嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

文字の大きさ
上 下
78 / 239
第四章

113 孕み子狩り

しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆


流行り病により、フォルカー教国は自国の孕み子を大量に喪った。その損失を補うために、フォルカー教国は、国の政策として、植民地から現地の孕み子を次々と本国に連れ帰ってきた。

植民地の人々は、大半が有色人種であった。当然、植民地の孕み子も有色人種である。白い肌を持つ者を、至上と考えるフォルカー教国では、植民地の人々を格下の存在として扱い、差別の対象とした。

フォルカー教国の実権を握る、聖職者や貴族達は、当然のように白い肌の孕み子を好み、妻や側室として迎えた。誰よりも白い肌の孕み子を妻とすることは、権威の証ともなっていた。

フォルカー教国出自の孕み子は、権力者や金持ちにより独占され、庶民には植民地の孕み子が宛がわれた。

その歪な環境は、植民地から連れて来られた孕み子に酷い人生を与えた。

植民地の孕み子は、伴侶となった男やその親族から、より肌の白い赤子を産む事を強いられた。肌の白い赤子を生むまでは、何度も孕まされた。

そして、肌の色が気に入らぬ赤子は、下水に生きたまま流された。植民地の孕み子は、下水に流される我が子に涙しながら、自らも短い生涯を閉じていった。


◇◇◇


 クリスティアン =バイラントが、各地を巡る旅を続ける理由は、より白い肌の孕み子を探しだし、本国に送るためであった。教皇や聖職者、そして貴族たちの希望を叶える為に、彼は『孕み子狩り』となった。

唯一神の教義に反して、教皇が孕み子と交わり生まれた、クリスティアン。彼は生まれたその瞬間から、自由のない人生を歩む運命にあった。


◇◇◇


枢機卿のクリスティアン = バイラントは、他国に入ると、まず王都の教会に篭り祈りを捧げて過ごす。その期間を利用して、枢機卿の関係者が、フォルカー教国に連れ帰る孕み子を選び出す。

連れ帰る孕み子達は、唯一神への信仰が厚く、白い肌と美しい容姿を持つものが選ばれた。彼らの多くは、フォルカー教国の貴族の側室となる。最も美しい者は、教皇の愛人となる場合もあった。


◇◇◇◇◇◇



金糸に彩られた緋色のローブが風に靡く。緋色と黒の鮮やかな色彩に目を奪われながら、俺は深く息を吐き出した。

そして、ゆっくりと枢機卿に歩みより微笑みを浮かべて話しかけた。

「倪下、私はマテウス=シュナーベルと申します。彼は、私の護衛のアルミンです。実は、倪下と案内係の会話を、不本意ながら盗み聞きいましました。盗み聞きをしたものを、唯一神がどのように罰するのかは、信者ではない私にはわかりません」

自分が唯一神信者でない事を伝えて、彼の反応を見ようとした。だが、枢機卿は無反応だった。俺は、少々びびりながら話を続けた。

「盗み聞きは、無作法な行為です。私は倪下に対して、大変申し訳なく思っております。この気持ちを払拭するためにも、私は倪下のお役に立ちたいのです。私が案内係の代わりとなり、倪下を、王城正面玄関口にご案内致します」

枢機卿が俺を見つめて、柔らかく微笑んだ。俺が、枢機卿の好みの男でないことは分かっている。それでも、いい男に見つめられると、顔が赤らむ。この世界は、いい男が多過ぎて困る。

「マテウス=シュナーベル・・侯爵家の方ですね、マテウス卿?貴方の申し出は、とてもありがたいものです。ですが、マテウス卿・・できれば、王城正面玄関口ではなく、王国最古の教会に、私を連れて行ってもらえませんか?」

う、しまった。

クリスティアン自身が、王城正面玄関口にもどる事を案内係に提案していた。だから、枢機卿は、王城正面玄関口に戻りたいのだと思い込んでいた。俺のバカ!

えーと、えーと。うーん。

「倪下・・案内係より、王国最古の教会を訪れる際の決まり事について、説明はありましたでしょうか?」

「どのような説明かな?」

「倪下、王国最古の教会を訪れるには、王族の許可が必要となります」

「ほう、そうなのかい?」

「教会の管理者は、倪下のお越しが事前にわかれば、お迎えする準備を万全に整えられます。日を改めてお越しいただければ、倪下は快適に教会を訪れる事が可能だと思われます」

俺の言葉に、クリスティアン = バイラントが僅かに目を細めた。相変わらず微笑みは絶やさないが、どこか寂しげに言葉を紡いだ。

「困りました・・実は、私の生みの親の先祖が、こちらの教会の墓地で眠っているのです。私はただ静かに、先祖の墓に花を手向けたいと思っただけなのですが・・」

「・・先祖の墓に花を」

「枢機卿として教会を訪れては、静かに時を過ごす事が難しくなります。その為、身分を伏せて王城を訪れたのですが、教会を訪れる事は難しそうですね」

クリスティアン = バイラントが王城を訪ねた理由は、先祖の墓に花を手向ける為だったとは。

できれば、願いを叶えてあげたいけど・・





◆◆◆◆◆◆
しおりを挟む
感想 252

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

嵌められた悪役令息の行く末は、

珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】 公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。 一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。 「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。 帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。 【タンザナイト王国編】完結 【アレクサンドライト帝国編】完結 【精霊使い編】連載中 ※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。 8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。 序盤はBL要素薄め。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました

ぽんちゃん
BL
 双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。  そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。  この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。  だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。  そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。  両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。  しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。  幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。  そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。  アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。  初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?  同性婚が可能な世界です。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。  ※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。