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第46話 ピエロ看守の独白⑬
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◆◆◆◆◆
「秋山君!」
佐々木が初めて僕に逆らった。
「秋山君から離れろ、佐々木!」
佐々木は僕のことを『怖くない』と言った。ずっと僕に従ってきた佐々木が、僕の大切なモノを壊そうとしている。
「やめろーーーーーー!」
手に持っていたガソリンの携行缶で佐々木を殴っていた。殴って、殴って、もう一度殴ろうとしたら、ガソリン携行缶が手からすっぽ抜ける。
「あっ!?」
手から離れた携行缶は監房の柵にぶつかり、ガシャンと音を立てて床に落ちた。
「いだい、痛い、ああっあ、あっ」
佐々木の頭部にパックリと切れた傷口が現れる。大量に溢れ出す血液に僕は思わず後退った。でも、佐々木は振り返る事なく秋山君の首を絞め続ける。
その姿に恐怖を感じて僕は動けなくなる。怖い。佐々木が怖い。
「ぐっ‥‥うっ、」
「あ、秋山君!」
秋山君のうめき声を耳にして、硬直した僕の体が動き出した。
「秋山君!今助けるから!」
武器がない。
いや、あった。
ポケットからスタンガンを取り出し、佐々木に押し付ける。でも、佐々木に変化はない。
どうして?
なんで?
「なんでだよ!?」
何度もスタンガンを押し付けてようやく気がつく。安全装置を外して無かった。バカなミスに泣きそうになる。秋山君を喪ったら僕は生きていられないのに‥‥。
「うぁあああつっ!!」
安全装置を外してスタンガンを佐々木に押し付ける。バチバチと音と光が弾けたが、佐々木はまだ秋山君の首を絞めている。スタンガンの電圧を最大にして通電させた。
「倒れろーーーーーー!」
佐々木はびくびくと体を震わせると不意に前のめりに倒れ込む。
「‥‥‥っ、倒れた。」
違法スタンガンでなかったら、佐々木には効果なかったかもしれない。とにかく、秋山君を助けないと!
「秋山君、大丈夫?」
「‥‥‥っ、かね‥‥だ。」
秋山君の声にホッとしながら急いで佐々木の体を横倒しにする。秋山君はできた隙間から這い出すと、喉を押さえて咳き込んだ。
「秋山君!」
「ゲホッ‥‥っ、あぁ、助かった」
秋山君は心底安堵したようにその場に倒れ込む。僕が慌てて駆け寄ると、秋山君は僕の体をぽんと叩いて口を開いた。
「泣くなよ‥‥生きてるだろ?」
「うん、秋山君」
いつの間にか泣いていた僕は慌てて涙を拭うと、秋山君を抱き起こした。秋山君の首に赤い痣ができていて、僕は思わず唇を寄せていた。
なぜそうしたのかわからない。
でも、そうしたかった。
ゆっくりと身を離すと、秋山君はぼんやりと僕を見つめていた。彼を何とか立たせてエレベーターの中に連れ込むと、秋山君をそこに残して次の作業に移る。
「金田!」
「秋山君はそこにいて。玉木と梅田を監房から連れ出すから、エレベーターの扉を開いたままにしておいて。」
「わかった。」
秋山君はエレベーター内で座り込みこちらを見ていた。僕は視線を倒れた佐々木に移し、彼の腰を探って監房の鍵を取り出す。
「これで二人を連れ出せる」
玉木と梅田はヤク中状態だったが、暴れることなく監房の隅で蹲っていた。それぞれの監房の鍵を開けて、二人を廊下に連れ出す。
「病院に行くから二人共歩いて!」
玉木と梅田は虚ろな眼差しで僕を見たあと、フラフラとした足取りでエレベーターに向かう。
二人を監禁したのは僕なのに、ふらつく姿を見て後ろめたくなった。
高校時代に僕と秋山君を虐め抜いた玉木と梅田。今でも憎い。でも、ここまでする必要があったのか?
もしかしたら、僕と同じ様に八木が怖くて奴に従っていただけかもしれない‥‥。
「そんな訳ない!」
僕は後悔を振り払うように声を出し、玉木と梅田の背を押してエレベーターに向かわせる。そのままエレベーター内に二人を押し込むと、僕は秋山君に声を掛けた。
「秋山君、二人と一緒に外で待っていてくれる?ガレージの前で。」
「お前も来いよ」
「佐々木と後から行くよ。」
「とにかく一緒に来い」
「監獄に火を放たないと。」
「金田!」
死んでしまおうか?
このまま監獄で死んでもいいかな?
すごく疲れた。
◆◆◆◆◆◆
「秋山君!」
佐々木が初めて僕に逆らった。
「秋山君から離れろ、佐々木!」
佐々木は僕のことを『怖くない』と言った。ずっと僕に従ってきた佐々木が、僕の大切なモノを壊そうとしている。
「やめろーーーーーー!」
手に持っていたガソリンの携行缶で佐々木を殴っていた。殴って、殴って、もう一度殴ろうとしたら、ガソリン携行缶が手からすっぽ抜ける。
「あっ!?」
手から離れた携行缶は監房の柵にぶつかり、ガシャンと音を立てて床に落ちた。
「いだい、痛い、ああっあ、あっ」
佐々木の頭部にパックリと切れた傷口が現れる。大量に溢れ出す血液に僕は思わず後退った。でも、佐々木は振り返る事なく秋山君の首を絞め続ける。
その姿に恐怖を感じて僕は動けなくなる。怖い。佐々木が怖い。
「ぐっ‥‥うっ、」
「あ、秋山君!」
秋山君のうめき声を耳にして、硬直した僕の体が動き出した。
「秋山君!今助けるから!」
武器がない。
いや、あった。
ポケットからスタンガンを取り出し、佐々木に押し付ける。でも、佐々木に変化はない。
どうして?
なんで?
「なんでだよ!?」
何度もスタンガンを押し付けてようやく気がつく。安全装置を外して無かった。バカなミスに泣きそうになる。秋山君を喪ったら僕は生きていられないのに‥‥。
「うぁあああつっ!!」
安全装置を外してスタンガンを佐々木に押し付ける。バチバチと音と光が弾けたが、佐々木はまだ秋山君の首を絞めている。スタンガンの電圧を最大にして通電させた。
「倒れろーーーーーー!」
佐々木はびくびくと体を震わせると不意に前のめりに倒れ込む。
「‥‥‥っ、倒れた。」
違法スタンガンでなかったら、佐々木には効果なかったかもしれない。とにかく、秋山君を助けないと!
「秋山君、大丈夫?」
「‥‥‥っ、かね‥‥だ。」
秋山君の声にホッとしながら急いで佐々木の体を横倒しにする。秋山君はできた隙間から這い出すと、喉を押さえて咳き込んだ。
「秋山君!」
「ゲホッ‥‥っ、あぁ、助かった」
秋山君は心底安堵したようにその場に倒れ込む。僕が慌てて駆け寄ると、秋山君は僕の体をぽんと叩いて口を開いた。
「泣くなよ‥‥生きてるだろ?」
「うん、秋山君」
いつの間にか泣いていた僕は慌てて涙を拭うと、秋山君を抱き起こした。秋山君の首に赤い痣ができていて、僕は思わず唇を寄せていた。
なぜそうしたのかわからない。
でも、そうしたかった。
ゆっくりと身を離すと、秋山君はぼんやりと僕を見つめていた。彼を何とか立たせてエレベーターの中に連れ込むと、秋山君をそこに残して次の作業に移る。
「金田!」
「秋山君はそこにいて。玉木と梅田を監房から連れ出すから、エレベーターの扉を開いたままにしておいて。」
「わかった。」
秋山君はエレベーター内で座り込みこちらを見ていた。僕は視線を倒れた佐々木に移し、彼の腰を探って監房の鍵を取り出す。
「これで二人を連れ出せる」
玉木と梅田はヤク中状態だったが、暴れることなく監房の隅で蹲っていた。それぞれの監房の鍵を開けて、二人を廊下に連れ出す。
「病院に行くから二人共歩いて!」
玉木と梅田は虚ろな眼差しで僕を見たあと、フラフラとした足取りでエレベーターに向かう。
二人を監禁したのは僕なのに、ふらつく姿を見て後ろめたくなった。
高校時代に僕と秋山君を虐め抜いた玉木と梅田。今でも憎い。でも、ここまでする必要があったのか?
もしかしたら、僕と同じ様に八木が怖くて奴に従っていただけかもしれない‥‥。
「そんな訳ない!」
僕は後悔を振り払うように声を出し、玉木と梅田の背を押してエレベーターに向かわせる。そのままエレベーター内に二人を押し込むと、僕は秋山君に声を掛けた。
「秋山君、二人と一緒に外で待っていてくれる?ガレージの前で。」
「お前も来いよ」
「佐々木と後から行くよ。」
「とにかく一緒に来い」
「監獄に火を放たないと。」
「金田!」
死んでしまおうか?
このまま監獄で死んでもいいかな?
すごく疲れた。
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