嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第四章

113 孕み子狩り

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◆◆◆◆◆◆


流行り病により、フォルカー教国は自国の孕み子を大量に喪った。その損失を補うために、フォルカー教国は、国の政策として、植民地から現地の孕み子を次々と本国に連れ帰ってきた。

植民地の人々は、大半が有色人種であった。当然、植民地の孕み子も有色人種である。白い肌を持つ者を、至上と考えるフォルカー教国では、植民地の人々を格下の存在として扱い、差別の対象とした。

フォルカー教国の実権を握る、聖職者や貴族達は、当然のように白い肌の孕み子を好み、妻や側室として迎えた。誰よりも白い肌の孕み子を妻とすることは、権威の証ともなっていた。

フォルカー教国出自の孕み子は、権力者や金持ちにより独占され、庶民には植民地の孕み子が宛がわれた。

その歪な環境は、植民地から連れて来られた孕み子に酷い人生を与えた。

植民地の孕み子は、伴侶となった男やその親族から、より肌の白い赤子を産む事を強いられた。肌の白い赤子を生むまでは、何度も孕まされた。

そして、肌の色が気に入らぬ赤子は、下水に生きたまま流された。植民地の孕み子は、下水に流される我が子に涙しながら、自らも短い生涯を閉じていった。


◇◇◇


 クリスティアン =バイラントが、各地を巡る旅を続ける理由は、より白い肌の孕み子を探しだし、本国に送るためであった。教皇や聖職者、そして貴族たちの希望を叶える為に、彼は『孕み子狩り』となった。

唯一神の教義に反して、教皇が孕み子と交わり生まれた、クリスティアン。彼は生まれたその瞬間から、自由のない人生を歩む運命にあった。


◇◇◇


枢機卿のクリスティアン = バイラントは、他国に入ると、まず王都の教会に篭り祈りを捧げて過ごす。その期間を利用して、枢機卿の関係者が、フォルカー教国に連れ帰る孕み子を選び出す。

連れ帰る孕み子達は、唯一神への信仰が厚く、白い肌と美しい容姿を持つものが選ばれた。彼らの多くは、フォルカー教国の貴族の側室となる。最も美しい者は、教皇の愛人となる場合もあった。


◇◇◇◇◇◇



金糸に彩られた緋色のローブが風に靡く。緋色と黒の鮮やかな色彩に目を奪われながら、俺は深く息を吐き出した。

そして、ゆっくりと枢機卿に歩みより微笑みを浮かべて話しかけた。

「倪下、私はマテウス=シュナーベルと申します。彼は、私の護衛のアルミンです。実は、倪下と案内係の会話を、不本意ながら盗み聞きいましました。盗み聞きをしたものを、唯一神がどのように罰するのかは、信者ではない私にはわかりません」

自分が唯一神信者でない事を伝えて、彼の反応を見ようとした。だが、枢機卿は無反応だった。俺は、少々びびりながら話を続けた。

「盗み聞きは、無作法な行為です。私は倪下に対して、大変申し訳なく思っております。この気持ちを払拭するためにも、私は倪下のお役に立ちたいのです。私が案内係の代わりとなり、倪下を、王城正面玄関口にご案内致します」

枢機卿が俺を見つめて、柔らかく微笑んだ。俺が、枢機卿の好みの男でないことは分かっている。それでも、いい男に見つめられると、顔が赤らむ。この世界は、いい男が多過ぎて困る。

「マテウス=シュナーベル・・侯爵家の方ですね、マテウス卿?貴方の申し出は、とてもありがたいものです。ですが、マテウス卿・・できれば、王城正面玄関口ではなく、王国最古の教会に、私を連れて行ってもらえませんか?」

う、しまった。

クリスティアン自身が、王城正面玄関口にもどる事を案内係に提案していた。だから、枢機卿は、王城正面玄関口に戻りたいのだと思い込んでいた。俺のバカ!

えーと、えーと。うーん。

「倪下・・案内係より、王国最古の教会を訪れる際の決まり事について、説明はありましたでしょうか?」

「どのような説明かな?」

「倪下、王国最古の教会を訪れるには、王族の許可が必要となります」

「ほう、そうなのかい?」

「教会の管理者は、倪下のお越しが事前にわかれば、お迎えする準備を万全に整えられます。日を改めてお越しいただければ、倪下は快適に教会を訪れる事が可能だと思われます」

俺の言葉に、クリスティアン = バイラントが僅かに目を細めた。相変わらず微笑みは絶やさないが、どこか寂しげに言葉を紡いだ。

「困りました・・実は、私の生みの親の先祖が、こちらの教会の墓地で眠っているのです。私はただ静かに、先祖の墓に花を手向けたいと思っただけなのですが・・」

「・・先祖の墓に花を」

「枢機卿として教会を訪れては、静かに時を過ごす事が難しくなります。その為、身分を伏せて王城を訪れたのですが、教会を訪れる事は難しそうですね」

クリスティアン = バイラントが王城を訪ねた理由は、先祖の墓に花を手向ける為だったとは。

できれば、願いを叶えてあげたいけど・・





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