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第40話 二回目の共同作業
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◆◆◆◆◆
黙り込んだ俺の様子を見て、金田は静かに笑う。そして、床に転がったボールペンをゆっくり拾った。
「遅かれ早かれ僕のもとに刑事は来ると思う。だから、これは良い機会かなって思ったんだ。八木の死に秋山君が関わった証拠が地下牢獄にはいっぱい残ってる。それを早く焼き払ったほうが安全だと思う。」
確かに八木の死に俺は関わった。遺体を袋に押し込んだ時に指紋がべったりついてる。
それに、血塗れの牢獄や廊下を佐々木も含めて三人で片付けをしたが、完全とは言えない。
「確かに証拠だらけだな‥‥」
「警察が自宅に突入したら地下牢獄に火を放とうと思っていたけど、ミステリ小説の様にうまくいくとは限らないなって思えてきて‥。」
そういえば、金田は警察が突入したら俺を人質にして地下に向かうと言っていたな。
でも、冷静に考えると訓練された警察官に金田が敵うとは思えない。
「確かに‥‥金田って弱そうだしな」
「弱そうは酷いよ、秋山君。」
「違法スタンガンを振り回して自分に当てて気絶する金田の姿が見える」
俺の言葉に金田は一瞬不機嫌そうな顔をしたがすぐに元の表情に戻る。
「‥‥とにかく警察に目をつけられる前に、地下牢獄は焼き払ったほうが良いと思う。八木の弟がここを探り当てて尋ねて来たんだから、警察がいつ来てもおかしくない。」
「それもそうだな。じゃあ、八木の離婚届はどうする?」
「僕も八木の離婚届を奥さんに届けたいと思ってる。でも、それは彼女への同情じゃないんだ。」
「同情でなければなんだよ?」
俺が尋ねると金田は少し笑って答えた。
「八木への嫌がらせかな?」
「嫌がらせ?」
「きっと八木は離婚を望んでなかったと思う。だから、その望みをぶち壊したいなと思ってる」
金田の答えに背中がゾクリとした。俺は金田を見つめながら口を開く。
「八木が死んでもまだ憎いのか?」
「まだ憎い」
「そうか‥‥なら、俺にボールペンを渡してくれ。俺も八木が嫌いだ。だから、俺も署名する」
俺が金田に向かって手を差し出すと、金田は首を振って拒否する。
「私文書偽造罪に問われるって説明したよね?秋山君は書く必要ない」
「俺が書きたいんだ。」
「‥‥でも」
「光一」
「っ、」
「一緒に書こう。」
どうしてこんな提案を金田にしているのか、自分でもよくわからない。
でも、全ての罪を金田に追わせることに引け目がある。金田を八木に売ったせいで、こいつは心を病んだ。金田を生贄にしなければ、この犯罪を起こしたのは俺だったかもしれない。
金田に俺の裏切りを話すのは怖い。だから、告白はしない。その代わりに、少しの罪を分け合う‥‥自己満足のために。
「わかったよ、秋山君」
金田は少し呆れ顔で俺の隣に座ると、離婚届を手繰り寄せてあっさりと『八木』と記入した。俺が焦って見つめていると、金田がいたずらっぽく笑って離婚届を差し出す。
「二回目の共同作業だね」
一回目の共同作業は八木の処刑。
それを笑いながらさらりと言ってしまう金田が怖い。そう思いながらも離婚届とボールペンを受け取る。
「名前は『隼人』だったな」
「隼に人で『隼人』」
俺は署名欄に『隼人』と記入した。これで俺も警察に捕まるかもしれない。署名欄の『八木隼人』の文字を指でなぞりながら呟いていた。
「俺達が八木隼人を殺した」
「‥‥‥‥。」
金田は黙って俺の指先を見つめている。俺は構わずもう一度男の名をなぞった。
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黙り込んだ俺の様子を見て、金田は静かに笑う。そして、床に転がったボールペンをゆっくり拾った。
「遅かれ早かれ僕のもとに刑事は来ると思う。だから、これは良い機会かなって思ったんだ。八木の死に秋山君が関わった証拠が地下牢獄にはいっぱい残ってる。それを早く焼き払ったほうが安全だと思う。」
確かに八木の死に俺は関わった。遺体を袋に押し込んだ時に指紋がべったりついてる。
それに、血塗れの牢獄や廊下を佐々木も含めて三人で片付けをしたが、完全とは言えない。
「確かに証拠だらけだな‥‥」
「警察が自宅に突入したら地下牢獄に火を放とうと思っていたけど、ミステリ小説の様にうまくいくとは限らないなって思えてきて‥。」
そういえば、金田は警察が突入したら俺を人質にして地下に向かうと言っていたな。
でも、冷静に考えると訓練された警察官に金田が敵うとは思えない。
「確かに‥‥金田って弱そうだしな」
「弱そうは酷いよ、秋山君。」
「違法スタンガンを振り回して自分に当てて気絶する金田の姿が見える」
俺の言葉に金田は一瞬不機嫌そうな顔をしたがすぐに元の表情に戻る。
「‥‥とにかく警察に目をつけられる前に、地下牢獄は焼き払ったほうが良いと思う。八木の弟がここを探り当てて尋ねて来たんだから、警察がいつ来てもおかしくない。」
「それもそうだな。じゃあ、八木の離婚届はどうする?」
「僕も八木の離婚届を奥さんに届けたいと思ってる。でも、それは彼女への同情じゃないんだ。」
「同情でなければなんだよ?」
俺が尋ねると金田は少し笑って答えた。
「八木への嫌がらせかな?」
「嫌がらせ?」
「きっと八木は離婚を望んでなかったと思う。だから、その望みをぶち壊したいなと思ってる」
金田の答えに背中がゾクリとした。俺は金田を見つめながら口を開く。
「八木が死んでもまだ憎いのか?」
「まだ憎い」
「そうか‥‥なら、俺にボールペンを渡してくれ。俺も八木が嫌いだ。だから、俺も署名する」
俺が金田に向かって手を差し出すと、金田は首を振って拒否する。
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「俺が書きたいんだ。」
「‥‥でも」
「光一」
「っ、」
「一緒に書こう。」
どうしてこんな提案を金田にしているのか、自分でもよくわからない。
でも、全ての罪を金田に追わせることに引け目がある。金田を八木に売ったせいで、こいつは心を病んだ。金田を生贄にしなければ、この犯罪を起こしたのは俺だったかもしれない。
金田に俺の裏切りを話すのは怖い。だから、告白はしない。その代わりに、少しの罪を分け合う‥‥自己満足のために。
「わかったよ、秋山君」
金田は少し呆れ顔で俺の隣に座ると、離婚届を手繰り寄せてあっさりと『八木』と記入した。俺が焦って見つめていると、金田がいたずらっぽく笑って離婚届を差し出す。
「二回目の共同作業だね」
一回目の共同作業は八木の処刑。
それを笑いながらさらりと言ってしまう金田が怖い。そう思いながらも離婚届とボールペンを受け取る。
「名前は『隼人』だったな」
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俺は署名欄に『隼人』と記入した。これで俺も警察に捕まるかもしれない。署名欄の『八木隼人』の文字を指でなぞりながら呟いていた。
「俺達が八木隼人を殺した」
「‥‥‥‥。」
金田は黙って俺の指先を見つめている。俺は構わずもう一度男の名をなぞった。
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