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第31話 スタンガン
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◆◆◆◆◆
八木貴明を玄関待たせると、俺は金田に促されて寝室に向かった。寝室に入ると金田はすぐに扉を閉じて鍵をしっかりとかける。
その様子を黙って見ていた俺に金田が話しかけてきた。
「秋山君、どうしよう!」
「いや、どうしようと言われても」
俺が返事に困っていると、金田がさらに疑問をぶつけてきた。
「八木の弟はどうしてこの場所にたどり着いたと思う?兄からこの場所のことを聞いたのかな?」
「それはないだろ。」
「どうしてそう言い切れるの?」
金田が間髪入れずに尋ね返すので、俺は面食らいながらも思考を巡らせる。そして、金田を落ち着かせるように話しかけた。
「金田は大麻や覚醒剤を餌にして、八木達をこの別荘に呼び寄せたんだろ?その後はクスリ漬けにして、其々の家族には『自ら失踪した』と思わせる電話を掛けさせた。そうだったよな?」
「そうだよ。僕の目の前で本人のスマホから家族に連絡をさせた。『暫く身を隠す必要ができたから探さないでくれ』って家族に伝えさせた‥‥ご褒美のクスリを彼等にちらつかせながらね。」
金田が薄っすらと笑いながらそう口にした。金田の瞳に憎悪の感情を見て、俺の背中がゾクリと震える。
その悪寒を振り払うように少し語気を強めて金田に語りかけた。
「スマホの管理を金田がしていたのなら、拉致後に奴等がこの別荘のことを伝える手段はない。だから、八木の弟はこの別荘に兄がいると確信して来たわけじゃない筈だ」
「でも、八木がここに来る前に弟に話した可能性もあるよね?」
俺は首を振って否定する。
「大麻が絡むような後ろ暗い話を、家族に伝えるとは思わないけどな」
金田は俺の言葉に黙り込む。そして、不意に動き出した金田はクローゼットを開いて何かを漁りだす。
「金田?」
「いつまでも八木の弟を待たせていられないから。秋山君もこっちに来て。」
「ああ」
金田に促されて近づくと、男が振り返り俺の前にタオルと黒い物体を差し出した。
「はい、タオルとスタンガン」
「スタンガン!?」
俺が後ずさると金田がにじり寄ってきて、怖い顔で口を開く。
「相手は八木の弟だよ?いきなりキレて僕たちを殴ろうとするかもしれない。その時の為の用心にスタンガンを持っていて、秋山君」
「‥‥必要ないだろ。あいつは俺達を虐めた八木隼人じゃない。八木の弟だからって、いきなり暴力を振るうとは思えない。」
不意に金田が俺に抱きついてきた。その体は震えていて、俺は思わず抱き返しそうになる。
でもやめた。
金田が俺の上着のポケットにスタンガンを押し込んできたからだ。金田はポケットにソレを収めると、俺からするりと身を離す。
「ごめん、秋山君。それでも心配だから持っていて。」
「‥‥‥わかったよ。使い方が分からないから、役に立つとは思えないが」
「大丈夫。秋山君に渡したのは正規のスタンガンだから使い方は簡単だよ。赤いボタンの安全装置を上に押し上げてロックを解除。反対側の放電スイッチを入れて相手に押し付けるだけ。簡単だよ、秋山君」
俺はポケットからスタンガンを取り出すと、安全装置を解除して動作を確認する。放電スイッチを入れるとバチバチと音がして光が飛び散った。
俺はビビりながら安全装置の赤ボタンを押し下げてポケットに戻す。
「ね、簡単でしょ?僕のは違法なスタンガンだから使用法がちょっと面倒で‥‥。でも、これは動きを確実に止めて気絶させられるから、重宝してるんだよね。」
何故か金田が嬉々として違法スタンガンを己の上着のポケットに収める。重宝してるって‥‥普段から使ってるのかよ。嫌すぎる。
「お前がよくわからないよ、金田」
「え?」
「玩具のノコギリで八木を怖がらせようとした小心者のくせに、スタンガンは違法のものを使うとか‥。」
「玩具のノコギリ?」
金田が不思議そうに尋ね返すので、俺は説明する羽目になる。
「初めて俺が牢獄に行った時に、八木に玩具のノコギリを使ってただろ?八木は血糊が吹き出すノコギリだって言ってた。お前は『臆病者』だから本物のノコギリなんて使えないって言ってたぞ?」
金田は不思議そうな顔をしていたがすぐに合点がいったようで頷く。
「あれは本物のノコギリだよ。」
「え!?」
「最初に刃の荒いノコギリで足を削ったら、八木が死ぬほど暴れて泣き叫んで手がつけられなくて。それからは、刃の細かいノコギリに変えたんだ。そっか‥‥八木は刃の細かいノコギリを玩具だと思っていたのか。」
「お前、本当にノコギリで‥‥」
「削ったよ?でも、八木に『臆病者』と思われていたなんて‥‥腹が立つ。凶悪な看守になりきる為に必死にノコギリを使っていたのに。きっと、八木は大麻で痛覚が鈍っていたんだね。大麻で廃人になるとは思わなかったけど、薬物ってやっぱり怖いね」
やばい。
‥‥まずい。
金田に同情したのは失敗だった。
「金田‥‥‥お前は‥‥」
「?」
金田は狂ってる。
だけど、俺も同じ穴の狢か。
ロープで吊られた八木を死の穴に落としたのは‥‥俺だ。
「金田‥‥髪が濡れてる。」
「秋山君も濡れてるよ。」
金田は俺の頭にタオルを掛けると優しい手つきで拭き出す。俺も金田の頭にタオルを掛けて拭く。二人で腕を交差させて拭きあうには無理があった。
それでも、お互いの頭を拭き続ける。やがて視線が合うと、共に笑いだしていた。
「自分で拭いた方が早いな」
「確かに‥‥」
俺達はお互いに身を離すと、雨で濡れた髪と肩を軽く拭う。そして、視線を再度合わせて頷きあった。
八木の弟と対峙する。
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八木貴明を玄関待たせると、俺は金田に促されて寝室に向かった。寝室に入ると金田はすぐに扉を閉じて鍵をしっかりとかける。
その様子を黙って見ていた俺に金田が話しかけてきた。
「秋山君、どうしよう!」
「いや、どうしようと言われても」
俺が返事に困っていると、金田がさらに疑問をぶつけてきた。
「八木の弟はどうしてこの場所にたどり着いたと思う?兄からこの場所のことを聞いたのかな?」
「それはないだろ。」
「どうしてそう言い切れるの?」
金田が間髪入れずに尋ね返すので、俺は面食らいながらも思考を巡らせる。そして、金田を落ち着かせるように話しかけた。
「金田は大麻や覚醒剤を餌にして、八木達をこの別荘に呼び寄せたんだろ?その後はクスリ漬けにして、其々の家族には『自ら失踪した』と思わせる電話を掛けさせた。そうだったよな?」
「そうだよ。僕の目の前で本人のスマホから家族に連絡をさせた。『暫く身を隠す必要ができたから探さないでくれ』って家族に伝えさせた‥‥ご褒美のクスリを彼等にちらつかせながらね。」
金田が薄っすらと笑いながらそう口にした。金田の瞳に憎悪の感情を見て、俺の背中がゾクリと震える。
その悪寒を振り払うように少し語気を強めて金田に語りかけた。
「スマホの管理を金田がしていたのなら、拉致後に奴等がこの別荘のことを伝える手段はない。だから、八木の弟はこの別荘に兄がいると確信して来たわけじゃない筈だ」
「でも、八木がここに来る前に弟に話した可能性もあるよね?」
俺は首を振って否定する。
「大麻が絡むような後ろ暗い話を、家族に伝えるとは思わないけどな」
金田は俺の言葉に黙り込む。そして、不意に動き出した金田はクローゼットを開いて何かを漁りだす。
「金田?」
「いつまでも八木の弟を待たせていられないから。秋山君もこっちに来て。」
「ああ」
金田に促されて近づくと、男が振り返り俺の前にタオルと黒い物体を差し出した。
「はい、タオルとスタンガン」
「スタンガン!?」
俺が後ずさると金田がにじり寄ってきて、怖い顔で口を開く。
「相手は八木の弟だよ?いきなりキレて僕たちを殴ろうとするかもしれない。その時の為の用心にスタンガンを持っていて、秋山君」
「‥‥必要ないだろ。あいつは俺達を虐めた八木隼人じゃない。八木の弟だからって、いきなり暴力を振るうとは思えない。」
不意に金田が俺に抱きついてきた。その体は震えていて、俺は思わず抱き返しそうになる。
でもやめた。
金田が俺の上着のポケットにスタンガンを押し込んできたからだ。金田はポケットにソレを収めると、俺からするりと身を離す。
「ごめん、秋山君。それでも心配だから持っていて。」
「‥‥‥わかったよ。使い方が分からないから、役に立つとは思えないが」
「大丈夫。秋山君に渡したのは正規のスタンガンだから使い方は簡単だよ。赤いボタンの安全装置を上に押し上げてロックを解除。反対側の放電スイッチを入れて相手に押し付けるだけ。簡単だよ、秋山君」
俺はポケットからスタンガンを取り出すと、安全装置を解除して動作を確認する。放電スイッチを入れるとバチバチと音がして光が飛び散った。
俺はビビりながら安全装置の赤ボタンを押し下げてポケットに戻す。
「ね、簡単でしょ?僕のは違法なスタンガンだから使用法がちょっと面倒で‥‥。でも、これは動きを確実に止めて気絶させられるから、重宝してるんだよね。」
何故か金田が嬉々として違法スタンガンを己の上着のポケットに収める。重宝してるって‥‥普段から使ってるのかよ。嫌すぎる。
「お前がよくわからないよ、金田」
「え?」
「玩具のノコギリで八木を怖がらせようとした小心者のくせに、スタンガンは違法のものを使うとか‥。」
「玩具のノコギリ?」
金田が不思議そうに尋ね返すので、俺は説明する羽目になる。
「初めて俺が牢獄に行った時に、八木に玩具のノコギリを使ってただろ?八木は血糊が吹き出すノコギリだって言ってた。お前は『臆病者』だから本物のノコギリなんて使えないって言ってたぞ?」
金田は不思議そうな顔をしていたがすぐに合点がいったようで頷く。
「あれは本物のノコギリだよ。」
「え!?」
「最初に刃の荒いノコギリで足を削ったら、八木が死ぬほど暴れて泣き叫んで手がつけられなくて。それからは、刃の細かいノコギリに変えたんだ。そっか‥‥八木は刃の細かいノコギリを玩具だと思っていたのか。」
「お前、本当にノコギリで‥‥」
「削ったよ?でも、八木に『臆病者』と思われていたなんて‥‥腹が立つ。凶悪な看守になりきる為に必死にノコギリを使っていたのに。きっと、八木は大麻で痛覚が鈍っていたんだね。大麻で廃人になるとは思わなかったけど、薬物ってやっぱり怖いね」
やばい。
‥‥まずい。
金田に同情したのは失敗だった。
「金田‥‥‥お前は‥‥」
「?」
金田は狂ってる。
だけど、俺も同じ穴の狢か。
ロープで吊られた八木を死の穴に落としたのは‥‥俺だ。
「金田‥‥髪が濡れてる。」
「秋山君も濡れてるよ。」
金田は俺の頭にタオルを掛けると優しい手つきで拭き出す。俺も金田の頭にタオルを掛けて拭く。二人で腕を交差させて拭きあうには無理があった。
それでも、お互いの頭を拭き続ける。やがて視線が合うと、共に笑いだしていた。
「自分で拭いた方が早いな」
「確かに‥‥」
俺達はお互いに身を離すと、雨で濡れた髪と肩を軽く拭う。そして、視線を再度合わせて頷きあった。
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