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第四章

123 枢機卿を放置!?

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◆◆◆◆◆◆


「枢機卿を放置!?」

フリートヘルムは、よほど驚いたのかこちらを振り返った。そして、王国旗を裸に巻き付けた俺の姿に初めて気がついたようだ。

「う、ぁあ!」
「あ、怒りました?」

あわててフリートヘルムが視線を反らす。

「ち、違う。王国旗が・・その、似合っている。だが、不敬には違いない。枢機卿に関しては、俺が対応するとしよう。マテウス卿には、その間に着替えを済ませて頂きたい。その後は、シュナーベル家の次期当主に、全ての判断を委ねて、貴方は邸にお帰りになり、ゆっくりと休まれるとよい」

「・・え?」
「マテウス卿、何か問題でも?」

「フリートヘルム様、私は邸に帰るつもりはありません。ヘクトール兄上には、ファビアン殿下を預けるつもりです。ですが、兄上に全ての判断を委ねるような事は致しません」

「しかし、ヘクトール卿は貴方の婚約者だ。おそらく、今のマテウス卿を見れば・・婚約者ならば、邸に帰し休息をとらせるはず。婚約者の判断に従い行動する事は、孕み子として正しい行いだと思うのだが?」

「私と兄上は婚約はしていますが、互いに自立した関係です。それぞれの行動を縛り合う関係ならば、私は即座に兄上に婚約の解消を願い出ています」

フリートヘルムはしばらくためらいを見せた後に、俺に話しかけてきた。

「マテウス卿、婚約や婚姻関係とは・・少なからず、お互いの行動を縛り合う関係のはずだ。その事を全く考慮していないマテウス卿が、ヘクトール卿の婚約者でいられるのは・・兄であるヘクトール卿が、かなりの譲歩をされているからではないのか?だが、その関係性は兄弟だからこそ、成立しているように思える。マテウス卿、貴方には『兄弟愛』と『伴侶の愛』の区別が付いておいでか?マテウス卿が、伴侶としてヘクトール卿を愛しておいでとは、俺にはどうしても思えない」

「なっ!」

俺はあまりの言いように、フリートヘルムに近づこうとした。だが、それを制したのは、アルミンだった。アルミンは僅かに殺気を放ちながら、ゆっくりと口を開いた。

「フリートヘルム様・・王太子殿下のあまりの不甲斐なさに、殿下への愛が冷めたのですか?それで、すぐさま孕み子に鞍替え?どうやら、貴方の殿下に対する愛は、余りに薄っぺらで内容がなかったようですね。そんな『愛』しか経験をしていない人間に、マテウス様の『愛』を語る資格はない。主に謝って頂きたい!」

アルミンは、冷たくも殺気だった声でいい放った。俺が苛立つのはわかるが、アルミンがここまで殺気だち、苛立つ理由が分からなかった。

「アルミン」
「っ!」

俺がアルミンの腕を掴むと、彼はびくりと震えた。アルミンの殺気がゆっくりと霧散する。

「失礼した、マテウス卿。ただ、貴方には休息が必要だと思っただけです。後の話は不要なものだった・・謝ります。アルミン殿の指摘通り、俺自身が愛に振り回されている状態だ。マテウス卿に、何かを言える立場ではなかった」

フリートヘルムは、それだけ言うと扉に向かい歩きだした。そして、扉を少し開けて廊下の様子を伺い、すぐに扉を閉めてしまった。

だが、フリートヘルムは、遠目からでも上質とわかる衣服を手に持っていた。彼は俺から視線を反らせながら、話しかけてきた。

「確かに、廊下に枢機卿らしき方がいらした。枢機卿は教会に籠りきりだと聞いていたが・・彼がクリスティアン = バイラントで間違いないか、マテウス卿?」

「本人は、そう名乗ってました。お忍びのようで、城内の最古の教会に母方の先祖の墓があるとのことです。そこを静かに訪れて、お参りしたいと仰っていました」

「成る程・・では、枢機卿の相手は俺がする。医師を仮眠室に通したいが、このままでは無理だな。マテウス卿、悪いが早めに衣服を着替えてもらえるとありがたい」

「早着替えは、私の得意技です!お任せ下さい。アルミン、衣服をフリートヘルム様から受け取ってきて」

「了解~」

アルミンは軽い調子で返事をしたが、行動自体は素早かった。フリートヘルムの手から衣服をもぎ取ると、俺に向かい投げてきた。なんとか受け止めたが、危うく落とすところだったぞ!

「マテウス、傍にいていいか?」

俺は手にした衣服のデザインを確認しながら、返事をした。

「そうだね、アルミンは傍にいて。ただし、着替えは見ないように。私の白い肌に見とれて、ファビアン殿下を落っことしたら、鞭で打つからね!」

「あり得ねー、見たくねー」
「だったら、黙ってて」
「了解」

不意に、フリートヘルムが咳払いをした。そして、何故か動揺気味に話し掛けてきた。

「アルミン殿も残るのか?」
「俺はマテウス様の護衛ですから当然残ります。問題でもありますか?」

「・・いや、ない。では、俺は執務室から出て、枢機卿の相手をしてくる。マテウス卿は、着替えが終わりしだい、医師を執務室に入れて貰えるだろうか?」

「はい、承知しています」

「できれば、マテウス卿も、医師の診察を受けて欲しい。殿下をすぐに止められず、すまなかった。殿下が、マテウス卿の喉元に指を宛がっていてためらった。言い訳に過ぎないな。では、また後で」

フリートヘルムは、そう声を掛けて執務室を後にした。俺は思わず、首に手を宛がっていた。


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