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勇者に会いたい

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◆◆◆◆◆

「ねえ、クリムゾン」
「断る!」
「いや、まだ何も言ってないだろ!」

僕がクリムゾンに反論すると、真顔で返事が帰って来た。

「アムールの顔が、俺にとって不都合な事を言う顔になっている。幼馴染の俺の目をなめるな」

「本当は幼馴染じゃないだろ!クリムゾンは立派な『おじさん』のくせに、幼馴染発言を恥ずかしく思わないの?年齢詐称、はずかしー、はずかしー」

「うるせー」

僕は突然クリムゾンにお姫様抱っこされた。庭園でお姫様抱っこ。なにこれ。誰得?

「何でお姫様抱っこ?」

「そろそろ魔王の食事を自室に戻す時間だからだ。勇者は魔王の朝食と昼食を担当している」

「そうなんだ?デッドリー兄上の夕食は誰の血液なの?」

僕の質問にクリムゾンは僅かに躊躇する。だが、答えてくれた。

「大抵はワインを代用食とされているが、閨に呼ばれた花嫁の血液を飲まれる事もおありだ」

「あ、そうなんだ」

僕は唇を噛み締めていた。デッドリー兄上は次代の魔王を生み出す必要がある。その為に、魔王の花嫁が代わる代わる兄上の相手をつとめる。今日は誰を抱き、誰を吸血するのだろうか。

「ねえ、クリムゾン。僕は勇者に尋問したい事があるから、彼の自室に連れていってよ」

「断る」
「クリムゾン!」

「自室に送る。翔ぶから捕まれ」
「うわっ!」

僕は慌ててクリムゾンに抱きついた。彼は魔力を使い地上から浮上する。庭園の花弁を散らしながら、クリムゾンが魔王城の壁に沿って上層部に飛び立った。

「もしかして急いでる?」

「庭園散策は楽しかったが、魔王から食事を取り上げる時間だ。放っておくと、一日中吸血するから・・困る」

僕はクリムゾンの胸に自身の頬を押し付けた。

「デッドリー兄上はそんなに勇者がお気に入りなんだ」

「食事として気に入っているだけだ」
「そんなのわからないだろ!」
「何を怒っているんだ、アムール」

「あー、もう。たぶん、嫉妬だよ。悪い?五番目の花嫁より、勇者の方が寝所に呼ばれる回数が多いなんて悔しいじゃないか!」

魔王城の上層部にたどり着くと、クリムゾンは浮上したまま壁に足を宛がう。壁に一気に魔方陣が現れると、クリムゾンはためらいなくそこに飛び込んだ。

「んっ」
「大丈夫か、アムール?」

「ふぁ、ここは・・僕の部屋がある廊下か。もうお姫様抱っこは不要だからおろして、クリムゾン」

「お前の部屋はすぐそこだ。このまま抱いていく」

「えー、誰かに見られたら恥ずかしいよ~。やめてくんない?」

「魔力を周囲に放って、魔物が近付かないように配慮している。甘えたいなら、今がチャンスだぞ、アムール。俺は部屋の中には入れないからな。お前は、魔王の花嫁になったのだから」

そういえば、廊下でも庭園でも魔物や魔人を見なかったな。奴ら僕が一人だと妙に絡んでくるから鬱陶しくてたまらない。クリムゾンが魔力を放って威嚇していたのか。


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