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第44話 ピエロのメイクは必要ない
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◆◆◆◆◆
しばらくした後に、ガソリン携行缶を持った金田がリビングに戻ってきた。
「早かったな。」
「そう?」
俺が声を掛けると、金田は少し笑って軽く答えた。そして、地下に続くエレベーターを指さして口を開く。
「行こうか、秋山君。」
「今からするのか?」
「うん。」
「そうか‥‥分かった。」
ソファーから立ち上がり金田に近づくと、彼はジロジロとこちらを見てきた。
「なんだ?」
「本当に手伝うつもりなの、秋山君。後悔しない?」
「もう後悔だらけだ。」
俺がそう応じると、金田は陰りを帯びた表情で『そうだよね』と呟いた。傷つけるつもりなく発した言葉だったが、金田の表情を見て狼狽える。
適当な言葉が思いつかず俺が黙っていると、金田は『行こう』と言ってエレベーターに向かって歩き出した。俺が黙ってあとに続くと、金田はエレベーターの暗証番号を入力する。
「俺の誕生日が暗証番号ってのは、やっぱり変な気分だな。」
「別荘が燃えればもう使うこともなくなるよ‥‥少し寂しい。」
「そんなものか?」
「そんなものだよ」
金田はやっぱりちょっと気持ち悪いところがある。そう思っていると、地下牢獄に向かうエレベーターの扉がゆっくりと開いた。金田に促されてエレベーターに乗ったが、俺は不意に違和感を覚えて男を見た。
そして、その違和感に気がつく。
「ピエロのメイクをしていないが大丈夫なのか、金田?」
「あ、」
金田は驚いて自身の顔に触れた。目の下の蝶の痣に触れる金田を見つめながら、俺は話しかける。
「佐々木が非常ベルを鳴らした時、お前はピエロのメイクがないと怖くて地下には行けないと言った。でも、もう怖くはないんだな?」
金田は頬の蝶に触れたまま応じた。
「そうみたい。あんなに怖かったのに、ピエロの仮面をしなくても怖くない。八木が死んだからかな?それとも、八木を殺したことで本物の看守に‥‥殺人鬼になってしまったのかもしれない。」
「お前は殺人鬼ではないだろ」
「そうかな?」
「金田に殺人鬼は似合わない」
「そう?」
「たぶんな」
「たぶんなんだ?」
金田はガソリン携行缶を左手に持ったまま、エレベーターのボタンを操作した。扉が閉まり密室となったエレベーターの中で、俺の不安感が急に高まる。
指先が震えだして止まらなくなった時、金田の手のひらが俺の手を包み込む。温もりに包まれた指先は、地下についた時には震えが止まっていた。エレベーターがガコンと音を鳴らして止まり扉が開く。
俺達は手を繋いだまま地下牢獄に踏み出した。
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しばらくした後に、ガソリン携行缶を持った金田がリビングに戻ってきた。
「早かったな。」
「そう?」
俺が声を掛けると、金田は少し笑って軽く答えた。そして、地下に続くエレベーターを指さして口を開く。
「行こうか、秋山君。」
「今からするのか?」
「うん。」
「そうか‥‥分かった。」
ソファーから立ち上がり金田に近づくと、彼はジロジロとこちらを見てきた。
「なんだ?」
「本当に手伝うつもりなの、秋山君。後悔しない?」
「もう後悔だらけだ。」
俺がそう応じると、金田は陰りを帯びた表情で『そうだよね』と呟いた。傷つけるつもりなく発した言葉だったが、金田の表情を見て狼狽える。
適当な言葉が思いつかず俺が黙っていると、金田は『行こう』と言ってエレベーターに向かって歩き出した。俺が黙ってあとに続くと、金田はエレベーターの暗証番号を入力する。
「俺の誕生日が暗証番号ってのは、やっぱり変な気分だな。」
「別荘が燃えればもう使うこともなくなるよ‥‥少し寂しい。」
「そんなものか?」
「そんなものだよ」
金田はやっぱりちょっと気持ち悪いところがある。そう思っていると、地下牢獄に向かうエレベーターの扉がゆっくりと開いた。金田に促されてエレベーターに乗ったが、俺は不意に違和感を覚えて男を見た。
そして、その違和感に気がつく。
「ピエロのメイクをしていないが大丈夫なのか、金田?」
「あ、」
金田は驚いて自身の顔に触れた。目の下の蝶の痣に触れる金田を見つめながら、俺は話しかける。
「佐々木が非常ベルを鳴らした時、お前はピエロのメイクがないと怖くて地下には行けないと言った。でも、もう怖くはないんだな?」
金田は頬の蝶に触れたまま応じた。
「そうみたい。あんなに怖かったのに、ピエロの仮面をしなくても怖くない。八木が死んだからかな?それとも、八木を殺したことで本物の看守に‥‥殺人鬼になってしまったのかもしれない。」
「お前は殺人鬼ではないだろ」
「そうかな?」
「金田に殺人鬼は似合わない」
「そう?」
「たぶんな」
「たぶんなんだ?」
金田はガソリン携行缶を左手に持ったまま、エレベーターのボタンを操作した。扉が閉まり密室となったエレベーターの中で、俺の不安感が急に高まる。
指先が震えだして止まらなくなった時、金田の手のひらが俺の手を包み込む。温もりに包まれた指先は、地下についた時には震えが止まっていた。エレベーターがガコンと音を鳴らして止まり扉が開く。
俺達は手を繋いだまま地下牢獄に踏み出した。
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