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第四章
119 アルミン、私は正気です
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◆◆◆◆◆◆
『殿下を処刑してもいいかな、カール?』
◇◇◇◇
「マテウス、意識を飛ばすな!」
「・・?」
「俺の声を聞け、マテウス!頼むから、今は正気を保ってくれ。俺の指示に従ってくれ」
目の前にアルミンがいた。俺は首を傾げながら、幼馴染みの名を呼んだ。
「アルミン?」
「マテウス、正気に戻ったか!良かった。状況はわかるか、マテウス?お前の意識がぶっ飛んでる間に、執務室の壁際に避難した」
なるほど。アルミンと共に、床に転がっていた記憶はある。今は執務室の壁に凭れて、床に座り込んでいる。アルミンが意識のとんだ俺を、移動させてくれたようだ。
「ありがとう、アルミン。現状は把握した」
「良かった!これで、俺も自由に動ける。マテウスの事だから、ファビアン殿下を避難させろと俺に命じるだろ?仕方ないから行ってくる。マテウスから一時的に離れる。だが、すぐに戻る。お前は、ここから動かない。いいな?」
「分かった。動かない。そうだ、カールに会ったよ、アルミン!だから、カールにね聞いたの・・殿下の事を」
「え?」
「だから、カールに会ったから、殿下の事を相談したんだってば、アルミン!だって、カールと殿下はやっぱり親友だったと思うから、処刑を・・ん、あれ??」
視線の先で、ヴェルンハルト殿下とフリートヘルム = ディートリッヒが、掴み合いの喧嘩をしていた。いや、肉弾戦になってる。
「マテウス、予定変更だ。このまま、お前を連れて執務室から離脱する」
「待って、アルミン。うおぉ、フリートヘルムが、殿下を殴った!なんだ、この状況は!?」
「マテウス、抱き上げるから大人しくしろ」
「嫌だ、やめて!」
「マテウス!」
俺は何故か、アルミンに抵抗していた。抵抗しながら、殿下とフリートヘルムの姿を目で追っていた。彼等は叫び合いながら、殴り合っていた。
だが、彼らの殴り合いは、一方的なものなのだとすぐに気がついた。
フリートヘルムが殿下を殴ったのは、先の一度きりのようだ。フリートヘルムの方は、殿下に好きなように殴らせている。そして、殿下の攻撃を避けることもなく、全て体で打撃を受け止めていた。
「フリートヘルム!貴様、王太子の俺を殴るとは正気か!ディートリッヒ家の嫡男が、王族に刃向かうつもりか!白豚の分際で!」
ヴェルンハルト殿下の拳が、フリートヘルムの脇腹に命中する。フリートヘルムは顔を歪めながらも、殿下の襟を掴み引き寄せた。
「手加減をして殴るのは、なかなか難しいものです、殿下。私が本気で殴る前に、殿下は自身の行動の過ちを振り返り反省して頂きたい」
殿下はフリートヘルムを睨んだまま、襟を掴むフリートヘルムの手を払いのけた。
「俺の行動に過ちなどない!」
殿下は相手に気圧されたのか、フリートヘルムから距離を取った。明らかにこの場を支配しているのは、フリートヘルムだった。
「ヴェルンハルト殿下。王太子殿下の地位を守りたいとお考えならば、王太子に相応しい行動をして下さい。ヴェルンハルト殿下の先程の行動は・・余りに常軌を逸しておりました。ファビアン殿下は、王太子殿下の大切なお子です。親が我が子を守らねば、誰が守るのですか、ヴェルンハルト殿下!」
「黙れ、白豚が!ファビアンが、王太子の息子として相応しくないから、俺は躾をしたまでだ!異端審問官に恐れて逃げ出した挙げ句に、執務室の机の下に隠れて泣くなど・・王太子の息子に相応しくない。俺はただ、ファビアンを強く育てたいだけだ!弱い性根を正す為の躾だ!臣下のお前は、口を挟むな!」
殿下はそう言い放つと、再び執務机を激しく蹴りだした。ガンガンと室内に響き渡る音が、霧の掛かったような俺の思考を鮮明にさせた。
「私は・・」
ファビアン殿下の救出にも向かわず、カールの幻と微睡み、時を過ごしてしまった。
俺は深い息を吐き出し呼吸を整える。俺の変化に気がついたアルミンが、俺を観察するように見つめる。俺はアルミンを見つめ返した。
「アルミン、私は正気です」
「・・そうは思えない」
「アルミン、私が殿下の気を惹きます。その間に、ファビアン殿下を救出して。これは、命令です。行きなさい、アルミン!」
「今のお前は、一人にできる状態じゃない」
俺はアルミンの忠告を無視した。そして、ヴェルンハルト殿下に向かって、俺はできるだけ大きな声で話し掛けていた。
「ヴェルンハルト殿下。異端審問官に恐れをなしたのは・・王太子殿下自身でしょ?」
殿下、俺の挑発に乗って!
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『殿下を処刑してもいいかな、カール?』
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「マテウス、意識を飛ばすな!」
「・・?」
「俺の声を聞け、マテウス!頼むから、今は正気を保ってくれ。俺の指示に従ってくれ」
目の前にアルミンがいた。俺は首を傾げながら、幼馴染みの名を呼んだ。
「アルミン?」
「マテウス、正気に戻ったか!良かった。状況はわかるか、マテウス?お前の意識がぶっ飛んでる間に、執務室の壁際に避難した」
なるほど。アルミンと共に、床に転がっていた記憶はある。今は執務室の壁に凭れて、床に座り込んでいる。アルミンが意識のとんだ俺を、移動させてくれたようだ。
「ありがとう、アルミン。現状は把握した」
「良かった!これで、俺も自由に動ける。マテウスの事だから、ファビアン殿下を避難させろと俺に命じるだろ?仕方ないから行ってくる。マテウスから一時的に離れる。だが、すぐに戻る。お前は、ここから動かない。いいな?」
「分かった。動かない。そうだ、カールに会ったよ、アルミン!だから、カールにね聞いたの・・殿下の事を」
「え?」
「だから、カールに会ったから、殿下の事を相談したんだってば、アルミン!だって、カールと殿下はやっぱり親友だったと思うから、処刑を・・ん、あれ??」
視線の先で、ヴェルンハルト殿下とフリートヘルム = ディートリッヒが、掴み合いの喧嘩をしていた。いや、肉弾戦になってる。
「マテウス、予定変更だ。このまま、お前を連れて執務室から離脱する」
「待って、アルミン。うおぉ、フリートヘルムが、殿下を殴った!なんだ、この状況は!?」
「マテウス、抱き上げるから大人しくしろ」
「嫌だ、やめて!」
「マテウス!」
俺は何故か、アルミンに抵抗していた。抵抗しながら、殿下とフリートヘルムの姿を目で追っていた。彼等は叫び合いながら、殴り合っていた。
だが、彼らの殴り合いは、一方的なものなのだとすぐに気がついた。
フリートヘルムが殿下を殴ったのは、先の一度きりのようだ。フリートヘルムの方は、殿下に好きなように殴らせている。そして、殿下の攻撃を避けることもなく、全て体で打撃を受け止めていた。
「フリートヘルム!貴様、王太子の俺を殴るとは正気か!ディートリッヒ家の嫡男が、王族に刃向かうつもりか!白豚の分際で!」
ヴェルンハルト殿下の拳が、フリートヘルムの脇腹に命中する。フリートヘルムは顔を歪めながらも、殿下の襟を掴み引き寄せた。
「手加減をして殴るのは、なかなか難しいものです、殿下。私が本気で殴る前に、殿下は自身の行動の過ちを振り返り反省して頂きたい」
殿下はフリートヘルムを睨んだまま、襟を掴むフリートヘルムの手を払いのけた。
「俺の行動に過ちなどない!」
殿下は相手に気圧されたのか、フリートヘルムから距離を取った。明らかにこの場を支配しているのは、フリートヘルムだった。
「ヴェルンハルト殿下。王太子殿下の地位を守りたいとお考えならば、王太子に相応しい行動をして下さい。ヴェルンハルト殿下の先程の行動は・・余りに常軌を逸しておりました。ファビアン殿下は、王太子殿下の大切なお子です。親が我が子を守らねば、誰が守るのですか、ヴェルンハルト殿下!」
「黙れ、白豚が!ファビアンが、王太子の息子として相応しくないから、俺は躾をしたまでだ!異端審問官に恐れて逃げ出した挙げ句に、執務室の机の下に隠れて泣くなど・・王太子の息子に相応しくない。俺はただ、ファビアンを強く育てたいだけだ!弱い性根を正す為の躾だ!臣下のお前は、口を挟むな!」
殿下はそう言い放つと、再び執務机を激しく蹴りだした。ガンガンと室内に響き渡る音が、霧の掛かったような俺の思考を鮮明にさせた。
「私は・・」
ファビアン殿下の救出にも向かわず、カールの幻と微睡み、時を過ごしてしまった。
俺は深い息を吐き出し呼吸を整える。俺の変化に気がついたアルミンが、俺を観察するように見つめる。俺はアルミンを見つめ返した。
「アルミン、私は正気です」
「・・そうは思えない」
「アルミン、私が殿下の気を惹きます。その間に、ファビアン殿下を救出して。これは、命令です。行きなさい、アルミン!」
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俺はアルミンの忠告を無視した。そして、ヴェルンハルト殿下に向かって、俺はできるだけ大きな声で話し掛けていた。
「ヴェルンハルト殿下。異端審問官に恐れをなしたのは・・王太子殿下自身でしょ?」
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