牢獄/復讐

月歌(ツキウタ)

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第44話 ピエロのメイクは必要ない

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しばらくした後に、ガソリン携行缶を持った金田がリビングに戻ってきた。

「早かったな。」
「そう?」

俺が声を掛けると、金田は少し笑って軽く答えた。そして、地下に続くエレベーターを指さして口を開く。

「行こうか、秋山君。」
「今からするのか?」
「うん。」
「そうか‥‥分かった。」

ソファーから立ち上がり金田に近づくと、彼はジロジロとこちらを見てきた。

「なんだ?」

「本当に手伝うつもりなの、秋山君。後悔しない?」

「もう後悔だらけだ。」

俺がそう応じると、金田は陰りを帯びた表情で『そうだよね』と呟いた。傷つけるつもりなく発した言葉だったが、金田の表情を見て狼狽える。

適当な言葉が思いつかず俺が黙っていると、金田は『行こう』と言ってエレベーターに向かって歩き出した。俺が黙ってあとに続くと、金田はエレベーターの暗証番号を入力する。

「俺の誕生日が暗証番号ってのは、やっぱり変な気分だな。」

「別荘が燃えればもう使うこともなくなるよ‥‥少し寂しい。」

「そんなものか?」
「そんなものだよ」

金田はやっぱりちょっと気持ち悪いところがある。そう思っていると、地下牢獄に向かうエレベーターの扉がゆっくりと開いた。金田に促されてエレベーターに乗ったが、俺は不意に違和感を覚えて男を見た。

そして、その違和感に気がつく。

「ピエロのメイクをしていないが大丈夫なのか、金田?」

「あ、」

金田は驚いて自身の顔に触れた。目の下の蝶の痣に触れる金田を見つめながら、俺は話しかける。

「佐々木が非常ベルを鳴らした時、お前はピエロのメイクがないと怖くて地下には行けないと言った。でも、もう怖くはないんだな?」

金田は頬の蝶に触れたまま応じた。

「そうみたい。あんなに怖かったのに、ピエロの仮面をしなくても怖くない。八木が死んだからかな?それとも、八木を殺したことで本物の看守に‥‥殺人鬼になってしまったのかもしれない。」

「お前は殺人鬼ではないだろ」
「そうかな?」
「金田に殺人鬼は似合わない」
「そう?」
「たぶんな」
「たぶんなんだ?」

金田はガソリン携行缶を左手に持ったまま、エレベーターのボタンを操作した。扉が閉まり密室となったエレベーターの中で、俺の不安感が急に高まる。

指先が震えだして止まらなくなった時、金田の手のひらが俺の手を包み込む。温もりに包まれた指先は、地下についた時には震えが止まっていた。エレベーターがガコンと音を鳴らして止まり扉が開く。

俺達は手を繋いだまま地下牢獄に踏み出した。


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