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勇者の名は、シャギー・ソルジャー
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◆◆◆◆◆
僕はクリムゾンにエスコートされながら、魔王城の庭園を散策していた。庭園には魔界では見かけない珍しい花たちが、美しく咲き誇っていた。
「人間界の花はやっぱり綺麗だね」
「たしかにな」
僕は刺が無いことを確認してから、一輪の花を摘んだ。よい薫りがする。
「魔界とリザードテール王国の和睦を祝して、魔王城に人間界の庭園が作られたんだよね?リザードテール王国にも、魔界の庭園があるのかな?」
クリムゾンは僕の摘んだ花から、花弁を一枚摘み取った。それを眺めながら呟く。
「リザードテール王国にも、和睦を祝して魔界の植物を送った。だが、王国の庭園に植えられた魔界の植物が、人間を数人捕食したらしい」
え、初耳!?
「そうなの?和睦を祝して送った魔界の植物が人間を捕食したら、大問題じゃないか!それが原因で和睦が決裂したらシャレにならないよ」
クリムゾンは花弁を空に飛ばすと、肩を竦めながら口を開く。
「リザードテール王国はマンドレイク教国と対立状態だ。人間同士の争いに注力すべき時に、人間を数人喰われたくらいで魔界との和睦を決裂させたりしないさ」
「なんか、人間が怖いんだけど。人間界の大国といえば、リザードテール王国とマンドレイク教国だよね?」
「ああ、そうだ」
「マンドレイク教国は宗教国家で教義が絶対だから、魔界と和睦するなどあり得ない。人間同士の争いを優位に進める為なら、リザードテール王国としては人が喰われても魔界との和睦を優先するってことだね?」
「そうなるな」
魔王は倒れても、その絶大な魔力は消えることなく後継者に引き継がれる。
先代の魔王が勇者と相討ちになり屠られた後、魔王の魔力はデッドリー兄上に引き継がれた。そして、その時点で兄上は魔界の頂点に立った。
先代の魔王を倒した勇者は、マンドレイク教国出身者だ。勇者を送り込んだマンドレイク教国は、魔王の死に狂喜乱舞して魔界への攻勢を強めた。
その為、デッドリー兄上はマンドレイク教国と対立するリザードテール王国と和睦する道を選択する。反対する意見もあったが、兄上は黙らせた。
そして、デッドリー兄上は初めて魔王軍を率いて、マンドレイク教国の軍と闘い撃退した。
ただし、完全にマンドレイク教国を潰すことはしなかった。人間界の勢力図を崩さない為の方策だろう。
「マンドレイク教国も懲りないよね。人間界の争いに忙しいのに、勇者を育て上げて次々と魔界に送ってくる。魔王は死んでも、新しい魔王が生まれるだけなのに意味ないだろ?」
「確かに意味はないな。それに、大抵の場合は魔界の森で勝手に死ぬ勇者が殆どだ。さっき魔王の食事となっていた勇者は、魔王城まで辿り着いたのだから・・中々の実力者ではあるな」
クリムゾンの言葉に、僕はどきりとした。ふと、兄上が勇者を吸血する姿を思い出して、胸がキリキリ痛む。僕は摘んだ花を茂みに投げ捨てていた。
僕はあの勇者の名前すら知らない。
「どうした、アムール?」
「・・あの勇者の名前を教えて、クリムゾン。デッドリー兄上の事が、やっぱり心配なんだ。勇者をそばに置かないように、兄上進言するつもり。だから、名前を教えて、クリムゾン!」
「・・理由はそれだけか?」
「お前は名前を教えるだけでいい」
「勇者の名前は、シャギー・ソルジャー。マンドレイク教国の上位貴族の出自だそうだ」
「名前は、シャギー・ソルジャー」
僕は庭園に視線を向けながら呟いていた。
◆◆◆◆◆
僕はクリムゾンにエスコートされながら、魔王城の庭園を散策していた。庭園には魔界では見かけない珍しい花たちが、美しく咲き誇っていた。
「人間界の花はやっぱり綺麗だね」
「たしかにな」
僕は刺が無いことを確認してから、一輪の花を摘んだ。よい薫りがする。
「魔界とリザードテール王国の和睦を祝して、魔王城に人間界の庭園が作られたんだよね?リザードテール王国にも、魔界の庭園があるのかな?」
クリムゾンは僕の摘んだ花から、花弁を一枚摘み取った。それを眺めながら呟く。
「リザードテール王国にも、和睦を祝して魔界の植物を送った。だが、王国の庭園に植えられた魔界の植物が、人間を数人捕食したらしい」
え、初耳!?
「そうなの?和睦を祝して送った魔界の植物が人間を捕食したら、大問題じゃないか!それが原因で和睦が決裂したらシャレにならないよ」
クリムゾンは花弁を空に飛ばすと、肩を竦めながら口を開く。
「リザードテール王国はマンドレイク教国と対立状態だ。人間同士の争いに注力すべき時に、人間を数人喰われたくらいで魔界との和睦を決裂させたりしないさ」
「なんか、人間が怖いんだけど。人間界の大国といえば、リザードテール王国とマンドレイク教国だよね?」
「ああ、そうだ」
「マンドレイク教国は宗教国家で教義が絶対だから、魔界と和睦するなどあり得ない。人間同士の争いを優位に進める為なら、リザードテール王国としては人が喰われても魔界との和睦を優先するってことだね?」
「そうなるな」
魔王は倒れても、その絶大な魔力は消えることなく後継者に引き継がれる。
先代の魔王が勇者と相討ちになり屠られた後、魔王の魔力はデッドリー兄上に引き継がれた。そして、その時点で兄上は魔界の頂点に立った。
先代の魔王を倒した勇者は、マンドレイク教国出身者だ。勇者を送り込んだマンドレイク教国は、魔王の死に狂喜乱舞して魔界への攻勢を強めた。
その為、デッドリー兄上はマンドレイク教国と対立するリザードテール王国と和睦する道を選択する。反対する意見もあったが、兄上は黙らせた。
そして、デッドリー兄上は初めて魔王軍を率いて、マンドレイク教国の軍と闘い撃退した。
ただし、完全にマンドレイク教国を潰すことはしなかった。人間界の勢力図を崩さない為の方策だろう。
「マンドレイク教国も懲りないよね。人間界の争いに忙しいのに、勇者を育て上げて次々と魔界に送ってくる。魔王は死んでも、新しい魔王が生まれるだけなのに意味ないだろ?」
「確かに意味はないな。それに、大抵の場合は魔界の森で勝手に死ぬ勇者が殆どだ。さっき魔王の食事となっていた勇者は、魔王城まで辿り着いたのだから・・中々の実力者ではあるな」
クリムゾンの言葉に、僕はどきりとした。ふと、兄上が勇者を吸血する姿を思い出して、胸がキリキリ痛む。僕は摘んだ花を茂みに投げ捨てていた。
僕はあの勇者の名前すら知らない。
「どうした、アムール?」
「・・あの勇者の名前を教えて、クリムゾン。デッドリー兄上の事が、やっぱり心配なんだ。勇者をそばに置かないように、兄上進言するつもり。だから、名前を教えて、クリムゾン!」
「・・理由はそれだけか?」
「お前は名前を教えるだけでいい」
「勇者の名前は、シャギー・ソルジャー。マンドレイク教国の上位貴族の出自だそうだ」
「名前は、シャギー・ソルジャー」
僕は庭園に視線を向けながら呟いていた。
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