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『英雄の紋章を肌に刻み産まれし者は、英雄としてどう在るべきかを自ら知っている』

孤児院の院長は、一日に何度も同じ言葉を口にした。子供だった俺は、何の疑いもなく院長の言葉を信じた。

だが、魔王討伐を終えた今でも『英雄としてどう在るべき』を、俺は理解していない。

◇◇◇

ダニエルが飯屋を飛び出して行ってしまった。どうやら、ダニエルは新たな詐欺被害に遭ってしまったようだ。

さて・・英雄の俺は、この場合どう行動するのが正しい?

「エアハルト」
「何だ、ゲルトラウト?」

自警団副団長のゲルトラウト = アイヒマンは、英雄の俺よりも先に決断を下したらしい。

「俺は、ダニエル君を探しに行く。彼は、新たな詐欺被害に遭っているようだからね。今すぐに、ダニエル君を保護する必要がある」

ゲルトラウトの言葉に、俺は頷き同意を示した。

「そうだな、ゲルトラウト。俺も、ダニエルの事が心配だ。各々で、ダニエルが立ち寄りそうな場所を探そう。ダニエルを見つけた者は、彼の確保を魔法で他の者に知らせる。これで、いいかな?」

俺がそう提案すると、エトヴィン = ウェラーが皮肉げな口調で提案にケチを付けた。

「おーい、ちょっと待て。各々って言葉に俺が含まれているなら、やめてくれ~。俺は、ダニエルを探すつもりはない。自宅に帰って寝るから・・ダニエルを探すなら二人でどうぞ」

エトヴィンはそう言うと、テーブルをさっさと離れようとした。だが、ゲルトラウトはエトヴィンの腕を掴み、彼を睨み付ける。

「君はダニエル君と、特別な関係にあるはずだ。それにも関わらず、彼を探さないつもりか?君は彼が心配ではないのか?」

エトヴィンは、腕を掴む男をにらみ返す。

「ダニエルが詐欺被害に遭っているなら、あんたが言ったように・・それは、自警団の仕事だろ?自警団副団長は、非番にも関わらずダニエルを探してくれるみたいだし~、俺は必要ないでしょ?」

「貴様!」

ゲルトラウトも、産まれながらに英雄の紋章が刻まれていた。それ故に、同じ孤児院で育ったわけだが・・彼の場合は、大人になるにつれて、英雄の紋章は薄れて消えてしまった。

『強きものが弱きものを守る』

どうやら、ゲルトラウト = アイヒマンの、英雄の在り方は以前と変わらないようだ。だからこそ、紋章が消えても自警団に所属し活動しているのだろう。


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