40 / 49
第39話 八木の離婚届
しおりを挟む
◆◆◆◆◆
リビングに戻ってきた金田がぼんやりと窓の外を見ている。その目に映る景色は俺の見ている景色と同じだろうか?
「金田」
俺がそう声を掛けると、金田はハッとして視線をこちらに向ける。金田は軽く笑うとソファーに近づき俺の横に座った。
「少し拍子抜けでしたね」
「そうか?俺はかなり疲れたが」
「確かに疲れましたが‥‥せっかくスタンガンを用意したのに、出番なく終わってしまいました。」
俺は金田の言葉に呆れて肩を竦めた。スタンガンの出番などない方がいいに決まってる。それよりも‥‥。
「八木の離婚届だが、どうする?」
俺がそう尋ねると金田は質問を質問で返してきた。
「秋山君はどうしたいですか?」
「俺か?」
「そうです」
「俺は‥‥。」
死んだ男の離婚届を待つ女がいる。八木の遺体が見つかれば、その離婚届は無効になるかもしれない。
それでも、ほんの一時でも心が休まれば女の心は潰れずに済むかもしれない。
「八木の妻も俺達と同じく暴力を受けていた。女だから‥‥きっと俺達よりも辛い思いをしていると思う」
「そうだね」
「無駄になるかもしれないが、俺は八木の妻にこの離婚届を渡したい」
金田は俺を真剣に見つめていたが、少し考えた後に顔を上げて頷いた。
「そっか‥‥なら、僕が署名するよ」
「え?」
「署名の代筆は私文書偽造罪になるから、秋山君が書くのは不味いだろ?僕が書くから安心して」
金田はテーブルに置かれたボールペンを手に取ると、離婚届に八木の名前を書き込もうとした。
俺は慌ててその手を掴む。金田は驚いてペンを取り落とした。コロコロとテーブルを転がるボールペンはそのまま床に落ちる。
「秋山君?」
「私文書偽造罪ってなんだよ?」
「なにって‥‥本人以外が離婚届に署名すれば私文書偽造罪に問われるよね?」
「そうなのか?」
「うん、罪になる。もしも、八木の弟が偽の署名がされた離婚届と大麻パケを所轄署に持っていけば、流石に警察も動くと思う。だから秋山君は書かないほうがいい。僕が書くから安心して」
「八木の弟はそれを狙って離婚届を持ってきたのか!?」
俺が驚いて尋ねると金田は肩を竦めて応じる。
「その可能性もあるってだけだよ」
金田がなんでもないように答えるので、俺は呆れと疑問を持ちながら口を開く。
「警察に捕まる可能性があるのに、なんで簡単に署名しようとするんだ、金田?ヤバいだろ‥‥それ」
俺が離婚届を指差すと、金田は少し首を傾げながら言葉をもらす。
「僕が捕まるのが嫌なの?」
「嫌って‥‥それは‥‥、」
俺は言葉を続けることが出来ず黙り込んでしまった。
◆◆◆◆◆
リビングに戻ってきた金田がぼんやりと窓の外を見ている。その目に映る景色は俺の見ている景色と同じだろうか?
「金田」
俺がそう声を掛けると、金田はハッとして視線をこちらに向ける。金田は軽く笑うとソファーに近づき俺の横に座った。
「少し拍子抜けでしたね」
「そうか?俺はかなり疲れたが」
「確かに疲れましたが‥‥せっかくスタンガンを用意したのに、出番なく終わってしまいました。」
俺は金田の言葉に呆れて肩を竦めた。スタンガンの出番などない方がいいに決まってる。それよりも‥‥。
「八木の離婚届だが、どうする?」
俺がそう尋ねると金田は質問を質問で返してきた。
「秋山君はどうしたいですか?」
「俺か?」
「そうです」
「俺は‥‥。」
死んだ男の離婚届を待つ女がいる。八木の遺体が見つかれば、その離婚届は無効になるかもしれない。
それでも、ほんの一時でも心が休まれば女の心は潰れずに済むかもしれない。
「八木の妻も俺達と同じく暴力を受けていた。女だから‥‥きっと俺達よりも辛い思いをしていると思う」
「そうだね」
「無駄になるかもしれないが、俺は八木の妻にこの離婚届を渡したい」
金田は俺を真剣に見つめていたが、少し考えた後に顔を上げて頷いた。
「そっか‥‥なら、僕が署名するよ」
「え?」
「署名の代筆は私文書偽造罪になるから、秋山君が書くのは不味いだろ?僕が書くから安心して」
金田はテーブルに置かれたボールペンを手に取ると、離婚届に八木の名前を書き込もうとした。
俺は慌ててその手を掴む。金田は驚いてペンを取り落とした。コロコロとテーブルを転がるボールペンはそのまま床に落ちる。
「秋山君?」
「私文書偽造罪ってなんだよ?」
「なにって‥‥本人以外が離婚届に署名すれば私文書偽造罪に問われるよね?」
「そうなのか?」
「うん、罪になる。もしも、八木の弟が偽の署名がされた離婚届と大麻パケを所轄署に持っていけば、流石に警察も動くと思う。だから秋山君は書かないほうがいい。僕が書くから安心して」
「八木の弟はそれを狙って離婚届を持ってきたのか!?」
俺が驚いて尋ねると金田は肩を竦めて応じる。
「その可能性もあるってだけだよ」
金田がなんでもないように答えるので、俺は呆れと疑問を持ちながら口を開く。
「警察に捕まる可能性があるのに、なんで簡単に署名しようとするんだ、金田?ヤバいだろ‥‥それ」
俺が離婚届を指差すと、金田は少し首を傾げながら言葉をもらす。
「僕が捕まるのが嫌なの?」
「嫌って‥‥それは‥‥、」
俺は言葉を続けることが出来ず黙り込んでしまった。
◆◆◆◆◆
2
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
[全221話完結済]彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
野花マリオ
ホラー
ーー彼女が語る怪異談を聴いた者は咲かせたり聴かせる
登場する怪異談集
初ノ花怪異談
野花怪異談
野薔薇怪異談
鐘技怪異談
その他
架空上の石山県野花市に住む彼女は怪異談を語る事が趣味である。そんな彼女の語る怪異談は咲かせる。そしてもう1人の鐘技市に住む彼女の怪異談も聴かせる。
完結いたしました。
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。
表紙イラストは生成AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる