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第一部 ヤン=ビーゲル
第22話 婚約破棄!
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◆◆◆◆◆
「馬鹿なことを言うな、ヤン!」
「え、でも‥‥」
「お前をようやく取り戻したのに、手元から離せるものか。嘘の手紙ばかり寄越して‥‥私を惑わし騙して。それほど私から離れたいのか、ヤン?」
兄は僕の耳元に顔を寄せると淡いため息を漏らした。そして、ボソリと呟く。
「私に妻はいない。」
「え?」
「ヤンは何も気遣うことはない。父上も領地から出ることもないだろう。ヤンは私のそばにいなさい。」
ライナー兄上にはマリアという婚約者がいた。年齢的にはもう結婚していないとおかしい。
「兄上はまだマリア様と結婚されていないのですか?」
「マリア=カルネスタとは婚約を破棄した。」
「え!?」
「マリアがお前を侮辱する発言を繰り返したことで、女の醜さを知ったよ。家同士の繋がりを考え随分我慢したが、気がつけば紅茶を彼女の顔面にぶち撒けていてね‥‥。」
ライナー兄上が切れ散らかしていた!なにやってるの、兄上!
「マリア様は火傷されたのでは?」
「いや、冷めた紅茶だから火傷はしていない。流石に私も熱い紅茶を女性に掛けたりはしないよ、ヤン。」
冷静にキレてた兄上がちょっと怖い。でも、ライナー兄上が僕のことで怒ってくれたのは少し嬉しいかも。
僕の事を弟としてまだ愛してくれているんだ。血が繋がっていないと分かっても、大切にしてくれる兄上。
「僕の為に怒ってくれてありがとう、ライナー兄上。」
「当然だ、ヤン」
僕たちはギュッと抱きしめあった。兄弟の絆を確かめ合っていると、背後からシノの声が聞こえてくる。
「兄弟でイチャイチャし過ぎだろ。普通に気持ち悪いんだけど‥‥。」
僕が振り返るとシノが目覚めていた。顔色はあまり良くないが元気そう。それにしても、ガタイのいいシノがエドガーに抱っこされてるの面白すぎた。
僕が笑い出すと察しのいいシノはすぐに不機嫌になり、ブツブツと文句を口にする。
「ヤン」
「はい、兄上?」
「視線は私に固定しなさい。ヤンは昔から馬車の揺れに弱い。酔ってしまう前にこちらに。」
また兄上に抱き寄せられて困ってしまう。もう大人だから酔わないと思うが、気にしだすとなんだか気持ちが悪くなってきてしまった。
「兄上~、胸に寄りかかってもよろしいですか?すこし、辛いです」
「勿論だ、ヤン!さあ、来なさい。」
妙に弾んだライナー兄上の声を聞きながら僕はもたれかかる。昔と変わらず兄上のよい匂いがする。
このまま、以前の生活に戻れたらどれだけ良いか。でも、色街で過ごした日々が、僕を貴族の世界から遠ざける。いつかまた兄の元を去る日が来ると思うと、切なくてたまらなかった。
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「馬鹿なことを言うな、ヤン!」
「え、でも‥‥」
「お前をようやく取り戻したのに、手元から離せるものか。嘘の手紙ばかり寄越して‥‥私を惑わし騙して。それほど私から離れたいのか、ヤン?」
兄は僕の耳元に顔を寄せると淡いため息を漏らした。そして、ボソリと呟く。
「私に妻はいない。」
「え?」
「ヤンは何も気遣うことはない。父上も領地から出ることもないだろう。ヤンは私のそばにいなさい。」
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「兄上はまだマリア様と結婚されていないのですか?」
「マリア=カルネスタとは婚約を破棄した。」
「え!?」
「マリアがお前を侮辱する発言を繰り返したことで、女の醜さを知ったよ。家同士の繋がりを考え随分我慢したが、気がつけば紅茶を彼女の顔面にぶち撒けていてね‥‥。」
ライナー兄上が切れ散らかしていた!なにやってるの、兄上!
「マリア様は火傷されたのでは?」
「いや、冷めた紅茶だから火傷はしていない。流石に私も熱い紅茶を女性に掛けたりはしないよ、ヤン。」
冷静にキレてた兄上がちょっと怖い。でも、ライナー兄上が僕のことで怒ってくれたのは少し嬉しいかも。
僕の事を弟としてまだ愛してくれているんだ。血が繋がっていないと分かっても、大切にしてくれる兄上。
「僕の為に怒ってくれてありがとう、ライナー兄上。」
「当然だ、ヤン」
僕たちはギュッと抱きしめあった。兄弟の絆を確かめ合っていると、背後からシノの声が聞こえてくる。
「兄弟でイチャイチャし過ぎだろ。普通に気持ち悪いんだけど‥‥。」
僕が振り返るとシノが目覚めていた。顔色はあまり良くないが元気そう。それにしても、ガタイのいいシノがエドガーに抱っこされてるの面白すぎた。
僕が笑い出すと察しのいいシノはすぐに不機嫌になり、ブツブツと文句を口にする。
「ヤン」
「はい、兄上?」
「視線は私に固定しなさい。ヤンは昔から馬車の揺れに弱い。酔ってしまう前にこちらに。」
また兄上に抱き寄せられて困ってしまう。もう大人だから酔わないと思うが、気にしだすとなんだか気持ちが悪くなってきてしまった。
「兄上~、胸に寄りかかってもよろしいですか?すこし、辛いです」
「勿論だ、ヤン!さあ、来なさい。」
妙に弾んだライナー兄上の声を聞きながら僕はもたれかかる。昔と変わらず兄上のよい匂いがする。
このまま、以前の生活に戻れたらどれだけ良いか。でも、色街で過ごした日々が、僕を貴族の世界から遠ざける。いつかまた兄の元を去る日が来ると思うと、切なくてたまらなかった。
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