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第四章
116 クリスティアンの胸に
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◆◆◆◆◆◆
「どうしたの、アルミン?」
俺がアルミンに尋ねると、幼馴染みは俺を身近に引き寄せた。ほぼ同時に、王太子殿下の執務室から、大きな怒鳴り声が聞こえた。
俺は思わず、肩をびくりと震わせてしまった。
「誰の怒鳴り声か分かる、アルミン?」
「おそらく、ディートリッヒ家の嫡男のフリートヘルム卿だと思われます、マテウス様」
「フリートヘルム様?」
俺は思わず、アルミンに聞き返していた。フリートヘルム = ディートリッヒといえば、ヴォルフラムの兄である。ちなみに、フリートヘルムは白銀の髪色と青い瞳の美丈夫で、逞しい肉体美の持ち主だ。そして、とても優秀な人物でもある。
にもかかわらず、彼はディートリッヒ家一族の困ったちゃんでもある。何故なら、彼は嫡男にも関わらず、全く孕み子に興味を示さないからである。フリートヘルムは、殿下の尻を愛するあまり・・いや、殿下を愛するあまり、殿下に迫り続けているのだ。
その挙げ句、すっかり殿下に嫌われてしまった彼は、殿下本人から『白豚』と命名されてしまった、可哀想な人物である。
因みに、BL小説内では、彼の容姿は詳しく書かれていなかった。殿下の『白豚』発言を殊更に印象付ける記述が多かった様に思う。その為、多くの読者は、彼の事を『白い肌の太った不細工男』であると思い込んでいた。
初めて俺が彼と出会った時には、あまりのイメージの違いに驚いた。この小説の原作者は、トラップを仕掛けてくるので注意が必要だ。
「まさか・・愛の修羅場?」
「マテウス様・・長々と沈黙した後の、第一声がそれですか?下品な妄想はやめましょうね、マテウス様。はしたないですからね」
「下品なアルミンに、下品と言われた!」
「冗談はこの辺りにして、どうやら愛の修羅場ではないようです。何かしら、良くない問題が発生していると思われます。マテウス様、今は執務室に入ることはお止めください」
アルミンは止めるけど・・どうしよう。愛の修羅場でないのなら、何が起こっているのだろうか?
「ファビアン殿下や、ヴォルフラム様が、待ち合わせ場所に現れなかった理由と関わりがあるかもしれないよね、アルミン?」
「マテウス!」
アルミンの心配は分かるが、彼等が待ち合わせ場所に現れなかった理由も確認したかった。
「クリスティアン様、どうやら殿下は取り込み中のようです。倪下に殿下を紹介して、親交を深めて頂きたかったのですが・・とにかく、私が執務室に入り、様子を伺ってきます」
俺はそう言うと、執務室の扉に向かい歩きだした。扉を守る二人の衛兵が、俺に視線を向ける。俺は衛兵に話しかける為に歩を進めた。その時、背後から腕を掴まれて強引に引き寄せられた。体のバランスが崩れ、思わず声が出た。
「ひやぁ!」
「申し訳ない、マテウス卿」
「え、クリスティアン様!?」
強引な腕の掴み方に、アルミンの仕業だと思った。だけど、違っていた。俺の腕を掴んだのは、枢機卿だった。
バランスを崩し背後に倒れた俺を、クリスティアンはその胸に抱き寄せてくれた。俺は思わず、赤面してしまった。
「あの・・?」
「孕み子である貴方を、危険に晒す訳にはまいりません、マテウス卿。ご自身の護衛である、アルミン殿の言葉に従って下さい」
俺は抱き寄せられた状態で、枢機卿に反論していた。説得力に欠ける体勢であることは分かっているが・・仕方ない。
「倪下、王太子殿下の執務室は、もっとも安全な場所です。何故なら、多くの者が影ながら、殿下を護衛しているからです。先ほども申し上げましたが、王太子殿下には気難しい一面がございます。きっと、側近と意見の相違があり、論戦が白熱しているだけです。殿下は、仕事熱心なお方ですから」
「マテウス卿・・多くの護衛により、王太子殿下が守られている事は確かでしょう。ですが、それは・・殿下が安全な立場ではない事を、意味しているのではありませんか?」
そうきたか。うーん。えーと。
「見解の相違があるようです・・倪下は常に、多くの護衛に、守られておいででしょ?重要な地位にある者が、危機管理を徹底する事は当然の事です。そう考えるなら、護衛の行き届いた殿下の執務室は、王城内でも指折りの安全な 場所と思われます。そうは思われませんか、クリスティアン様?」
クリスティアンは、俺の多弁ぶりに驚いている様子だった。驚きましたか、枢機卿?俺は、屁理屈と皮肉が大好きな、性悪男なのです!
「長く旅をして、多くの孕み子と出逢いました。しかし、マテウス卿ほど、頭が良いのか悪いのか・・判断に困る人物は初めてです」
何気にクリスティアンが、俺の事をディスってきたのだが・・まあ許そう。きっと、今までに出会った孕み子は、枢機卿に従順な者達ばかりだったのだろう。
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「どうしたの、アルミン?」
俺がアルミンに尋ねると、幼馴染みは俺を身近に引き寄せた。ほぼ同時に、王太子殿下の執務室から、大きな怒鳴り声が聞こえた。
俺は思わず、肩をびくりと震わせてしまった。
「誰の怒鳴り声か分かる、アルミン?」
「おそらく、ディートリッヒ家の嫡男のフリートヘルム卿だと思われます、マテウス様」
「フリートヘルム様?」
俺は思わず、アルミンに聞き返していた。フリートヘルム = ディートリッヒといえば、ヴォルフラムの兄である。ちなみに、フリートヘルムは白銀の髪色と青い瞳の美丈夫で、逞しい肉体美の持ち主だ。そして、とても優秀な人物でもある。
にもかかわらず、彼はディートリッヒ家一族の困ったちゃんでもある。何故なら、彼は嫡男にも関わらず、全く孕み子に興味を示さないからである。フリートヘルムは、殿下の尻を愛するあまり・・いや、殿下を愛するあまり、殿下に迫り続けているのだ。
その挙げ句、すっかり殿下に嫌われてしまった彼は、殿下本人から『白豚』と命名されてしまった、可哀想な人物である。
因みに、BL小説内では、彼の容姿は詳しく書かれていなかった。殿下の『白豚』発言を殊更に印象付ける記述が多かった様に思う。その為、多くの読者は、彼の事を『白い肌の太った不細工男』であると思い込んでいた。
初めて俺が彼と出会った時には、あまりのイメージの違いに驚いた。この小説の原作者は、トラップを仕掛けてくるので注意が必要だ。
「まさか・・愛の修羅場?」
「マテウス様・・長々と沈黙した後の、第一声がそれですか?下品な妄想はやめましょうね、マテウス様。はしたないですからね」
「下品なアルミンに、下品と言われた!」
「冗談はこの辺りにして、どうやら愛の修羅場ではないようです。何かしら、良くない問題が発生していると思われます。マテウス様、今は執務室に入ることはお止めください」
アルミンは止めるけど・・どうしよう。愛の修羅場でないのなら、何が起こっているのだろうか?
「ファビアン殿下や、ヴォルフラム様が、待ち合わせ場所に現れなかった理由と関わりがあるかもしれないよね、アルミン?」
「マテウス!」
アルミンの心配は分かるが、彼等が待ち合わせ場所に現れなかった理由も確認したかった。
「クリスティアン様、どうやら殿下は取り込み中のようです。倪下に殿下を紹介して、親交を深めて頂きたかったのですが・・とにかく、私が執務室に入り、様子を伺ってきます」
俺はそう言うと、執務室の扉に向かい歩きだした。扉を守る二人の衛兵が、俺に視線を向ける。俺は衛兵に話しかける為に歩を進めた。その時、背後から腕を掴まれて強引に引き寄せられた。体のバランスが崩れ、思わず声が出た。
「ひやぁ!」
「申し訳ない、マテウス卿」
「え、クリスティアン様!?」
強引な腕の掴み方に、アルミンの仕業だと思った。だけど、違っていた。俺の腕を掴んだのは、枢機卿だった。
バランスを崩し背後に倒れた俺を、クリスティアンはその胸に抱き寄せてくれた。俺は思わず、赤面してしまった。
「あの・・?」
「孕み子である貴方を、危険に晒す訳にはまいりません、マテウス卿。ご自身の護衛である、アルミン殿の言葉に従って下さい」
俺は抱き寄せられた状態で、枢機卿に反論していた。説得力に欠ける体勢であることは分かっているが・・仕方ない。
「倪下、王太子殿下の執務室は、もっとも安全な場所です。何故なら、多くの者が影ながら、殿下を護衛しているからです。先ほども申し上げましたが、王太子殿下には気難しい一面がございます。きっと、側近と意見の相違があり、論戦が白熱しているだけです。殿下は、仕事熱心なお方ですから」
「マテウス卿・・多くの護衛により、王太子殿下が守られている事は確かでしょう。ですが、それは・・殿下が安全な立場ではない事を、意味しているのではありませんか?」
そうきたか。うーん。えーと。
「見解の相違があるようです・・倪下は常に、多くの護衛に、守られておいででしょ?重要な地位にある者が、危機管理を徹底する事は当然の事です。そう考えるなら、護衛の行き届いた殿下の執務室は、王城内でも指折りの安全な 場所と思われます。そうは思われませんか、クリスティアン様?」
クリスティアンは、俺の多弁ぶりに驚いている様子だった。驚きましたか、枢機卿?俺は、屁理屈と皮肉が大好きな、性悪男なのです!
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何気にクリスティアンが、俺の事をディスってきたのだが・・まあ許そう。きっと、今までに出会った孕み子は、枢機卿に従順な者達ばかりだったのだろう。
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