38 / 49
第37話 ピエロ看守の独白⑪
しおりを挟む
◆◆◆◆◆
僕はチラリと秋山君を見た。彼はしばらく黙って八木の弟を見つめていたが、不意に言葉を発した。
「八木の過去はわかりました。だからといって、彼の行為を正当化する事はできない。俺も金田も八木には随分苦しめられた。」
秋山君の鋭い発言にも動じず、八木貴明は頷き返事をする。
「確かに貴方の仰る通りです。兄の暴力を私は正当化するつもりはありません。お二人には申し訳なく思っています。」
八木は再び僕たちに頭を下げた。その姿を見た秋山君は、気まずそうに言葉を紡ぐ。
「君を責めている訳じゃない。弟の君も八木に暴力を振るわれて苦労してきた‥‥そうだろ?だから、頭を上げてくれ。」
「‥‥‥分かりました」
八木が顔を上げると、秋山君は躊躇いながらも質問をした。
「君も家族も八木に散々迷惑を掛けられてきたんだよな?失踪したこの機会に、兄と縁を切りたいって思わなかったのか?」
「確かに思いました。このまま縁が切れるなら兄とは縁を切りたいと」
「でも、君は兄を探してる。それはやっぱり‥‥家族の情?」
「それは違います」
八木貴明がはっきりと秋山君の言葉を否定したので、僕は思わず言葉を発していた。
「家族の情でないなら、君はどうして僕の元にきたの?大麻のパケに書かれた住所を訪ねるなんて、普通はしないと思うけど?それだけ八木隼人に会いたいって事じゃないの?もしそうでないなら、何が目的だ?」
「金田」
秋山君に名を呼ばれてハッと我に返る。気がつけば僕は八木の弟を問い詰めていた。慌てて謝罪しようとしたが、その前に八木貴明が言葉を発する。
「義姉のためです」
「義理の姉?」
「離婚調停中に兄が失踪してしまったので、義姉は離婚できずに困っています。彼女は今は実家に戻っていますが、夫の行方がわからず余計に怯えていて引きこもりいる。私はそんな彼女を救いたい。だから、兄を探しています。」
義姉の離婚を成立させる為に、八木貴明は兄を探しているのか。『彼女を救いたい』か‥‥。
「義姉とはいえ貴方にとっては赤の他人ですよね?随分と肩入れをしてますね?」
僕の質問に八木は迷う事なくはっきりと応じる。
「義姉は私の元恋人です。」
「え?恋人?」
僕は思わず聞き返していた。秋山君も興味を惹かれたのか少し身を乗り出す。同僚の松村は初めてその話を聞いたのか、興味深そうに八木に視線を送る。
「実兄に恋人を奪われた間抜けな男ですが、今でも彼女を大事に思っています。私の兄が彼女を不幸にしてしまった。ならばせめて彼女の為に何かをしなければ気が済まない。」
八木貴明はそう言い切ると、おもむろにジャケットの懐から封筒を取り出した。彼は封筒から書類を取り出すと大麻パケの上で広げた。
「離婚届‥‥」
離婚届は『八木隼人』の署名欄以外はすべて書き込まれていた。八木の妻の署名や証人欄も全て埋められている。
僕が離婚届を見ていると、八木の弟がはっきりとした口調で言葉を発した。
「兄が仮に薬物中毒に陥っているなら、必ず薬を求めて貴方の元を訪れる筈。もしも、兄の隼人に会う機会があったらこの離婚届を渡して下さい。そして‥‥名前を書くように兄に促して欲しい。」
八木の弟の目的はこれか。
◆◆◆◆◆
僕はチラリと秋山君を見た。彼はしばらく黙って八木の弟を見つめていたが、不意に言葉を発した。
「八木の過去はわかりました。だからといって、彼の行為を正当化する事はできない。俺も金田も八木には随分苦しめられた。」
秋山君の鋭い発言にも動じず、八木貴明は頷き返事をする。
「確かに貴方の仰る通りです。兄の暴力を私は正当化するつもりはありません。お二人には申し訳なく思っています。」
八木は再び僕たちに頭を下げた。その姿を見た秋山君は、気まずそうに言葉を紡ぐ。
「君を責めている訳じゃない。弟の君も八木に暴力を振るわれて苦労してきた‥‥そうだろ?だから、頭を上げてくれ。」
「‥‥‥分かりました」
八木が顔を上げると、秋山君は躊躇いながらも質問をした。
「君も家族も八木に散々迷惑を掛けられてきたんだよな?失踪したこの機会に、兄と縁を切りたいって思わなかったのか?」
「確かに思いました。このまま縁が切れるなら兄とは縁を切りたいと」
「でも、君は兄を探してる。それはやっぱり‥‥家族の情?」
「それは違います」
八木貴明がはっきりと秋山君の言葉を否定したので、僕は思わず言葉を発していた。
「家族の情でないなら、君はどうして僕の元にきたの?大麻のパケに書かれた住所を訪ねるなんて、普通はしないと思うけど?それだけ八木隼人に会いたいって事じゃないの?もしそうでないなら、何が目的だ?」
「金田」
秋山君に名を呼ばれてハッと我に返る。気がつけば僕は八木の弟を問い詰めていた。慌てて謝罪しようとしたが、その前に八木貴明が言葉を発する。
「義姉のためです」
「義理の姉?」
「離婚調停中に兄が失踪してしまったので、義姉は離婚できずに困っています。彼女は今は実家に戻っていますが、夫の行方がわからず余計に怯えていて引きこもりいる。私はそんな彼女を救いたい。だから、兄を探しています。」
義姉の離婚を成立させる為に、八木貴明は兄を探しているのか。『彼女を救いたい』か‥‥。
「義姉とはいえ貴方にとっては赤の他人ですよね?随分と肩入れをしてますね?」
僕の質問に八木は迷う事なくはっきりと応じる。
「義姉は私の元恋人です。」
「え?恋人?」
僕は思わず聞き返していた。秋山君も興味を惹かれたのか少し身を乗り出す。同僚の松村は初めてその話を聞いたのか、興味深そうに八木に視線を送る。
「実兄に恋人を奪われた間抜けな男ですが、今でも彼女を大事に思っています。私の兄が彼女を不幸にしてしまった。ならばせめて彼女の為に何かをしなければ気が済まない。」
八木貴明はそう言い切ると、おもむろにジャケットの懐から封筒を取り出した。彼は封筒から書類を取り出すと大麻パケの上で広げた。
「離婚届‥‥」
離婚届は『八木隼人』の署名欄以外はすべて書き込まれていた。八木の妻の署名や証人欄も全て埋められている。
僕が離婚届を見ていると、八木の弟がはっきりとした口調で言葉を発した。
「兄が仮に薬物中毒に陥っているなら、必ず薬を求めて貴方の元を訪れる筈。もしも、兄の隼人に会う機会があったらこの離婚届を渡して下さい。そして‥‥名前を書くように兄に促して欲しい。」
八木の弟の目的はこれか。
◆◆◆◆◆
3
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ルール
新菜いに/丹㑚仁戻
ホラー
放課後の恒例となった、友達同士でする怪談話。
その日聞いた怪談は、実は高校の近所が舞台となっていた。
主人公の亜美は怖がりだったが、周りの好奇心に押されその場所へと向かうことに。
その怪談は何を伝えようとしていたのか――その意味を知ったときには、もう遅い。
□第6回ホラー・ミステリー小説大賞にて奨励賞をいただきました□
※章ごとに登場人物や時代が変わる連作短編のような構成です(第一章と最後の二章は同じ登場人物)。
※結構グロいです。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
©2022 新菜いに
禁踏区
nami
ホラー
月隠村を取り囲む山には絶対に足を踏み入れてはいけない場所があるらしい。
そこには巨大な屋敷があり、そこに入ると決して生きて帰ることはできないという……
隠された道の先に聳える巨大な廃屋。
そこで様々な怪異に遭遇する凛達。
しかし、本当の恐怖は廃屋から脱出した後に待ち受けていた──
都市伝説と呪いの田舎ホラー
放浪さんの放浪記
山代裕春
ホラー
閲覧していただきありがとうございます
注意!過激な表現が含まれています
苦手な方はそっとバックしてください
登場人物
放浪さん
明るい性格だが影がある
怪談と番茶とお菓子が大好き
嫌いなものは、家族(特に母親)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる