娼館で働く托卵の子の弟を義兄は鳥籠に囲いたい

月歌(ツキウタ)

文字の大きさ
上 下
14 / 38
第一部 ヤン=ビーゲル

第14話 ライナー=ビーゲル

しおりを挟む
◆◆◆◆◆


何時までもシノに縋っていては駄目だ。シノを困らせる事になる。僕は動揺を心の内に抑え込みシノに話し掛けた。

「僕はハルスが持ってきた服に着替えるけど、シノはどうする?シノの服は僕の精液でベトベトだから‥‥」

「ああ、そうだったな。じゃあ、俺は受付のルートに頼んで新しい服を用意してもらう。着替えてから戻るから、その間にヤンも着替えていてくれ」

僕が頷くとシノが僕の髪をくしゃりと撫でて治療院を出ていった。その間に僕も着替えることにする。

「露出が少なくて良かった。」

ハルスの用意した衣装は綺羅びやかだが下品な物ではなかった。

「ハルスのことだから、身請け相手の好みを推測してコレを用意したんだろうな‥‥。」

僕の身請けを望んでいるのは、ドトールとギル=ハーネスの二人。

僕を裏切ったギル=ハーネスが、身請けする為に娼館に来ている。

「どうしてギルが僕を身請けしようとするんだよ。僕を騙して金を奪った癖に‥‥。」

そう呟いて後悔した。

ギルの顔を思い出すだけで胸がギュッと痛む。ビーゲル家を追い出されて途方に暮れていた時に、僕はギルと出逢った。

「一緒にパン工房を開こうって言ってくれたのに‥‥。」

僕から金を奪って失踪した。酷い話だ。もしも男と再会したら、いっぱい罵ってやるつもりだった。

なのに、男娼と身請け相手として逢うことになるなんて。

「酷いよ‥‥。」

不意に涙が溢れてきて止まらなくなる。早く服を着ないとシノが戻ってきてしまう。泣いてたら心配かけちゃう。

これ以上、シノに心配かけたくない。そう思っていたのに、治療院の布が持ち上がる気配がした。僕は慌てて制止しようとする。

「待って、シノ。ごめん!まだ着替えていなくて。すぐに着替えるから、もうちょっと待って‥‥えっ?」

「ヤン!」

僕は治療院に入ってきた人物を見て大きく目を見開いた。その拍子に涙がポロリと溢れ落ちる。

ライナー=ビーゲル。
血の繋がらない、僕の兄。

「‥‥‥兄上、どうしてここに」

僕は衣装を取り落とした事も気が付かずに、兄をじっと見つめる。その兄は厳しい表情でこちらに向かってきた。僕は不意に恐怖を感じて後退りする。

「あっ‥‥やだっ」

きっと兄は怒っているんだ。男娼をする弟の存在なんて恥でしかない。僕は両手で顔を覆って溢れ出る涙を隠した。

こんな姿を見られたくなかった。

「すまない、ヤン」

優しい声で呼ばれて僕はハッとする。抱き寄せるその腕は優しく、気がつけば兄の胸に抱き込まれていた。

「ライナー兄上‥‥僕は、僕は」

「ドトールから知らせを受けて駆けつけた。まさか、ヤンが色街にいるなんて‥‥。とにかく、話は後で幾らでも聞く。馬車を待たせているから、このまま屋敷に戻るぞ」

「え?ええ!?」

僕は兄の胸の中で混乱したまま困惑の声を上げていた。


◆◆◆◆◆
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

処理中です...