娼館で働く托卵の子の弟を義兄は鳥籠に囲いたい

月歌(ツキウタ)

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第一部 ヤン=ビーゲル

第6話 治療院で語り合う

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◆◆◆◆◆

公衆浴場の奥には半個室の治療院がある。僕は布が敷かれた床に横たわり、ドトールに尻穴を見せていた。

「なんてことだ!ヤン様の尻の穴が‥‥腫れて切れてヒクヒクしている。なぜこのような事に!それに、この精液臭い体は‥‥ああ、ヤン様、おいたわしい。」

治療院の扉には布が垂らされ、外からの視線は遮断されている。でも、声は外に丸聞こえだ!

「やめろ、ドトール。医者ならば口を閉じて治療に専念しろ!お前は僕を羞恥心で殺すつもりなのか?」

男のイチモツを派手に突っ込まれたので、尻穴の惨状は分かっている。だから、いちいち説明するな。恥ずかしくて‥‥泣ける。

「羞恥心で殺すなどと‥誤解です。ただ混乱しているのです。」

「混乱?」

「ヤン様がビーゲル家を追放された際に、兄上のライナー様は貴方にお金を持たせて市井に送り出した筈。その様にお聞きしていたのですが、実際には違ったのですか?」

「ああ、ドトールは兄上が大金を持たせてくれた事を知っていたんだ。」

「御本人から聞きました。」
「そっか‥‥。」

母と托卵の子であった僕に激怒した父上は、母子を無一文でビーゲル家から追放した。でも、兄上は父上には秘密で、沢山の優しい想いと共に大金を僕に手渡してくれて‥‥。

◇◇◇

『ヤン、これを持っていきなさい。私が今手渡せるお金はこれが限界だ。でも、パン工房の開業権利を買い取るだけのお金はある。もしも、市井で生きるならこれを上手く使いなさい、ヤン』

『兄上!』

『市井に馴染めず貴族に戻りたいと思ったなら、私がなんとしてもビーゲル家に連れ帰る。今すぐには無理だが、必ず父上を説得する。お前は私の唯一の弟。愛しい我が弟、ヤン。必ず連れ帰るから、連絡は絶やさないで欲しい。』

◇◇◇

うう、兄上との会話を想い出して泣きそう。兄上~!市井に馴染む前に母に捨てられました。その後、親友と思った男に資金を騙し取られて、今は色街で男娼をしてます。

市井を舐めてました、兄上。
世間は世知辛いです。

「‥‥泣いておられるのですか?」
「傷が痛むだけだよ」
「左様ですか、ヤン様」

ドトールが僕の髪をくしゃりと撫でる。貴族時代、病気に掛かると彼は治療後にいつも『頑張ったね』と頭を撫でてくれた。懐かしくて余計に泣けそうになる。

不意に治療院の布を潜ってシノが入ってきた。お湯の入った樽を抱えているが、足取りに乱れはない。

「湯を持ってきてやったぞ、ヤン。」
「ありがとう、シノ」

「神妙なヤンは気持ち悪からやめろ。それよりもその医者はなんで俺を睨んでいるんだ?治療の手助けをしてやってるのに‥‥不愉快だ。」

シノは言葉通り不愉快そうにドトールを見る。そんなシノを睨み返す医者はバッサリと言葉で切り返した。

「治療の手助けには感謝します。お湯はそこに置いて下さい。後はさっさと治療院から出て行ってくださると助かります。ヤン様の裸体を見る目がいやらしくて不愉快ですので」

ドトールの言葉にシノの眉が跳ね上がる。うおぅ、やめてくれ。僕の治療はいつ始まるんだ?

僕は裸体なんだぞ!


◆◆◆◆◆


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