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第一部
1-2 マンチニールの毒 ②
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◆◆◆◆◆
「魔王も気の毒だよね。彼は異世界との扉を閉じていただけで、特に悪いことはしていなかったのに。魔物は人間を襲って食べるけど、魔王が封じられてもまだ食べてるしね」
「まあ…そうだな」
「お祖父様は魔王を封印して英雄になったけど、わりと周囲に迷惑かけてるよな…」
勇者の孫が英雄を辛口評価するのが面白くて、ロストは笑いを噛み締めながら尋ねた。
「例えば?」
「例えば…とは?」
「勇者は周囲にどんな迷惑をかけているんだ?」
「ああ、その事ね。例えば、このマンチニールの木もそう。魔王が封じられて異世界との扉が開きっぱなしだから、あっちの世界の植物がこの世界に転移してくるようになっただろ?」
「確かにな。でも、ラフィールは外来植物を駆除する仕事を王国から依頼されてる訳だから…じいさんが仕事を作ってくれたともいえなくないな」
「それな!性格の悪い奴は私に聞こえるように悪口言うんだよね。勇者の孫が美味しい仕事を独占してるとか…マジで腹立つ」
ラフィールは膨れっ面になりながら、さらに言葉を発する。
「あとは、魔王が封印されてから、人間同士の争いが増えたよね。我が国も戦争してるしさ。まあ、大国だから今のところ生活に影響はないけどさ…。やっぱり共通の敵が必要なんだよ人間は。ロスト、魔王の代わりする?」
ラフィールのいたずらっぽい言葉に、ロストは頭突きで返事した。
「いたぁーーー!」
「ふん。俺が魔王に成り代わろうとすれば、お前は敵に回るだろうが」
「それはそうだろ」
ロストは呆れ顔でラフィールを抱き上げると、庭園の真ん中にあるガゼボに移動した。そして、ガゼボのベンチにラフィールを座らせる。
「さて、そろそろ仕事に取り掛かろう。ラフィール、手袋を外す許可をくれ」
「ロスト、手袋を外す事を許す」
ラフィールの言葉にロストは一礼すると、両手の白い手袋を取った。その指先は禍々しい暗黒の色をしている。
「美しいな」
闇色の指先を見つめてラフィールが甘いため息を漏らす。ロストは呆れて肩を竦めた。
「この手を見て美しいと言うのはお前だけだ、ラフィール」
「皆は見る目がないだけだ。私はロストが私を主に選んでくれたことに感謝している…お前を信頼している」
ラフィールが笑ってそう言うので、ロストは見えない鎖を手に取り揺らしながら呟く。
「信頼しているならこんな鎖をつけることはないだろ。首輪付きの悪魔に掛ける言葉ではないな」
ロストにそう言い返されて、ラフィールは苦笑いを浮かべた。
「首輪を外せば魔界に帰ってしまうだろ、ロスト。それでは私は困るのだ。商売ができなくなる。さあ、仕事に掛かってくれ。マンチニールの樹をその手で枯らしてくれ。他の植物には触れるなよ。細心の注意を払え。あ、マンチニールの実を一つ取っといてくれない?ちょっと実験を……」
「全部枯らす!」
ラフィールはロストに一刀両断にされて、ベンチで項垂れる。その姿を見てにやりと笑ったロストがマンチニールの木に向かい歩き出した。
ロストはマンチニールの木の下に来ると、その樹木に手をあてがった。じわじわと黒い闇が広がり急激に樹木の勢いが削がれる。ギシギシと軋みだすマンチニールの木は断末魔の声を上げながら闇に覆われ崩れ落ちた。
枯らすというよりは闇に食われるって表現が正しいな…そんな事を思ってロストが黒く結晶化した樹木の残りを見ていると、背後から声がかかり飛び上がる。
「そんなに驚くことないだろ?」
「危ないから近づくなって言っただろ、ラフィール!」
「結晶化したらもう危険はないだろ?それにしても、結晶化した樹木は美しいな。これを宝石として売り出せないかな?」
ロストはラフィールの言葉を無視して、マンチニールの黒い結晶をガツガツと蹴って粉々に潰した。塵芥になったマンチニールの欠片は毒性を失いそのまま土に還る。
「あ~、もったいない」
「勿体ないじゃね~よ。勇者の孫が金にガメついとか…情けない」
「え~、美味しいものたべたいしさ。そうだ!帰りにケーキ屋さん寄ろうよ」
「ん…ケーキは悪くないな」
「でしょ?」
「じゃ帰り支度をするか」
「はい、手袋」
ラフィールが白い手袋を差し出したので、それをひょいとつまんでロストは手にはめる。闇色の指先が消えるのを見ていたラフィールは、ロストの肩に触れて不意に真顔で呟いた。
「ロスト」
「なんだ?」
「マンチニールの花言葉を知ってる?」
「知るわけないだろ」
「なら教えてあげる。マンチニールの花言葉は【虚偽】だよ」
「虚偽ねぇ」
「シュールだろ?」
「シュールだな」
魔王の息子が勇者の孫の鎖付きってのもシュールだが、その事はラフィールにも内緒だ…ロストはそう思いつつ、ちょっと笑ってラフィールの肩を抱く。
◆◆◆◆◆
「魔王も気の毒だよね。彼は異世界との扉を閉じていただけで、特に悪いことはしていなかったのに。魔物は人間を襲って食べるけど、魔王が封じられてもまだ食べてるしね」
「まあ…そうだな」
「お祖父様は魔王を封印して英雄になったけど、わりと周囲に迷惑かけてるよな…」
勇者の孫が英雄を辛口評価するのが面白くて、ロストは笑いを噛み締めながら尋ねた。
「例えば?」
「例えば…とは?」
「勇者は周囲にどんな迷惑をかけているんだ?」
「ああ、その事ね。例えば、このマンチニールの木もそう。魔王が封じられて異世界との扉が開きっぱなしだから、あっちの世界の植物がこの世界に転移してくるようになっただろ?」
「確かにな。でも、ラフィールは外来植物を駆除する仕事を王国から依頼されてる訳だから…じいさんが仕事を作ってくれたともいえなくないな」
「それな!性格の悪い奴は私に聞こえるように悪口言うんだよね。勇者の孫が美味しい仕事を独占してるとか…マジで腹立つ」
ラフィールは膨れっ面になりながら、さらに言葉を発する。
「あとは、魔王が封印されてから、人間同士の争いが増えたよね。我が国も戦争してるしさ。まあ、大国だから今のところ生活に影響はないけどさ…。やっぱり共通の敵が必要なんだよ人間は。ロスト、魔王の代わりする?」
ラフィールのいたずらっぽい言葉に、ロストは頭突きで返事した。
「いたぁーーー!」
「ふん。俺が魔王に成り代わろうとすれば、お前は敵に回るだろうが」
「それはそうだろ」
ロストは呆れ顔でラフィールを抱き上げると、庭園の真ん中にあるガゼボに移動した。そして、ガゼボのベンチにラフィールを座らせる。
「さて、そろそろ仕事に取り掛かろう。ラフィール、手袋を外す許可をくれ」
「ロスト、手袋を外す事を許す」
ラフィールの言葉にロストは一礼すると、両手の白い手袋を取った。その指先は禍々しい暗黒の色をしている。
「美しいな」
闇色の指先を見つめてラフィールが甘いため息を漏らす。ロストは呆れて肩を竦めた。
「この手を見て美しいと言うのはお前だけだ、ラフィール」
「皆は見る目がないだけだ。私はロストが私を主に選んでくれたことに感謝している…お前を信頼している」
ラフィールが笑ってそう言うので、ロストは見えない鎖を手に取り揺らしながら呟く。
「信頼しているならこんな鎖をつけることはないだろ。首輪付きの悪魔に掛ける言葉ではないな」
ロストにそう言い返されて、ラフィールは苦笑いを浮かべた。
「首輪を外せば魔界に帰ってしまうだろ、ロスト。それでは私は困るのだ。商売ができなくなる。さあ、仕事に掛かってくれ。マンチニールの樹をその手で枯らしてくれ。他の植物には触れるなよ。細心の注意を払え。あ、マンチニールの実を一つ取っといてくれない?ちょっと実験を……」
「全部枯らす!」
ラフィールはロストに一刀両断にされて、ベンチで項垂れる。その姿を見てにやりと笑ったロストがマンチニールの木に向かい歩き出した。
ロストはマンチニールの木の下に来ると、その樹木に手をあてがった。じわじわと黒い闇が広がり急激に樹木の勢いが削がれる。ギシギシと軋みだすマンチニールの木は断末魔の声を上げながら闇に覆われ崩れ落ちた。
枯らすというよりは闇に食われるって表現が正しいな…そんな事を思ってロストが黒く結晶化した樹木の残りを見ていると、背後から声がかかり飛び上がる。
「そんなに驚くことないだろ?」
「危ないから近づくなって言っただろ、ラフィール!」
「結晶化したらもう危険はないだろ?それにしても、結晶化した樹木は美しいな。これを宝石として売り出せないかな?」
ロストはラフィールの言葉を無視して、マンチニールの黒い結晶をガツガツと蹴って粉々に潰した。塵芥になったマンチニールの欠片は毒性を失いそのまま土に還る。
「あ~、もったいない」
「勿体ないじゃね~よ。勇者の孫が金にガメついとか…情けない」
「え~、美味しいものたべたいしさ。そうだ!帰りにケーキ屋さん寄ろうよ」
「ん…ケーキは悪くないな」
「でしょ?」
「じゃ帰り支度をするか」
「はい、手袋」
ラフィールが白い手袋を差し出したので、それをひょいとつまんでロストは手にはめる。闇色の指先が消えるのを見ていたラフィールは、ロストの肩に触れて不意に真顔で呟いた。
「ロスト」
「なんだ?」
「マンチニールの花言葉を知ってる?」
「知るわけないだろ」
「なら教えてあげる。マンチニールの花言葉は【虚偽】だよ」
「虚偽ねぇ」
「シュールだろ?」
「シュールだな」
魔王の息子が勇者の孫の鎖付きってのもシュールだが、その事はラフィールにも内緒だ…ロストはそう思いつつ、ちょっと笑ってラフィールの肩を抱く。
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