嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第三章

109 ベッドで芋粥

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◆◆◆◆◆◆


「贅沢過ぎる!ベッドで芋粥を食べるこの怠惰な生活。社畜時代には、考えられない優雅さだ。もう、指さえも動かしたくない。さあ、アルミン、病弱な私に甘い芋粥を食べさせて。あーん、あーん」

「うるさい。黙って食え、マテウス!」

アルミンが掬った匙には、黄金色のさつま芋が乗っていた。俺は匙を口に含み、さつま芋の甘味を堪能した。ホロリと崩れて広がる自然な甘味が幸せすぎる。

匙から口を離すと、何故かアルミンが顔を赤らめて俺を見つめていた。

不意に、俺は隣に座っていた兄上に抱き寄せられた。おう、口に含んだ粥が溢れるじゃないか。兄上に抗議しようと見上げると、何とも居心地悪そうな顔をしている。俺は、食のすすんでいない様子の兄上に声を掛けた。

「ヘクトール兄上、食欲がないのですか?」
「いや。マテウス・・俺もベッドで、芋粥を食べないと駄目なのかい?」

「当然です!兄上も私も、今は病人です。ですから、怠惰に過ごす事が正解なのです!」

「しかし、俺は、ルドルフに食べさせて貰う事には抵抗を感じる。できれば、マテウスに・・いや、自分で食べたいのだが。それに、アルミンの存在が不快で仕方ない。おい、アルミン。嫌らしい手付きで、匙を持つな」

「ヘクトール様、俺の手付きは普段からエロい動きをすると大好評です!不可抗力です!」

「ヘクトール様、よろしければ一口いかがですか?心を込めて奉仕させて頂きます」

「ルドルフ、嫌がらせはやめろ。自分で食べる。匙を寄越せ、今すぐにだ」

「いけません、ヘクトール兄上。今は怠惰に過ごす時なのです。指さえも動かさず、口だけ開けば芋粥が運ばれる。なんたる贅沢か!」

「・・マテウス」

「芋粥を食べたあとは、ベッドで手を繋ぎ一眠りしましょう、にいさま」

俺が兄上に笑い掛けると、苦笑いを浮かべつつもヘクトール兄上は俺の提案を受け入れてくれたようだ。ルドルフも苦笑いを浮かべているが、付き合ってくれるみたい。

「んっー、美味しい!」
「確かに。久しぶりに芋粥を食べたが旨いな」
「兄上、やはり薬草粥は撲滅しましょう」

「それは無理だ。だが、レシピを昔のものに戻すなら、抵抗は少ないだろう。シュナーベル家の屋敷の書庫係に、すぐ手紙を書くよ。まずは、昔のレシピ本の内容に問題がないか、精査しないとね」

「そうですね。以前は薬草として盛んに食べていた植物が、弱毒性植物だった例もありますからね。ヘクトール兄上、美味しい薬草粥が出来るよう、よろしくお願いします!」

「承知した」

ヘクトール兄上は、俺の髪を撫でて微笑んだ。


◇◇◇◇◇


芋粥を堪能した後は、ヘクトール兄上と一緒にゆっくりとベッドで休息を取ることにした。ルドルフとアルミンが部屋を退出すると、俺は早速ふかふかのベッドに横になった。

「ふぅー、気持ちいい!王城のベッドもふかふかでしたが、シュナーベル家のベッドも負けていません。さあ、兄上も横になって下さい」

ベッドに横たわったまま、ヘクトール兄上を見上げる。冴えない男の上目遣いに、どれ程の効果があるのかは分からない。だが、何事もチャレンジだ。可愛く見えろ、俺!

「・・・・」

兄上が無反応だ!やはり、冴えない男には上目遣いはハイレベル過ぎた。俺はベッドに顔を埋めて、赤らんだ頬を隠した。

「マテウス、どうした?」
「うっ、その・・少し眠気がきました」

「そうか。では、手を繋ぐかい?」
「兄上、手を繋いで下さるのですか!」
「ああ、そのつもりだが?」

兄上もベッドに横たわる。そして、不思議そうに俺の顔を見つめてきた。俺は兄上の疑問を解くために、口を開いた。

「ヘクトール兄上。もしも、触れ合いに抵抗感があれば、無理だとはっきり仰って下さいね」

俺の言葉にヘクトール兄上が、僅かに眉をひそめた。そして、俺の髪をくしゃくゃと、少し乱暴に撫でた。

「マテウスと手を繋ぐ事に、抵抗など感じるはずががない。それより、マテウスは・・俺を、おぞましいとは思わないのかい?」

「おぞましい?」

兄上は、僅かに視線を逸らせて語りだした。

「恥ずかしい話だが、過去の俺は童貞を捨て去る為に、何度も娼館に通った。だが、駄目だった。男の素肌に触れただけで、吐き気を感じる時もあり・・挫折した」

「・・兄上」

「だが、マテウスは、どんな男とも違っていた。マテウスの素肌に触れると、もっと触れ合いたいと感じた。情交を強く望んだ事も初めてだった。そして、情を交えて・・より愛が深まった」

「私にとっては、全てが喜ばしい事ですが?」

ヘクトール兄上は、俺の頬に優しく触れながら深い吐息をもらした。兄上が色っぽくて、俺は思わず顔を赤らめる。

「俺は、自分自身がおぞましいよ。俺達の関係は、父上とグンナー様の関係に近いと感じたことはないかい、マテウス?」

「兄上、それは違います!!」

「マテウスは優しいね。だが、俺はシュナーベル家の次期当主として、側室を持つ必要に迫られる。だが、側室を迎えても抱けそうにない。当然、側室との間に子は得られない。そうなると、マテウスへの負担が大きくなるのは明らかだ」

「兄上、私は健康です。二人までなら、子を孕めます。出産にも耐えられるはずです」

「それは、マテウスの本心か?本当は、子を孕む事を、恐れているのではないのか?」

俺は頬を膨らませて、兄上に抗議した。

「兄上、マテウスは子供ではありません。先程の情交で、初めて兄上の子を孕みたいと思ったばかりなのに・・出鼻を挫かないで下さい」

「マテウス、子を孕んだのか?何て事だ!早速、赤ん坊の衣服とベッドと玩具を用意せねばならないな!赤子は肌が弱い。全てを絹で揃えよう!いや、絹より綿が良いか?玩具は知育を考え、難解な知恵の輪を用意させよう!」

俺はベッドの中で思わず笑いだしてしまった。ヘクトール兄上が俺の顔を覗き込む。

「兄上、冷静になって下さい。多分、孕んではいません。ですが、今の兄上の反応を見て安心しました。兄上なら、私も子も愛してくれるに違いありませんから」

「マテウス」 

「父上は・・グンナーだけを愛しました。兄上とは全く違います。さあ、マテウスの手を握って下さい、兄上。そして、額を合わせ目を瞑りましょう。そうすると、不安が和らぎますよ?さあ、兄上」

ヘクトール兄上は、躊躇いつつも俺と手を取り合い、額を合わせて目を閉じた。互いの体温と、優しい気持ちが額を通して伝わり合う。

ヘクトール兄上と俺は、額を合わせたまま深い眠りについていた。


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