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秘密のお医者さま
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◆◆◆◆◆
「何してるんや、二人で?」
弥太郎の声に散花はびくりと体を震わす。喜助と散花は床に転がり、乳繰りあっている最中だった。散花が乱れた着物を手繰ると、喜助が散花の胸に手を忍び込ませる。
「あっ、喜助さん!」
「おい!」
「俺は散花に惚れてる。他人が口出しするな、弥太郎」
「悪いが他人やない。俺は散花を回しとして開発中や。勝手に触るな。」
二人が険悪になり居心地が悪くなった散花は、喜助の手から逃れて立ち上がった。そして、弥太郎に駆け寄る。
「どないしたんですか、弥太郎さん?」
「ああ、お前に手紙や‥‥医者から」
「あっ、ああ!ありがとう、弥太郎さん。お医者さんはもう帰りはった?」
「いや、稲荷神社の前で少し待つって言うとった。行くんか、散花?」
「うん!行ってくる!」
散花は土間で下駄を履くと振り向くこともなく長屋を飛び出していった。長屋に取り残された弥太郎と喜助は顔を合わせると、同時に口を開く。
「散花は渡さんからな」
「散花は渡さん」
「‥‥‥‥‥‥。」
「‥‥‥‥‥‥。」
「で、その薮医者は何者や?」
「俺が知るか!」
◇◇◇◇
散花は稲荷神社に向かって走る。赤い鳥居が見えてほっとすると、その手前に目的の医者がいた。
「平太兄ちゃん!」
「平吉」
散花が町医者に抱きつくと、男は困った顔をする。散花は慌てて距離を取るが、それでも手を差し出し頬を赤らめる。
「平吉は甘えたやね。」
「久しぶりに逢うから。」
町医者は散花の手を握ると神社へのお参りに誘った。境内を歩きながら散花はちらりと医者となった兄に視線を向けた。
飢饉の年に兄弟で売られた。でも、売られた先は別々だった。兄は勉学の才を見込まれ寺の稚児となり、弟は才ないと見なされ陰間茶屋に売られた。
寺での長く辛い修行を経て僧侶となった兄は、高名な医者に見出され医者となる道を選んだ。同時に、兄は弟の行方を探していた。そして、売られた陰間茶屋を見つけ出し弟に逢いに来たのだ。
寺の稚児として僧侶に幾度か抱かれたが、商売として抱かれたことはなく勉学の道も開けた兄。だが、弟は客に抱き潰され体を壊していた。
兄には弟を水揚げする金はなく、ただ弟を治療するために客として通い続けた。弟は兄の存在に縋りながら生き長らえ『散る花』の歳になり、皆から「散花」と呼ばれるようになる。
「散花」は兄弟にとり喜ばしくも悲しい名前だった。だから、二人の時は昔の名前で呼び合う。二人を捨てた親がつけた名前で。
「平太兄さん、私は回しになったから当分『蔦屋』にいるから。また逢いにきて」
「平吉、私と一緒に住む気はないのか?」
「あかんよ。お医者さんの所に元陰間が居着いたら、評判落ちるよ。二人の関係は秘密でいいの。でも、今はお兄ちゃんて呼ばせて」
「いつか‥‥絶対迎えに行く」
「私の気は変わらんよ?」
「私の気も変わらない」
「しつこいなあ」
二人はお参りをすませると、赤い鳥居の元に戻った。散花は兄の手から自らの手を離し一人歩き出す。
「平吉」
「平吉は散花に戻ります。また逢ってね」
「あぁ、また訪ねる。」
弟は散花に戻ると下駄を鳴らしながら、陰間茶屋『蔦屋』に向かう。その姿を兄は何時までも見つめていた。
(おわり)
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「何してるんや、二人で?」
弥太郎の声に散花はびくりと体を震わす。喜助と散花は床に転がり、乳繰りあっている最中だった。散花が乱れた着物を手繰ると、喜助が散花の胸に手を忍び込ませる。
「あっ、喜助さん!」
「おい!」
「俺は散花に惚れてる。他人が口出しするな、弥太郎」
「悪いが他人やない。俺は散花を回しとして開発中や。勝手に触るな。」
二人が険悪になり居心地が悪くなった散花は、喜助の手から逃れて立ち上がった。そして、弥太郎に駆け寄る。
「どないしたんですか、弥太郎さん?」
「ああ、お前に手紙や‥‥医者から」
「あっ、ああ!ありがとう、弥太郎さん。お医者さんはもう帰りはった?」
「いや、稲荷神社の前で少し待つって言うとった。行くんか、散花?」
「うん!行ってくる!」
散花は土間で下駄を履くと振り向くこともなく長屋を飛び出していった。長屋に取り残された弥太郎と喜助は顔を合わせると、同時に口を開く。
「散花は渡さんからな」
「散花は渡さん」
「‥‥‥‥‥‥。」
「‥‥‥‥‥‥。」
「で、その薮医者は何者や?」
「俺が知るか!」
◇◇◇◇
散花は稲荷神社に向かって走る。赤い鳥居が見えてほっとすると、その手前に目的の医者がいた。
「平太兄ちゃん!」
「平吉」
散花が町医者に抱きつくと、男は困った顔をする。散花は慌てて距離を取るが、それでも手を差し出し頬を赤らめる。
「平吉は甘えたやね。」
「久しぶりに逢うから。」
町医者は散花の手を握ると神社へのお参りに誘った。境内を歩きながら散花はちらりと医者となった兄に視線を向けた。
飢饉の年に兄弟で売られた。でも、売られた先は別々だった。兄は勉学の才を見込まれ寺の稚児となり、弟は才ないと見なされ陰間茶屋に売られた。
寺での長く辛い修行を経て僧侶となった兄は、高名な医者に見出され医者となる道を選んだ。同時に、兄は弟の行方を探していた。そして、売られた陰間茶屋を見つけ出し弟に逢いに来たのだ。
寺の稚児として僧侶に幾度か抱かれたが、商売として抱かれたことはなく勉学の道も開けた兄。だが、弟は客に抱き潰され体を壊していた。
兄には弟を水揚げする金はなく、ただ弟を治療するために客として通い続けた。弟は兄の存在に縋りながら生き長らえ『散る花』の歳になり、皆から「散花」と呼ばれるようになる。
「散花」は兄弟にとり喜ばしくも悲しい名前だった。だから、二人の時は昔の名前で呼び合う。二人を捨てた親がつけた名前で。
「平太兄さん、私は回しになったから当分『蔦屋』にいるから。また逢いにきて」
「平吉、私と一緒に住む気はないのか?」
「あかんよ。お医者さんの所に元陰間が居着いたら、評判落ちるよ。二人の関係は秘密でいいの。でも、今はお兄ちゃんて呼ばせて」
「いつか‥‥絶対迎えに行く」
「私の気は変わらんよ?」
「私の気も変わらない」
「しつこいなあ」
二人はお参りをすませると、赤い鳥居の元に戻った。散花は兄の手から自らの手を離し一人歩き出す。
「平吉」
「平吉は散花に戻ります。また逢ってね」
「あぁ、また訪ねる。」
弟は散花に戻ると下駄を鳴らしながら、陰間茶屋『蔦屋』に向かう。その姿を兄は何時までも見つめていた。
(おわり)
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