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第二部 シノ=アングル

第6話 ヤンを雇って一年後

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◆◆◆◆◆

ヤンを雇ってから一年が経つ。


「もう朝です。仕事の時間です、シノ。早く起きて着替えて下さい。」

最初に比べて明らかに遠慮が無くなった。女との朝のセックスを邪魔してまで仕事をさせたいのか!?

「んっ‥‥無理だ。忙しい」

「忙しい事情は見てわかります。ですが、早々に切り上げてください。」

女と睦むベッドの横でヤンが冷静に俺の言葉を切り捨てた。挿入済みの男の気持ちを、ヤンはわかっていない。

「‥‥ひど過ぎる。」

「酷くないです。ハンスさんから呼ぶように頼まれました。僕の評価が落ちる前に、さっさと射精してください。」

「親父め!!」

親父への怒りを込めて、朝日を浴びながら俺は必死に腰を動かした。そして、女の内部に精を放つ。

「あんっ、熱いのきたぁ‥‥」
「そうか、来たか」
「もう一回、駄目なの?」

女の可愛い言葉に頭がクラクラして、再度腰を奥に押し込もうとした。だが、ヤンが俺の腰に抱きついて制止する。

「ヤン、ヤラせろ!」

「色情魔ですか、シノ!引き抜きますよ。よいしょ!よいしょ!」

「うお、やめろーーーーー!」

ズボッとやらしい音をたてながら、俺のイチモツが女から抜けた。バランスを崩した俺はヤンを巻き込みながらベッドから転落する。

「うおっ!」
「うわっ」

ヤンを抱き寄せて床に転がったせいで、背中を床にしこたま打った。

「シノ、大丈夫ですか?」
「背中が痛い。お前は?」
「僕は痛くないです。」

「俺がお前を庇ったからな。俺はなんて優しい奴なんだ。自分で自分を褒めたい。お前も俺を褒めろ、ヤン」

俺がそう返事すると、俺の上に倒れ込んだままのヤンが少し頬を赤らめて応じる。

「すごいです、シノ。ありがとう」
「いや‥‥まあ、どういたしまして。」

なんとなく下半身に痺れを感じて、俺はブルリと身を震わせる。ヤンはビクッと震えてもじもじし始めた。俺の半勃ちのイチモツがヤンの腰にあたっている‥‥流石にまずいな。

「アイラ、俺の下着を取ってくれ」

「ちょっと、私とのセックスの後に速攻で男にがっつかないでくれる。私はもぅ帰るわ。料金は後で請求するからよろしくね。」

「おう、名器だったぞ」
「あら、ありがとう」

娼婦のアイラはさっさと服を着ると、俺の顔にパンツと衣服を投げ捨てて部屋を出て行った。

「ヤン、着替えるから離れろ」

「ごめんなさい、シノ!部屋の外で待ってますね。」

「別に部屋を出ることはない。」

俺はヤンを抱き上げてベッドの縁に座らせると、イチモツを布で拭いてからパンツを履いた。ヤンはもじもじしながら視線をそらしている。

「大胆に俺の腰に抱きついたくせに、今頃恥ずかしくなったのか?」

「部屋の外から何度も呼んだんですよ。なのに全然出てこないから合鍵で部屋に入ったら、女の人に挿入してる最中だし‥‥こまります。」

「困るのは俺の方だ、ヤン。昨日の夜に娼婦を部屋に呼ぶから朝は来なくて良いって伝えてただろ。なのに、合鍵で入ってくるとは変態か、ヤン?」

衣服を着終えたので、ヤンの隣に座ってブーツを履く。ヤンはようやく視線をこちらに向けて反論した。

「シノの親父さんに用事を頼まれなかったら、合鍵を使ってまで部屋には入らないよ。変態じゃないし、無粋なことをして悪かったとは思ってます。」

「ならいい」

俺がヤンの頭髪をくしゃくしゃと弄ると、弟分は嫌そうに頬を膨らませた。

「子供扱いはやめてください」

「頬を膨らませて言うことか。ん?その真珠のカフスボタンはどうした?そんなの持ってなかったよな」

俺が指摘すると、ヤンは嬉しそうにカフスボタンに触れた。

「ハンスさんから貰いました。1年間頑張ったご褒美だって‥‥。ハンスさんに評価されて嬉しい。」

俺は呆れてため息をつく。

「親父は相変わらずお前に甘いな。しょっちゅう菓子の類を差し入れするしさ。ちょっと贔屓しすぎだ。お前もホイホイと貰わずに断れ」

「断るなんてできないよ」

「その真珠のカフスボタンは断るべきだった。親父に返すから渡せ」

俺の言葉にヤンは首を振って拒否する。俺は苛つきながらヤンに迫った。

「娼館の主から簡単に高いものを貰うな。お前が貴族だとバレた時に、親父がそのカフスボタンは盗まれたモノだと言ったらどうする?簡単に男娼に貶されるぞ。」

俺の言葉にヤンは表情を強張らせる。それでも、俺に楯突いた。

「もう一年もハンスさんの元で働いてるんだよ?今更僕が貴族だと分かっても、ハンスさんはそんな酷いことしないよ。娼館を追い出されるかもしれないけど‥‥。」

ヤンは真珠のカフスボタンを奪われないように俺から身を離す。厄介な弟分にため息を付きながら、俺は立ち上がった。

「分かった‥‥もう何も言わない。」
「ごめん、シノ」

「俺は親父に会いに行ってくるから、お前は帳簿付けをしていてくれ。帳簿は机の中だ。帳簿はこの部屋以外は持ち出し禁止。いつものように、そこの机で作業しろ。後でチェックするから」

「わかりました、シノ」
「じゃあ、よろしくな」

俺はヤンを部屋に残して廊下に出た。親父はヤンに甘い。でも、俺も相当ヤンに甘い。部屋の合鍵どころか、帳簿の入った机の合鍵まで渡しているのだから。

俺は自分に呆れて苦笑いを浮かべた。



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