヒ家の医者が、薬の量を取り違えるだけだ。その医師が罪を背負って処刑されるだけ。何の問題もない・・シュナーベル家には迷惑は掛けない。俺なら、うまくやれる」
「駄目だよ」
「俺はうまくやれる」
「アルミン、貴方では無理だよ。失敗する。だって、殿下を殺す人物は既に決まっているから。運命に抗って、アルミンを喪うなんてできない。私の傍にいて、アルミン」
「ただ、お前の傍にいろと命じるのか、マテウス?もう、お前だって、俺の気持ちは分かっているだろ?本当は、お前が欲しかった。昔も、今も。幼馴染みではないマテウスが欲しかった。お前はヘクトール様に抱かれる度に、シュナーベル家の孕み子として成熟していく。お前が撒き散らす血脈の流れを受け続けて・・平気でいられる奴なんて一人もいない。ヴェルンハルト殿下もおそらく、」
俺はアルミンの頬を叩いていた。そして、アルミンからファビアン殿下を奪い取る。
「子供の頃の私は、何時もアルミンに抱きついていたね?今も抱きつくけど。でも、最近気がついた。アルミンが放つ香りは、貴方の血脈の流れだって。もしかすると、兄上より・・アルミンの方が、シュナーベル家の血脈が濃く流れているかもしれない。本家に尤も近い一族だからかな。だから、怖い。一度交われば、私たちは離れがたくなる」
「マテウス」
「一線は越えない。兄上を裏切らない。だって、兄上はシュナーベル家の血脈を愛している訳じゃないから。私自身と愛し合いたいと・・努力をしてくれている。不器用なヘクトール兄上を、一人にはできない」
「・・俺は一人にするのか、マテウス?」
「アルミン、シュナーベル家直系の人間として命じます。私が、ディートリッヒ家の医者を執務室に招き入れます。その医師が王太子殿下の治療に専念するために、私たちは執務室を退出します。その時間を利用して、アルミンと私は・・兄上の執務室に向かいます。私の命令に応じなさい、アルミン!」
アルミンが俺の前で膝をつき頭を垂れた。
「・・マテウス様、失礼しました。護衛役に戻ります。先程の言葉はお忘れ下さい」
「っ!」
「マテウス様?」
「・・忘れられると思うの、アルミン?」
「その言葉は、私にとり酷な言葉だとお分かりですか、マテウス様?」
「わかっている。それでも・・忘れたくない。アルミンの想いを忘れたくない。私は、性悪男だから・・許して」
不意に、アルミンがにやりと笑った。
「では、幼馴染みに戻ることを許してくれ。はい、ファビアン殿下は俺が抱っこするから。マテウスは、その恥ずかしい肩だし衣装で、ヘクトール様を悩殺しに行け!」
「アルミン~」
俺はアルミンの優しさに泣き出しそうになってしまった。我が儘が過ぎると、いつか付けを払う時が来るだろう。その時まで、もう少しこのままでいさせて。
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アルトゥール= ディートリッヒは、王太子殿下の妃候補である。彼が王城に妃候補として現れ、同時に俺が妃候補を外され王城を去ることになった。
アルトゥールにあまり良い印象はないが、まさか彼の衣服を借りる日が訪れようとは思いもしなかった。
「アルトゥール様の衣服・・最高の生地を使っている。このさらりとしながら、肌にしっとり馴染む感じ・・上質の絹はいいよね」
「マテウス・・着替えは終わったのか?」
「あ、早く見たいの、アルミン?」
「早着替えが得意なんだろ?もう、振り返るからな。文句言うなよっと、・・んっ!」
アルミンが振り返り、俺を見て黙り込んでしまった。わかってる、分かってるから、アルミン。オフショルダーのデザインなんて、俺は普段着ないから・・完全にビビったな?
絹の光沢と質感を生かした、オフショルダーのロングドレス。ドレスの深いスリットからチラリと見える異素材の細身パンツ。孕み子の華奢な体格を、最大限に生かしたパンツスタイルだ。
だがこれは、アルトゥールをイメージしてデザインされた衣装だ。だから、俺に似合わなくても、俺の罪ではないはずだ!だから、沈黙はやめて、アルミン!
「アルミン・・似合う?」
「マテウス、すまない」
何故謝る!そんなに俺の肩だしスタイルはヤバイのか。ヤバイよな。泣きたくなってきた。孕み子なのに、孕み子の衣装が似合わなすぎて泣ける。
「アルミン」
「殿下が首を絞めから、首が赤くなってる」
「あっ!」
俺は思わず、首に手をやった。フリートヘルムと、この衣装を用意した部下に配慮不足を訴えたかった。詰め襟はなかったのか!
「目立つ?」
「首だから少し目を引く。マテウス、すまなかった」
アルミンが妙に暗い表情を浮かべて謝る。俺は、アルミンに話しかけた。
「アルミン、謝るの二回目。どうしたの?」
「ヴェルンハルト殿下がお前を襲った時、殿下はマテウスの喉元に親指を宛がっていた」
「そうなの?私は首に手を宛がわれて、怖かったって感覚しかなかったな?」
「俺も怖かった」
「アルミン?」
「殿下の親指の位置が、最悪の場所を捉えていた。そこを潰されたら、マテウスは一生声を失うところだった。それ以上の後遺症も考えられた。そう思うと・・動けなかった。俺はマテウスの護衛なのに、俺は殿下からマテウスを救う事ができなかった」
「アルミン、私は無事だよ?傷ついてはいないよ?大丈夫だから、アルミン。それに、アルミンはファビアン殿下を救ってくれた。それで、十分に役割を果たしてくれたよ?」
アルミンはファビアン殿下を抱いたまま、俺に身を寄せた。肩を震わせた俺に、アルミンが耳元でささやく。
「十分じゃない・・お前は殿下に襲われて、泣いていた。ひどく怯えて震えていた。もう、あんな姿は見たくない。お前は言っていたよな?なあ、マテウスはカールに会って処刑していいかを聞いたんだろ?そして、答えを貰った。マテウス、処刑対象の名と、処刑の許可をくれ」
「アルミン!」
「ディートリッヒ家の医者が、薬の量を取り違えるだけだ。その医師が罪を背負って処刑されるだけ。何の問題もない・・シュナーベル家には迷惑は掛けない。俺なら、うまくやれる」
「駄目だよ」
「俺はうまくやれる」
「アルミン、貴方では無理だよ。失敗する。だって、殿下を殺す人物は既に決まっているから。運命に抗って、アルミンを喪うなんてできない。私の傍にいて、アルミン」
「ただ、お前の傍にいろと命じるのか、マテウス?もう、お前だって、俺の気持ちは分かっているだろ?本当は、お前が欲しかった。昔も、今も。幼馴染みではないマテウスが欲しかった。お前はヘクトール様に抱かれる度に、シュナーベル家の孕み子として成熟していく。お前が撒き散らす血脈の流れを受け続けて・・平気でいられる奴なんて一人もいない。ヴェルンハルト殿下もおそらく、」
俺はアルミンの頬を叩いていた。そして、アルミンからファビアン殿下を奪い取る。
「子供の頃の私は、何時もアルミンに抱きついていたね?今も抱きつくけど。でも、最近気がついた。アルミンが放つ香りは、貴方の血脈の流れだって。もしかすると、兄上より・・アルミンの方が、シュナーベル家の血脈が濃く流れているかもしれない。本家に尤も近い一族だからかな。だから、怖い。一度交われば、私たちは離れがたくなる」
「マテウス」
「一線は越えない。兄上を裏切らない。だって、兄上はシュナーベル家の血脈を愛している訳じゃないから。私自身と愛し合いたいと・・努力をしてくれている。不器用なヘクトール兄上を、一人にはできない」
「・・俺は一人にするのか、マテウス?」
「アルミン、シュナーベル家直系の人間として命じます。私が、ディートリッヒ家の医者を執務室に招き入れます。その医師が王太子殿下の治療に専念するために、私たちは執務室を退出します。その時間を利用して、アルミンと私は・・兄上の執務室に向かいます。私の命令に応じなさい、アルミン!」
アルミンが俺の前で膝をつき頭を垂れた。
「・・マテウス様、失礼しました。護衛役に戻ります。先程の言葉はお忘れ下さい」
「っ!」
「マテウス様?」
「・・忘れられると思うの、アルミン?」
「その言葉は、私にとり酷な言葉だとお分かりですか、マテウス様?」
「わかっている。それでも・・忘れたくない。アルミンの想いを忘れたくない。私は、性悪男だから・・許して」
不意に、アルミンがにやりと笑った。
「では、幼馴染みに戻ることを許してくれ。はい、ファビアン殿下は俺が抱っこするから。マテウスは、その恥ずかしい肩だし衣装で、ヘクトール様を悩殺しに行け!」
「アルミン~」
俺はアルミンの優しさに泣き出しそうになってしまった。我が儘が過ぎると、いつか付けを払う時が来るだろう。その時まで、もう少しこのままでいさせて。
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