上 下
84 / 239
第四章

119 アルミン、私は正気です

しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆


『殿下を処刑してもいいかな、カール?』

◇◇◇◇

「マテウス、意識を飛ばすな!」
「・・?」

「俺の声を聞け、マテウス!頼むから、今は正気を保ってくれ。俺の指示に従ってくれ」

目の前にアルミンがいた。俺は首を傾げながら、幼馴染みの名を呼んだ。

「アルミン?」

「マテウス、正気に戻ったか!良かった。状況はわかるか、マテウス?お前の意識がぶっ飛んでる間に、執務室の壁際に避難した」

なるほど。アルミンと共に、床に転がっていた記憶はある。今は執務室の壁に凭れて、床に座り込んでいる。アルミンが意識のとんだ俺を、移動させてくれたようだ。

「ありがとう、アルミン。現状は把握した」

「良かった!これで、俺も自由に動ける。マテウスの事だから、ファビアン殿下を避難させろと俺に命じるだろ?仕方ないから行ってくる。マテウスから一時的に離れる。だが、すぐに戻る。お前は、ここから動かない。いいな?」

「分かった。動かない。そうだ、カールに会ったよ、アルミン!だから、カールにね聞いたの・・殿下の事を」

「え?」

「だから、カールに会ったから、殿下の事を相談したんだってば、アルミン!だって、カールと殿下はやっぱり親友だったと思うから、処刑を・・ん、あれ??」

視線の先で、ヴェルンハルト殿下とフリートヘルム = ディートリッヒが、掴み合いの喧嘩をしていた。いや、肉弾戦になってる。

「マテウス、予定変更だ。このまま、お前を連れて執務室から離脱する」

「待って、アルミン。うおぉ、フリートヘルムが、殿下を殴った!なんだ、この状況は!?」

「マテウス、抱き上げるから大人しくしろ」
「嫌だ、やめて!」
「マテウス!」

俺は何故か、アルミンに抵抗していた。抵抗しながら、殿下とフリートヘルムの姿を目で追っていた。彼等は叫び合いながら、殴り合っていた。

だが、彼らの殴り合いは、一方的なものなのだとすぐに気がついた。

フリートヘルムが殿下を殴ったのは、先の一度きりのようだ。フリートヘルムの方は、殿下に好きなように殴らせている。そして、殿下の攻撃を避けることもなく、全て体で打撃を受け止めていた。

「フリートヘルム!貴様、王太子の俺を殴るとは正気か!ディートリッヒ家の嫡男が、王族に刃向かうつもりか!白豚の分際で!」

ヴェルンハルト殿下の拳が、フリートヘルムの脇腹に命中する。フリートヘルムは顔を歪めながらも、殿下の襟を掴み引き寄せた。

「手加減をして殴るのは、なかなか難しいものです、殿下。私が本気で殴る前に、殿下は自身の行動の過ちを振り返り反省して頂きたい」

殿下はフリートヘルムを睨んだまま、襟を掴むフリートヘルムの手を払いのけた。

「俺の行動に過ちなどない!」

殿下は相手に気圧されたのか、フリートヘルムから距離を取った。明らかにこの場を支配しているのは、フリートヘルムだった。

「ヴェルンハルト殿下。王太子殿下の地位を守りたいとお考えならば、王太子に相応しい行動をして下さい。ヴェルンハルト殿下の先程の行動は・・余りに常軌を逸しておりました。ファビアン殿下は、王太子殿下の大切なお子です。親が我が子を守らねば、誰が守るのですか、ヴェルンハルト殿下!」

「黙れ、白豚が!ファビアンが、王太子の息子として相応しくないから、俺は躾をしたまでだ!異端審問官に恐れて逃げ出した挙げ句に、執務室の机の下に隠れて泣くなど・・王太子の息子に相応しくない。俺はただ、ファビアンを強く育てたいだけだ!弱い性根を正す為の躾だ!臣下のお前は、口を挟むな!」

殿下はそう言い放つと、再び執務机を激しく蹴りだした。ガンガンと室内に響き渡る音が、霧の掛かったような俺の思考を鮮明にさせた。

「私は・・」

ファビアン殿下の救出にも向かわず、カールの幻と微睡み、時を過ごしてしまった。

俺は深い息を吐き出し呼吸を整える。俺の変化に気がついたアルミンが、俺を観察するように見つめる。俺はアルミンを見つめ返した。

「アルミン、私は正気です」
「・・そうは思えない」

「アルミン、私が殿下の気を惹きます。その間に、ファビアン殿下を救出して。これは、命令です。行きなさい、アルミン!」

「今のお前は、一人にできる状態じゃない」

俺はアルミンの忠告を無視した。そして、ヴェルンハルト殿下に向かって、俺はできるだけ大きな声で話し掛けていた。


「ヴェルンハルト殿下。異端審問官に恐れをなしたのは・・王太子殿下自身でしょ?」


殿下、俺の挑発に乗って!


◆◆◆◆◆◆

しおりを挟む
感想 252

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形宰相x不遇な異能持ち王子】ヒースダイン国の王子カシュアは、触れた人の痛みを感じられるが、自分の痛みは感じられない不思議な体質のせいで、幼いころから周囲に忌み嫌われてきた。それは側室として嫁いだウェストリン国でも変わらず虐げられる日々。しかしある日クーデターが起こり、結婚相手の国王が排除され、新国王の弟殿下・第二王子バージルと再婚すると状況が一変する……不幸な生い立ちの王子が、再婚によって少しずつ己を取り戻し、幸せになる話です

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。