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第23話 残酷な処刑執行
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◆◆◆◆◆
ピエロの看守が俺を残して五号監房に走っていく。監獄の廊下は八木を引き摺った時にできた血液の道ができていた。
「‥‥‥うっ、ぐっ‥」
吐き気に襲われた俺は、監房の檻にしがみついて耐える。それでも我慢できずに床に吐き出した。
「胃液だけか‥‥。」
唇を袖で拭いながらふと思う。胃液を吐いても酒を呷っていた俺が、今は眼の前にビールがあっても飲めそうにない。
「金田の望み通り断酒に成功しそうだな‥‥笑える‥‥」
俺はいつの間にか本当に笑いだしていた。しばらく笑った後、脱力してその場に座り込む。俺はうつむきながら言葉を吐き出した。
「‥‥俺が行く必要はない。金田がここで待つように言ったんだ。それに従っていればいい。八木は脇腹を刺されて大量に出血していた。救急車を呼んでも‥‥‥もう助からないさ。」
牢獄内にはくぐもったうめき声が断続的に響いている。
「絞首刑は即死する。刺されて痛いまま死ぬより即死したら‥‥その方が楽なはずだ。楽な筈なのに‥‥。」
八木のうめき声がまだ続いていた。
「金田は何をしているんだ?」
八木にとどめを刺す為に、金田は五号監房に向かったんじゃないのか?
トラブルでも発生したとか?
「俺は誘拐されて巻き込まれただけ。八木を刺したのは金田で、全ての元凶はアイツだ。」
俺には関係無い。
でも、あの時‥‥俺は八木が消えることを望み、金田は俺の望みに応じた。八木を刺すとは思わなかったけど、金田が殺人さえ辞さず動いた理由は俺を救う為。
『裏切り者』の友を救うために、金田は殺人に手を染めた。そんなあいつに全ての罪を背負わせていいのか?
「俺は卑怯者だからそれでいい!」
それでいい。俺は卑怯者で裏切り者だ。金田に全てを負わせたらいい。
だけど‥。
「ああ、くそ!」
俺は立ち上がって五号監房に向かって走り出していた。走れば五号監房などすぐそば。すぐに監房の入口にたどり着き俺は愕然とした。
五号監房の中央で八木が吊られていた。脇腹から血を大量に流す男には、立ち続ける力はない。
操り人形の糸が切れたように体は崩れ落ちようとするが、八木の首に食い込むロープがそれを許さない。
白目を剥いた八木はそれでも死ぬことが出来ずに、体をビクビクと強張らせながら泡と共に潰れたうめき声を漏らしていた。
「なんで‥‥‥」
金田は八木を拷問しているのか?
恨みがまだ晴れていないのか?
恐怖が全身を支配して体が冷たくなる。指先の震えが止まらない。その時、場違いな声で名を呼ばれた。
「知ってる人‥‥金田さんだ!」
監房の中の佐々木が明るい声で俺の名を呼ぶ。その表情は穏やかで笑っている様にさえ見えた。佐々木の不気味さに圧倒されつつも、名前を呼ばれたことで正気を取り戻す。
そして、監房内の奥でレバーを手にした金田を目にする。あのレバーを引けば、吊られた八木の足元の床が開くのか?
監房の扉は開いている。俺は思い切って内部に入った。そして、金田に近づきながら名前を呼ぶ。俺の声に金田がビクリと震えるが、視線はレバーに固定されたままだった。
俺はもう一度名前を呼んだ。
「金田!」
「‥‥‥‥あっ」
「何をしている!」
「駄目で」
「は?」
「レバーを引けない‥‥怖くて」
俺は驚いて金田を見つめた。よく見ると金田はがたがたと震えていて、立っているのもやっとの有り様。
俺は背後を振り返り吊られた八木を見る。もう助からない。助からないなら‥‥もういいよな?
俺はレバーを握る金田の手の甲を自身の手のひらで包んだ。ほんの少しだけ、金田の手の方が冷たい。そんな事を思いながら、俺はレバーを引いた。
床が開くと同時に八木は落下する。
首の骨が砕ける音を耳にしながら、俺と金田は共に床に崩れ落ちた。
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ピエロの看守が俺を残して五号監房に走っていく。監獄の廊下は八木を引き摺った時にできた血液の道ができていた。
「‥‥‥うっ、ぐっ‥」
吐き気に襲われた俺は、監房の檻にしがみついて耐える。それでも我慢できずに床に吐き出した。
「胃液だけか‥‥。」
唇を袖で拭いながらふと思う。胃液を吐いても酒を呷っていた俺が、今は眼の前にビールがあっても飲めそうにない。
「金田の望み通り断酒に成功しそうだな‥‥笑える‥‥」
俺はいつの間にか本当に笑いだしていた。しばらく笑った後、脱力してその場に座り込む。俺はうつむきながら言葉を吐き出した。
「‥‥俺が行く必要はない。金田がここで待つように言ったんだ。それに従っていればいい。八木は脇腹を刺されて大量に出血していた。救急車を呼んでも‥‥‥もう助からないさ。」
牢獄内にはくぐもったうめき声が断続的に響いている。
「絞首刑は即死する。刺されて痛いまま死ぬより即死したら‥‥その方が楽なはずだ。楽な筈なのに‥‥。」
八木のうめき声がまだ続いていた。
「金田は何をしているんだ?」
八木にとどめを刺す為に、金田は五号監房に向かったんじゃないのか?
トラブルでも発生したとか?
「俺は誘拐されて巻き込まれただけ。八木を刺したのは金田で、全ての元凶はアイツだ。」
俺には関係無い。
でも、あの時‥‥俺は八木が消えることを望み、金田は俺の望みに応じた。八木を刺すとは思わなかったけど、金田が殺人さえ辞さず動いた理由は俺を救う為。
『裏切り者』の友を救うために、金田は殺人に手を染めた。そんなあいつに全ての罪を背負わせていいのか?
「俺は卑怯者だからそれでいい!」
それでいい。俺は卑怯者で裏切り者だ。金田に全てを負わせたらいい。
だけど‥。
「ああ、くそ!」
俺は立ち上がって五号監房に向かって走り出していた。走れば五号監房などすぐそば。すぐに監房の入口にたどり着き俺は愕然とした。
五号監房の中央で八木が吊られていた。脇腹から血を大量に流す男には、立ち続ける力はない。
操り人形の糸が切れたように体は崩れ落ちようとするが、八木の首に食い込むロープがそれを許さない。
白目を剥いた八木はそれでも死ぬことが出来ずに、体をビクビクと強張らせながら泡と共に潰れたうめき声を漏らしていた。
「なんで‥‥‥」
金田は八木を拷問しているのか?
恨みがまだ晴れていないのか?
恐怖が全身を支配して体が冷たくなる。指先の震えが止まらない。その時、場違いな声で名を呼ばれた。
「知ってる人‥‥金田さんだ!」
監房の中の佐々木が明るい声で俺の名を呼ぶ。その表情は穏やかで笑っている様にさえ見えた。佐々木の不気味さに圧倒されつつも、名前を呼ばれたことで正気を取り戻す。
そして、監房内の奥でレバーを手にした金田を目にする。あのレバーを引けば、吊られた八木の足元の床が開くのか?
監房の扉は開いている。俺は思い切って内部に入った。そして、金田に近づきながら名前を呼ぶ。俺の声に金田がビクリと震えるが、視線はレバーに固定されたままだった。
俺はもう一度名前を呼んだ。
「金田!」
「‥‥‥‥あっ」
「何をしている!」
「駄目で」
「は?」
「レバーを引けない‥‥怖くて」
俺は驚いて金田を見つめた。よく見ると金田はがたがたと震えていて、立っているのもやっとの有り様。
俺は背後を振り返り吊られた八木を見る。もう助からない。助からないなら‥‥もういいよな?
俺はレバーを握る金田の手の甲を自身の手のひらで包んだ。ほんの少しだけ、金田の手の方が冷たい。そんな事を思いながら、俺はレバーを引いた。
床が開くと同時に八木は落下する。
首の骨が砕ける音を耳にしながら、俺と金田は共に床に崩れ落ちた。
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