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第一部

1-3 首輪付き悪魔

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◆◆◆◆◆

「あ~、嫌な奴がきた」

ラフィールの肩を抱いていた悪魔のロストは突然そう呟くと、主から身を離して片膝を立ててしゃがむ。

「ロスト?」

不意に支えを失ったラフィールは体をふらつくかせる。その身を支えたのは、アルバン・セラフィーニだった。

「アルバン叔父様!」
「やあ、ラフィール」

アルバンはセラフィーニ侯爵家の一人娘フランシスの夫だ。侯爵家を継ぐ予定だったラフィールの父ライナーが亡くなった為、現在は彼がセラフィーニ侯爵家の次期当主である。

ラフィールは突然庭園に現れた叔父に驚き、矢継ぎ早に質問を繰り出した。

「驚きました、アルバン叔父様!いつ戦場からお帰りになったのですか?いえ、それよりもお怪我などはございませんか、叔父様!」

「怪我はないよ、ラフィール。王の命により戦場より帰還しただけだ」

「そうでしたか。安心しました」

ラフィールが安堵の表情を浮かべると、アルバンは困った表情を浮かべ口を開く。

「王との謁見を終えて邸に戻ってみたら、大切な姪っ子が護衛も付けずに出掛けていると知らされてね。慌てて迎えに来たんだよ、ラフィール」

アルバンはラフィールの頭をクシャリと撫でて、その行動を窘める。ラフィールは恥ずかしそうに頰を染めつつも抗議の声をあげた。

「ここは戦場ではありませんよ、叔父様?王都には魔物も悪魔も現れません。もちろん、敵国の兵も」

「それでも護衛をつけるべきだ。それに、首輪付きとはいえ悪魔をそばに置く事を…私は賛成していない」

アルバンは地面に膝まづくロストに冷たい視線を向けた。



「ロストは私を害する事は出来ません。お祖父様が魔法で編んだ首輪で繋がれているのですよ?この者は私が死ぬまで従属の身です…そうだよね、ロスト?」

ロストは静かに頷くと顔を上げて、ラフィールに声をかけた。

「ロストはラフィール様に生涯お仕えいたします」

「ありがとう、ロスト。今日はご苦労だったね。私の影に入り休みなさい」

ラフィールがロストに声を掛けると、次の瞬間には首輪付きの悪魔は主の影に沈みその姿を闇に消した。

姪の影に消えた悪魔に不快感を感じながらも、叔父のアルバンはラフィールに優しく声を掛けた。

「私が先触れなく訪れたものだから、セギュール伯爵夫人はもてなしが間に合わないと泣き出しそうでね。これ以上困らせぬように帰るとしよう、ラフィール」

「アルバン叔父様は考えなしなところがありますから困ります」

「まあ、そう言うな」

アルバンに手を差し出されたので、ラフィールはその手に自身の手を重ねた。男装をしているが、ラフィールは女として扱われる事に抵抗はない。ただ、つまらない男の手を取る気にはならないだけだ。



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