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第31話 二人の訪問者
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◆◆◆◆◆
金田と共に八木の弟が待つ玄関に戻ると、何故か訪問者が二人になっていた。
「えっ?」
「えっ?」
俺と金田は思わず同じ言葉を発して顔を見合わせる。唖然としたまま、俺達は八木貴明と新たに現れた男に再び視線を向けた。
「あの‥‥その人は誰ですか?」
金田が二人を見つめて話しかけると、八木が軽く笑って応じる。
「彼は私の同僚で名前は松村進次郎といいます。松村は和歌山出身でここが地元なんですよ。この別荘地の事を知っていたので、彼に車で送ってもらいました。」
そういえば、八木の弟はこの別荘が『還らずの崖』に建っていることを知っていたな。たしか地元出身の同僚から聞いたと言っていた。
その同僚が松村進次郎か。
八木貴明の言葉を聞き終えると、金田は反撃に出た。
「でも、玄関先で待っていたのはあなた一人だった。八木君の弟だと分かったから玄関に入れたのに、勝手に家の中に他人を招き入れるなんて‥‥これではまるで騙し討だ。そうは思いませんか、八木貴明さん?」
金田の言葉に八木の弟は少し困った表情を浮かべる。そして、申し訳無さそうに言葉を紡ぐ。
「騙し討ちとか‥‥そんな意図は全く無いです。松村は私をここまで車で送った後に、違法駐車を嫌って実家に車を置きに帰りました。そのまま実家で待ってもらうつもりでしたが、雨が降り出したので彼が傘を持って徒歩で迎えに来てくれただけです。」
八木の言葉を聞いた金田は少し皮肉まじりに言葉を漏らす。
「ずいぶん親切な同僚ですね?」
「ええ、そう思います。雨もまだ降っていますし、できれば彼の同席を許可してもらいたいのですが‥‥駄目ですか、金田さん?」
金田は少し迷いつつも首をふって拒否の言葉を口にする。
「‥‥事情は分かりました。ですが、松村さんは八木隼人さんの失踪の件には関わりはないですよね?八木隼人さんのプライバシーに関わることですし、同席は遠慮していただきたいです。」
金田がそう伝えると、間髪入れずに松村が言葉を発した。
「俺が同席すると不味いことでもあるのですか、金田さん?」
体格にふさわしく威圧感のある声だった。金田が微かに震えたのを感じ取り、俺は友人の肩に触れた。金田がちらりと視線をこちらに向ける。
頑なに拒絶するのも不自然だ。
そう伝えたかったが口に出せるはずもなく、代わりの言葉を探して口を開く。
「別に家にいれるくらい構わないだろ。それに俺も同級生の八木の失踪は心配だから同席したい。四人で話し合えばなにか気づくこともあるかもしれない。そう思わないか、金田?」
俺の言葉に金田が渋々ながらも承知して頷く。
「秋山君がそれでいいなら‥‥。」
「じゃあ、そうしよう。あ、八木さん。部屋に入る前にタオルで濡れた髪を拭いてくれ。肩も濡れてるな。」
俺は金田が持つタオルを手に取ると、八木の濡れた肩を軽く拭った。
「ありがとう、秋山さん」
「え?」
「あとは自分で拭くので」
「ああ、そうだな。じゃあ、これ」
俺がタオルを渡すと八木は濡れた髪の毛を拭った。八木隼人によく似た弟に『ありがとう』と言われて不思議な気分になる。
俺は八木隼人の使いっ走りで『公衆便所』だった。さんざん奉仕してやったのに、お礼なんて一言もなかった。『ありがとう』なんて一度も言われたことがない。
兄弟でどうしてこうも違うのか‥。
俺が八木の弟を見つめていると、不意に鋭い視線を感じて顔を上げる。俺を見ていたのは松村だった。
「っ‥‥。」
体格の良い松村を見ていると、自然にスタンガンの入ったポケットに触れていてハッとする。不自然な動きをしてしまった。
俺はゆっくりと手をポケットから離して、視線を金田に向けた。すると、金田も俺と同様にスタンガンの入ったポケットを弄っていた。俺は金田のその手を掴み少し身を寄せる。
「俺はお茶の用意をしてくる。金田は二人をリビングに案内してくれ」
「あ、ああ‥‥そうだね。」
俺が手を離すと金田はもうスタンガン入りのポケットを触ることなく、二人の訪問客をリビングに招き入れた。その様子を伺いつつ、俺はキッチンに向かった。
お茶の用意をすると言ったものの、俺は置き場所を知らない。金田に誘拐された俺が彼のキッチンを熟知していたら、そちらの方が奇妙だ。
どうしてこうなった‥。
そう思うと不意に笑いそうになって唇を噛みしめる。
情緒が不安定だ。
でも、仕方ない。
地下の牢獄には八木隼人の死体があるのだから。
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金田と共に八木の弟が待つ玄関に戻ると、何故か訪問者が二人になっていた。
「えっ?」
「えっ?」
俺と金田は思わず同じ言葉を発して顔を見合わせる。唖然としたまま、俺達は八木貴明と新たに現れた男に再び視線を向けた。
「あの‥‥その人は誰ですか?」
金田が二人を見つめて話しかけると、八木が軽く笑って応じる。
「彼は私の同僚で名前は松村進次郎といいます。松村は和歌山出身でここが地元なんですよ。この別荘地の事を知っていたので、彼に車で送ってもらいました。」
そういえば、八木の弟はこの別荘が『還らずの崖』に建っていることを知っていたな。たしか地元出身の同僚から聞いたと言っていた。
その同僚が松村進次郎か。
八木貴明の言葉を聞き終えると、金田は反撃に出た。
「でも、玄関先で待っていたのはあなた一人だった。八木君の弟だと分かったから玄関に入れたのに、勝手に家の中に他人を招き入れるなんて‥‥これではまるで騙し討だ。そうは思いませんか、八木貴明さん?」
金田の言葉に八木の弟は少し困った表情を浮かべる。そして、申し訳無さそうに言葉を紡ぐ。
「騙し討ちとか‥‥そんな意図は全く無いです。松村は私をここまで車で送った後に、違法駐車を嫌って実家に車を置きに帰りました。そのまま実家で待ってもらうつもりでしたが、雨が降り出したので彼が傘を持って徒歩で迎えに来てくれただけです。」
八木の言葉を聞いた金田は少し皮肉まじりに言葉を漏らす。
「ずいぶん親切な同僚ですね?」
「ええ、そう思います。雨もまだ降っていますし、できれば彼の同席を許可してもらいたいのですが‥‥駄目ですか、金田さん?」
金田は少し迷いつつも首をふって拒否の言葉を口にする。
「‥‥事情は分かりました。ですが、松村さんは八木隼人さんの失踪の件には関わりはないですよね?八木隼人さんのプライバシーに関わることですし、同席は遠慮していただきたいです。」
金田がそう伝えると、間髪入れずに松村が言葉を発した。
「俺が同席すると不味いことでもあるのですか、金田さん?」
体格にふさわしく威圧感のある声だった。金田が微かに震えたのを感じ取り、俺は友人の肩に触れた。金田がちらりと視線をこちらに向ける。
頑なに拒絶するのも不自然だ。
そう伝えたかったが口に出せるはずもなく、代わりの言葉を探して口を開く。
「別に家にいれるくらい構わないだろ。それに俺も同級生の八木の失踪は心配だから同席したい。四人で話し合えばなにか気づくこともあるかもしれない。そう思わないか、金田?」
俺の言葉に金田が渋々ながらも承知して頷く。
「秋山君がそれでいいなら‥‥。」
「じゃあ、そうしよう。あ、八木さん。部屋に入る前にタオルで濡れた髪を拭いてくれ。肩も濡れてるな。」
俺は金田が持つタオルを手に取ると、八木の濡れた肩を軽く拭った。
「ありがとう、秋山さん」
「え?」
「あとは自分で拭くので」
「ああ、そうだな。じゃあ、これ」
俺がタオルを渡すと八木は濡れた髪の毛を拭った。八木隼人によく似た弟に『ありがとう』と言われて不思議な気分になる。
俺は八木隼人の使いっ走りで『公衆便所』だった。さんざん奉仕してやったのに、お礼なんて一言もなかった。『ありがとう』なんて一度も言われたことがない。
兄弟でどうしてこうも違うのか‥。
俺が八木の弟を見つめていると、不意に鋭い視線を感じて顔を上げる。俺を見ていたのは松村だった。
「っ‥‥。」
体格の良い松村を見ていると、自然にスタンガンの入ったポケットに触れていてハッとする。不自然な動きをしてしまった。
俺はゆっくりと手をポケットから離して、視線を金田に向けた。すると、金田も俺と同様にスタンガンの入ったポケットを弄っていた。俺は金田のその手を掴み少し身を寄せる。
「俺はお茶の用意をしてくる。金田は二人をリビングに案内してくれ」
「あ、ああ‥‥そうだね。」
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お茶の用意をすると言ったものの、俺は置き場所を知らない。金田に誘拐された俺が彼のキッチンを熟知していたら、そちらの方が奇妙だ。
どうしてこうなった‥。
そう思うと不意に笑いそうになって唇を噛みしめる。
情緒が不安定だ。
でも、仕方ない。
地下の牢獄には八木隼人の死体があるのだから。
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