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第四章

110 アルミンの気持ち

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◆◆◆◆◆◆


今回の王城出仕より、俺は特別な案件が無い限りは、王太子殿下の執務室には行かなくて済むことになった。

ヘクトール兄上が、ヴェルンハルト殿下と交渉してくれた結果である。ヘクトール兄上には、感謝してもしきれない。

執務室の殿下は、非常に性悪男である。執務室内で、殿下に虐められること数回。俺は遂に、現実を直視する事にした。

ヴェルンハルト殿下と俺は、余りにも相性が悪すぎる。そして、殿下はすごく意地悪だ!

殿下の親友兼話し相手として、俺は王城出仕を認められている。だが、王太子殿下とは、到底親友にはなれそうにはない。

だけど・・王太子殿下が、ヴォルフラムに殺されてよいのかと問われると、否と答えたくなる。たとえ、BL小説の筋書きから逸脱したとしてもだ。

ヘクトール兄上から、殿下の現在の状況については説明を受けた。ディートリッヒ家の管理下に置かれた王太子殿下は、不満や苛立ちを募らせているみたい。だけど、殿下の安全面を考えると、今の状況は歓迎すべきものに思える。

ヴォルフラムは、ディートリッヒ家に忠実だ。そのディートリッヒ家が守る殿下を、ヴォルフラムが殺害したりするだろうか?

でも、ヴェルンハルト殿下が国王になる事は、シュナーベル家にとっては最悪だ。殿下は本気で、近親婚や血族婚を禁じるつもりなのかな?

それは本当に、カールの遺志なのかな?


◇◇◇◇◇


ファビアン殿下とヴォルフラム様とは、直接落ち合う事で合意済みだ。場所は、王城庭園のガゼボのベンチだ。だが、待ち合わせの時間が過ぎても、二人が来る気配は全くない。

暇をもて余した俺は、ガゼボのベンチに共に座るアルミンに話し掛けていた。

「アルミン、私って成長したと思わない?」

「マテウス・・お前は、昔から身長の伸びを気にしすぎだ。残念ながら、マテウスの身長は、一ミリも伸びてはいない」

「アルミンは間違えています!」

「いや、間違えてはいない。マテウスの成長期は終わった。身長は、ちっこいままだ。だが、安心しろ。娼館では、ちっこい孕み子の方が人気がある。マテウスは、顔はいまいちだが・・ちっこいし、手もぷにぷにだ。自信を持て生きろ、マテウス!」

「アルミン、身長の話じゃないから!身長も、ぺニスの大きさも、私は全然気にしていないから!勘違いしないで、アルミン!」

「ん、身長の話じゃないのかよ?因みに、俺はぺニスの大きさについては、全く触れていないからな。で、何が成長したって、マテウス?」

「心身の成長について説明したかったの!」

「・・心身の成長ねえ?どの辺りが?」

アルミンが、疑わしそうな顔をしている。アルミンの顔に少しムカついた。故に、俺は詳しく説明することにした。

「王城出仕1度目は、出仕復帰に1ヶ月以上の療養を必要とした。でも、王城出仕2度目は、2週間の療養で済み、今日出仕を果たした。このパターンでいくと、王城出仕3度目の今日は、1週間の療養で済むはずだよ、アルミン!」

俺の心身の成長について、自信たっぷりに説明したのに、アルミンは頭を抱え込んでしまった。何故だ!俺を誉めないのか、アルミン!

「うーん、マテウス・・本気でそう思っているなら、お前は確実にお馬鹿さんだ。いいか、マテウス?王城出仕する度に、療養を必要とする奴はマテウスぐらいだ」

「アルミンは私を誉めてくれないの?」

アルミンは不意に俺の頬をつまみ、顔を近づけてきた。思わず俺は、どきりとしてしまった。

「とにかく、今回こそ、トラブルには巻き込まれないようにしろ、マテウス!無事に邸に帰れたら、いっぱい誉めてやる。まあ、執務室で殿下と会わずに済む事は幸いだ。殿下は、厄災の塊みたいな存在だからな」

アルミンは相変わらず、整った顔立ちをしている。羨ましい。

「アルミン、顔が近い・・恥ずかしい」
「ん?ああ、悪い」

アルミンは摘まんだ頬を解放すると、俺からすっと身を離す。俺は何となく、寂しく感じてしまった。ヘクトール兄上の妻になれば、幼馴染みのアルミンは・・こんな触れ合いもしなくなるだろうか?

「それより、ヴォルフラムが来る気配が全く無いぞ?待ち合わせの場所は、ここで間違いないのか、マテウス?」

「待ち合わせ場所は、王城庭園のガゼボと手紙でやり取りした。時間も決めた。でも、確かに遅いね。ヴォルフラムが連絡もなく、待ち合わせに遅れるなんておかしくない?何か問題が起こったのかな?」

アルミンは俺の言葉に反応を示し、急に語気を強め俺に話しかける。

「執務室に一人で向かうとか言い出すなよ、マテウス!絶対に駄目だからな。俺は執務室に近づけない。マテウスに護衛が付かない状態で、執務室に行かせるなど、俺には容認出来ない」

「アルミンでも、執務室には近づけない?」

アルミンは、俺の問いに苦い表情を浮かべた。

「殿下から、執務室への出入りを禁じられた俺は、ディートリッヒ家の暗部の排除対象にされている。ディートリッヒ家と問題を起こさない為に、ヘクトール様は・・ヴォルフラムと契約を交わした。執務室内とその周辺では、マテウスの護衛は、ヴォルフラムに一任されている」

「そうだったんだ!ヴォルフラム様が、私の事を必死に守ってくれるのは・・ヘクトール兄上との契約の為でもあったんだね。ちょっぴり、ショックかも」

「あいつは・・ヴォルフラムは、お前を少しも守れていない!王城出仕の度に、マテウスは傷ついている。なのに、あいつは、マテウスの騎士気取りだ。ヘクトール様は、ヴォルフラムと契約すべきじゃなかった!」

「アルミン?」

「俺はお前を守りたい。マテウスを妻に迎えられないことは分かっている。だったら、せめてお前を守る役を・・俺から取り上げないでくれ!」

俺はアルミンに抱き締められていた。

そして、気が付く。アルミンが纏うシュナーベルの大地の香りは、彼の体を巡る血脈から発せられているのだと。


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