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第二章

2-4 ヘクトールという存在 (過去編)

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◆◆◆◆◆◆◆



『父上、もう‥‥やめて、苦しい』

『ヘクトール、毎回泣くのは止しなさい。初めてでもないのに、挿入の度に泣かれては興醒めするものだよ‥‥』

『父上、本当に苦しくてっ゙、あっ』

『ヘクトールはいちいちうるさいね?もう少し艶ある喘ぎ声を出せないのかい‥‥一番最奥に突き込んであげたから、鳴きなさい』

『ひぃ、嫌だ!父上、痛いっ!苦しい、ああっ‥‥‥やめっ、あっぁ‥‥』


◇◇◇◇


『‥‥本邸にはお越しにならないようお伝えしたはずです、父上。必要ならば別邸にお呼び下さい。息子に肉体関係を迫る父上の有様を使用人に知られたくないのです。なのに、急に現れて襲うなど‥‥貴方は!』

『そう怒鳴るな。声が部屋から漏れては、ヘクトールにも不都合があるだろ?しかし、行為が終わると、ヘクトールは急に強気になるね?』

『っ、黙れ!』

『まあ、いいけどね。それより、ヘクトールには、良い報告をしよう。お前を抱くのは、今回で最後にする。お前では、グンナーの身代わりにはならない事が、ようやく分かった。何度も抱いて済まなかったね、ヘクトール』

『父上、正気に戻って下さったのですか?』

『私は元から正気だよ、ヘクトール?お前とのセックスは気持ち良かった。だけど、それだけだ。グンナーを抱いた時の様な身も心も焦がすような感覚は、一度も味わえなかった。お前ではもの足りない。血脈の薄いお前はグンナーにはなり得なかった』

『父上、貴方は!』

『私は寂しいのだよ、ヘクトール。グンナーが恋しい。グンナーの肌は熱を帯びると、しっとりとして甘さがます。シュナーベル家の濃い血脈が、肌を甘く潤わせるからだ。私は腹違いの弟のグンナーを心から愛していた。その肌に触れて、愛し合わずにはいられなかった‥‥お互いにね』

『グンナー様は亡くなりました。忘れろとは言いません。ですが、父上には正気に戻ってもらわねばなりません。俺は次期当主として、父上を支えます。暗い感情は全て闇に葬ります。父上を恨むこともしません。』

『この父を恨まずにいられるとは優しいね、ヘクトール?』

『優しさではありません。今の父上は正気ではないから恨んでも仕方ないだけです。父上がどれ程自分が正気だと仰っても‥‥それは真実とは異なります。ですが、父上にはシュナーベル家の当主としての責務があります。正気に戻ることは父上の義務です!』

『父親に何度も抱かれながら、なお正気を保っている。ヘクトールは、図太いところがあるね。お前なら長くその体を楽しめた筈だ。だが、私の渇きは満たされなかった。実に残念だよ、ヘクトール。』

『‥‥父上。』

『やはり、グンナーの子であるマテウスとカールだけが‥‥私の渇きを満たしてくれるのだろうか?』

『っ!』

『二人はまだ幼い。だが、躾をする楽しみもある。とくに、マテウスは孕み子だ。グンナーのように私に抱かれ、甘い香りを放つマテウスを想うと‥‥‥たまらなくなる』

『ふざけるな!俺が父上との情交に応じる限りは、弟達には手を出さない。父上がそう明言したのに、忘れたとは言わせない!その言葉を信じて、俺は大人しく父上に従った。父上が正気に戻る迄の一時の事だと、自分に言い聞かせて耐えてきた。父上にはまだ理性が残っていると信じたかったから!』

『理性ねぇ‥‥』

『なのに、父上は俺との約束事を、簡単に反故にするのですか?貴方を信じた息子を簡単に裏切るのですね?そんな人間に‥‥お前の様な獣に、マテウスやカールを渡せるか!大切な弟達は、俺が絶対に守る!』

『ふふふ。ヘクトール、君は泣き虫だね。だが、泣きながら意見を主張するのは止めなさい。次期当主として相応しくない。実に情けない姿だ。それとね、私は君との約束を反故にした訳ではないよ?』

『えっ?』

『ヘクトールが私を満足させてくれていたら、マテウスやカールを求めたりしなかったさ。二人は幼いから、君のように長くは楽しめない可能性が高い。だが、ヘクトールは私を満足させられなかった。君の努力が足りなかった。ただ、それだけのことだよ‥‥ヘクトール』


『貴方を、殺したい』



◇◇◇◇◇◇


カールとマテウスは、ベッドで手を繋いで眠っていた。だが、二人は真夜中にヘクトールの怒鳴り声で目が覚めた。

「ヘクトール兄上は、こんな真夜中に何を騒いでいるのかな?ぐっすり眠っていたのに、目が覚めてしまったね、マテウス?」

「カール、あ、あにう、し、しんぱ、い」

「心配はいらないよ。父上の声も微かに聞こえたから。きっと、次期当主として兄上が何か失敗をしたに違いないよ。父上に叱られて、兄上が逆上して騒いでいるのだと思うよ?」

「じき、じき、と、しゆ」

「次期当主。マテウス、頑張って言ってごらん。ゆっくりでいいから」

「じき、としゅ、あにう、え、ヘクトール!」

「マテウスは、兄上の名前は完璧なんだよな。ねえ、マテウス‥‥僕の名前も呼んでよ。三回言って。あと、大好きも付けて」

「カール、カール、カール、だ、だい、す」

「カール三回連続、上手く言えたね!マテウス、大好きだよ。やっぱり、同じ部屋にしてもらって良かった。言葉が沢山出てきたね」

「いしょ、カール、へや」

カールはマテウスの額に、自身の額を押し付けて話しかける。マテウスは目を丸くしながら、カールの言葉に耳を傾ける。

「マテウス、これからは絶対に一人にはしないからね。僕がグンナーの部屋から、マテウスを連れ出していれば‥‥マテウスは言葉を失うことはなかった」




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