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第一部 ヤン=ビーゲル
第14話 ライナー=ビーゲル
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◆◆◆◆◆
何時までもシノに縋っていては駄目だ。シノを困らせる事になる。僕は動揺を心の内に抑え込みシノに話し掛けた。
「僕はハルスが持ってきた服に着替えるけど、シノはどうする?シノの服は僕の精液でベトベトだから‥‥」
「ああ、そうだったな。じゃあ、俺は受付のルートに頼んで新しい服を用意してもらう。着替えてから戻るから、その間にヤンも着替えていてくれ」
僕が頷くとシノが僕の髪をくしゃりと撫でて治療院を出ていった。その間に僕も着替えることにする。
「露出が少なくて良かった。」
ハルスの用意した衣装は綺羅びやかだが下品な物ではなかった。
「ハルスのことだから、身請け相手の好みを推測してコレを用意したんだろうな‥‥。」
僕の身請けを望んでいるのは、ドトールとギル=ハーネスの二人。
僕を裏切ったギル=ハーネスが、身請けする為に娼館に来ている。
「どうしてギルが僕を身請けしようとするんだよ。僕を騙して金を奪った癖に‥‥。」
そう呟いて後悔した。
ギルの顔を思い出すだけで胸がギュッと痛む。ビーゲル家を追い出されて途方に暮れていた時に、僕はギルと出逢った。
「一緒にパン工房を開こうって言ってくれたのに‥‥。」
僕から金を奪って失踪した。酷い話だ。もしも男と再会したら、いっぱい罵ってやるつもりだった。
なのに、男娼と身請け相手として逢うことになるなんて。
「酷いよ‥‥。」
不意に涙が溢れてきて止まらなくなる。早く服を着ないとシノが戻ってきてしまう。泣いてたら心配かけちゃう。
これ以上、シノに心配かけたくない。そう思っていたのに、治療院の布が持ち上がる気配がした。僕は慌てて制止しようとする。
「待って、シノ。ごめん!まだ着替えていなくて。すぐに着替えるから、もうちょっと待って‥‥えっ?」
「ヤン!」
僕は治療院に入ってきた人物を見て大きく目を見開いた。その拍子に涙がポロリと溢れ落ちる。
ライナー=ビーゲル。
血の繋がらない、僕の兄。
「‥‥‥兄上、どうしてここに」
僕は衣装を取り落とした事も気が付かずに、兄をじっと見つめる。その兄は厳しい表情でこちらに向かってきた。僕は不意に恐怖を感じて後退りする。
「あっ‥‥やだっ」
きっと兄は怒っているんだ。男娼をする弟の存在なんて恥でしかない。僕は両手で顔を覆って溢れ出る涙を隠した。
こんな姿を見られたくなかった。
「すまない、ヤン」
優しい声で呼ばれて僕はハッとする。抱き寄せるその腕は優しく、気がつけば兄の胸に抱き込まれていた。
「ライナー兄上‥‥僕は、僕は」
「ドトールから知らせを受けて駆けつけた。まさか、ヤンが色街にいるなんて‥‥。とにかく、話は後で幾らでも聞く。馬車を待たせているから、このまま屋敷に戻るぞ」
「え?ええ!?」
僕は兄の胸の中で混乱したまま困惑の声を上げていた。
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何時までもシノに縋っていては駄目だ。シノを困らせる事になる。僕は動揺を心の内に抑え込みシノに話し掛けた。
「僕はハルスが持ってきた服に着替えるけど、シノはどうする?シノの服は僕の精液でベトベトだから‥‥」
「ああ、そうだったな。じゃあ、俺は受付のルートに頼んで新しい服を用意してもらう。着替えてから戻るから、その間にヤンも着替えていてくれ」
僕が頷くとシノが僕の髪をくしゃりと撫でて治療院を出ていった。その間に僕も着替えることにする。
「露出が少なくて良かった。」
ハルスの用意した衣装は綺羅びやかだが下品な物ではなかった。
「ハルスのことだから、身請け相手の好みを推測してコレを用意したんだろうな‥‥。」
僕の身請けを望んでいるのは、ドトールとギル=ハーネスの二人。
僕を裏切ったギル=ハーネスが、身請けする為に娼館に来ている。
「どうしてギルが僕を身請けしようとするんだよ。僕を騙して金を奪った癖に‥‥。」
そう呟いて後悔した。
ギルの顔を思い出すだけで胸がギュッと痛む。ビーゲル家を追い出されて途方に暮れていた時に、僕はギルと出逢った。
「一緒にパン工房を開こうって言ってくれたのに‥‥。」
僕から金を奪って失踪した。酷い話だ。もしも男と再会したら、いっぱい罵ってやるつもりだった。
なのに、男娼と身請け相手として逢うことになるなんて。
「酷いよ‥‥。」
不意に涙が溢れてきて止まらなくなる。早く服を着ないとシノが戻ってきてしまう。泣いてたら心配かけちゃう。
これ以上、シノに心配かけたくない。そう思っていたのに、治療院の布が持ち上がる気配がした。僕は慌てて制止しようとする。
「待って、シノ。ごめん!まだ着替えていなくて。すぐに着替えるから、もうちょっと待って‥‥えっ?」
「ヤン!」
僕は治療院に入ってきた人物を見て大きく目を見開いた。その拍子に涙がポロリと溢れ落ちる。
ライナー=ビーゲル。
血の繋がらない、僕の兄。
「‥‥‥兄上、どうしてここに」
僕は衣装を取り落とした事も気が付かずに、兄をじっと見つめる。その兄は厳しい表情でこちらに向かってきた。僕は不意に恐怖を感じて後退りする。
「あっ‥‥やだっ」
きっと兄は怒っているんだ。男娼をする弟の存在なんて恥でしかない。僕は両手で顔を覆って溢れ出る涙を隠した。
こんな姿を見られたくなかった。
「すまない、ヤン」
優しい声で呼ばれて僕はハッとする。抱き寄せるその腕は優しく、気がつけば兄の胸に抱き込まれていた。
「ライナー兄上‥‥僕は、僕は」
「ドトールから知らせを受けて駆けつけた。まさか、ヤンが色街にいるなんて‥‥。とにかく、話は後で幾らでも聞く。馬車を待たせているから、このまま屋敷に戻るぞ」
「え?ええ!?」
僕は兄の胸の中で混乱したまま困惑の声を上げていた。
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