嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

月歌(ツキウタ)

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第三章

3-6 王城出仕の再開

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◆◆◆◆◆◆ 


ヴェルンハルト殿下が俺の事を心配してる?

いや、鵜呑みにしてはいけない。殿下が俺を油断させて、何かの罠を仕掛けている可能性がある。

それにしても、ヴォルフラム様は今日も紳士的で優しくてとても素敵!

「王太子殿下に心配を掛けてはいけませんね。急いで執務室に向かいましょう、ヴォルフラム様」

「はい、マテウス卿。」

前世での社畜生活はとても味気なくつまらない毎日だった。でも、BL小説『愛の為に』に出会い生活に癒しが生まれた。

ラストでヴェルンハルト殿下がヴォルフラムに突然殺害されたのは予想外すぎたけど‥‥。

とにかく、小説の主人公であるヴェルンハルト殿下には心から感謝している。前世の俺に癒しを与えてくれてありがとう。

でも、今世のヴェルンハルト殿下には不信感しかない。王城出仕一日目に酷い目に遭わされたしね。油断大敵な人物の今日の機嫌はどうなってるのかな?

「ヴォルフラム様。今日の王太子殿下のご機嫌はいかがでしょうか?」

俺の問にヴォルフラムが申し訳無さそうに答える。

「殿下の機嫌は今日はとても良いです。身辺の安全も確保されましたので。きっと、マテウス卿が皮肉を仰っても、怒り出す事はないはずです。但し、アルミン殿の話題は絶対に避けて下さい。一気に不機嫌になりますので」

すまない、アルミン。

君のお尻の見舞金請求は自ら殿下にお願いしてね。殿下の機嫌が悪くなる『アルミン』は禁句にするとして‥‥。

ヴェルンハルト殿下はアルミンとのセックスでぺニスを負傷した訳だけど‥‥。機能は大丈夫なのだろうか?気になるけど、ヴォルフラム様を相手にその様な下品な会話は出来ない!

「‥‥‥そうですか。では、ヴォルフラム様の忠告に従いアルミンの話題は避けますね。殿下は感情の起伏が激しいので色々と気を揉みます。」

俺の返事がワンテンポ遅れた事をヴォルフラムは気にしたようで、気遣いの言葉を掛けてくれる。

「王城出仕初日に殿下に暴力を振るわれたのですから、マテウス卿が殿下を恐れるのは当然です。殿下にはマテウス卿に謝罪するよう進言はしたのですが‥‥言葉での謝罪はしないとの事でした。」

「進言してくださったのですか?」

「はい、進言しました。ですが、殿下は見舞金を分割で支払いさせられているので、謝罪の必要はないと。もしも、謝罪の言葉を強く求められた場合には、見舞金を差し止めるとも仰っておられました。」

「そうでしたか‥‥。」

危機を乗り越えて成長したかと思ったが、殿下の性格に改善はなかったようだ。しかし、見舞金を差し止められるのは困る。

「マテウス卿、アルミン殿の件と同様に謝罪の要求はされぬほうが賢明だと思われます」

俺はわざと悲しげな表情を浮かべ、ヴォルフラムに向かい柔らかく微笑む。

「謝罪の件は既に諦めています。」
「マテウス卿」

「ヴォルフラム様は殿下に代わり、私の体を気遣う手紙を沢山送って下さいましたね。とても感謝しています。でも、その手紙の中に殿下直筆の手紙は一通もなかったので‥‥」

「殿下にも手紙を書くよう勧めたのですが‥‥申し訳ありません。」

「いえ、ヴォルフラム様はお手紙に『王城出仕をお待ちしています』と何度も書いて下さいました。その言葉に励まされて、私は今ここにいます」

俺がヴォルフラムに笑い掛けると、彼も優しい笑みを返してくれる。俺は彼の嬉しさに思わずにやけそうになり、必死に顔を引き締めた。涼やかな男に見えると良いのだが‥。

「その他に注意点はありますか、ヴォルフラム様?」

「そうですね‥‥。」

不意にヴォルフラムの様子がおかしくなる。そして、どこか言いにくそうに口を開く。

「執務室に入ると、少々息苦しく感じる時があるかも知れません。気分が悪くなるようでしたら、すぐに執務室を出ましょう。マテウス卿、我慢せずに声を掛けて下さいね。」

俺は思わず首を傾げる。執務室が息苦しく感じるとは、どういう意味だろう?

「ヴォルフラム様?」
「はい、マテウス卿」

「執務室が息苦しく感じるとは、どういう意味でしょうか?執務室が書類で埋め尽くされているのなら、私が片付けをいたしますが?」

「‥‥いえ、そういう意味ではありません」

ヴォルフラムが何とも言えない表情を浮かべる。興味深くヴォルフラムの顔を見ていると、目があってしまった。俺は慌てて視線を逸らすが、少し顔が赤らんでいるかも‥‥。

「ヴェルンハルト殿下は、騒動前の側近達を全て辞めさせました。騒動時に王城出仕を差し控える側近は信用出来ないと、殿下は仰られて。」

騒動時、王太子の地位は揺らぎ生命さえ危機に晒された。その時のヴェルンハルト殿下は、独り執務室の天井を眺めていたっけ。

孤独な殿下の姿を思い出して、急に心配になってきた。

「殿下のお気持ちはよくわかります。今度は良い側近に恵まれると良いですね」

「‥‥‥‥‥。」
「ヴォルフラム様?」

「殿下は今まで身分に関係なく能力重視で側近を選んでおられました」

「それは良いことだと思います」

「しかし、今回の件により‥‥殿下は能力よりも、愛情を重視する事になさったのです」

「??」

「ヴェルンハルト殿下は、側近を愛する者で固められたのです。多少能力に見劣りはあろうとも『愛』が重要だと、殿下は私に力説されました。恐らくマテウス卿にも力説されると思います。」

「それは、信頼に足る側近を集められたという事ですね?良いことだと思います」

「いえ、ヴェルンハルト殿下は『愛人』を側近にされました。全ての側近が殿下の愛人です。」

「え!?」

「体格の良い男性が殿下の好みのため、執務室に数人側近が集まりますと‥‥大変窮屈で息苦しく感じる事と思われます。マテウス卿、理解頂けましたでしょうか?」

「さようですか。側近が全て殿下の愛人で、殿下の好みは体格よい男性たち。だから、執務室が息苦しいと‥‥なるほど。」

いや、理解したくないんだけど!?



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