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第22話 ピエロ看守の独白④
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◆◆◆◆◆
僕と目があった秋山君は気まずそうに視線を逸らす。彼の視線の先を追うと床に横たわる八木がいた。八木は秋山君の視線を絡め取ると、必死の形相で叫びだす。
「秋山、なんとかしてくれ。俺は死にたくない。俺には家族がいる。こんなところで死ねない。ぐぁ、痛いっ!死ぬ。死にたくない。病院に連れて行ってくれたら、ここでの事は黙ってる。誰にも喋らないから。頼む!頼むから、救急車を呼んでくれ!秋山!頼む!」
「八木‥‥」
秋山君が返事に困り黙り込んだので、僕が代わって言葉を発する。
「秋山君を酷い目に遭わせたくせに、よく助けを求められるね?『俺には家族がいる』って、それ本気で言ってるの?人を使って調べさせたけど‥‥妻と子供にDVして離婚調停中だよね?生きて帰るより、ここで死ぬ方が家族の為だと思うよ、八木」
僕の言葉に反応したのは秋山君だった。『家族にまで暴力を‥‥』そう呟いた秋山君は不快そうに顔を歪める。
僕は秋山君を見つめて口を開く。
「八木は昔と変らない。いじめっ子のまま大人になった。監獄に入れても暴力性はそのままで、秋山君に酷いことをした。だから僕は決断したんだ。看守役として八木を処刑する。」
「‥‥‥。」
僕の言葉に秋山君は押し黙る。しばらく言葉を待ったが返事はない。秋山君の気持ちが気になったが、その気持ちを振り切る。そして、佐々木に視線を向けて命じた。
「佐々木、その男を連れて行け。」
「わかった」
「嫌だ!待ってくれ。痛いっ、引っ張るな。嫌だ、死にたくない‥死ぬのは‥‥‥助けてくれ、助けて‥‥‥」
八木が引き摺られていく。すぐに監房内からは見えなくなり、悲鳴だけが地下監獄に響いていた。
「顔色が悪いね、秋山君?」
青ざめた秋山君の様子が気になり声を掛ける。彼と視線は合うが返事がない。なので、更に顔を近づけて問いかけた。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
秋山君の言葉に一瞬言葉を失いそうになる。『大丈夫じゃない』か‥‥当然の反応なのに胸が苦しい。
「そうだね。」
そう返事をするのが精一杯だった。
「‥‥本気で殺すつもりなのか?」
「もう答えは出たから」
「‥‥‥。」
秋山君は返事をせずに静かに顔を伏せた。表情が見えない‥‥それだけで不安になる。僕は君の気持ちを知りたい。
牢獄での秋山君の様子を見れば分かる。君は八木の奴隷だった。『公衆便所』と呼ばれて酷い事をされていた。そして、その命令に従う自分に絶望している‥‥僕にはそう見えた。
八木は消すべき存在だ。
秋山君にもそう望んで欲しい。
秋山君が八木の死を望むなら、迷わず僕は手を汚せる。
「俺は‥‥手伝えない」
不意に溢れた言葉に僕は目を見開く。一瞬聞き違いかと思った。でも、その言葉は紛れもなく秋山君が発したもので‥‥。
僕は思わず笑みを浮かべてしまった。八木の死を望むどころか、僕と共犯になる事まで考えてくれたんだね。それだけで十分だよ。
「手伝ってなんて頼まないよ。それより、秋山君は先にエレベーターで地上に上がっていてくれる?処理に時間が掛かりそうだから、先に寝てくれていいよ」
僕がそう伝えると秋山君は安堵の息をつくと小さく呟いた。
「わかった‥‥。」
僕は頷くと秋山君を促して第一監房を出た。そして、エレベーターに向かい歩きだす。だが、すぐに互いの歩みが止まった。
男の断末魔の叫びが地下牢獄に響き渡ったからだ。
体を強張らせた秋山君の肩に触れながら僕は慌てて話し掛ける。
「佐々木が僕の命令を待たずに八木をロープで吊ったのかもしれない。早くレバーを引いて床下を開けてあげないと八木はずっと死ねない!首が絞まったまま‥‥‥」
首が絞まったまま十分以上は苦しみ続ける事になる‥‥あまりに残酷な死。
「拷問だろ‥‥それは」
秋山君の言葉にはっとして、僕は五号監房に向かい走り出していた。
「金田!」
秋山君に呼ばれたが僕は背後を振り向くことなく走り続ける。
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僕と目があった秋山君は気まずそうに視線を逸らす。彼の視線の先を追うと床に横たわる八木がいた。八木は秋山君の視線を絡め取ると、必死の形相で叫びだす。
「秋山、なんとかしてくれ。俺は死にたくない。俺には家族がいる。こんなところで死ねない。ぐぁ、痛いっ!死ぬ。死にたくない。病院に連れて行ってくれたら、ここでの事は黙ってる。誰にも喋らないから。頼む!頼むから、救急車を呼んでくれ!秋山!頼む!」
「八木‥‥」
秋山君が返事に困り黙り込んだので、僕が代わって言葉を発する。
「秋山君を酷い目に遭わせたくせに、よく助けを求められるね?『俺には家族がいる』って、それ本気で言ってるの?人を使って調べさせたけど‥‥妻と子供にDVして離婚調停中だよね?生きて帰るより、ここで死ぬ方が家族の為だと思うよ、八木」
僕の言葉に反応したのは秋山君だった。『家族にまで暴力を‥‥』そう呟いた秋山君は不快そうに顔を歪める。
僕は秋山君を見つめて口を開く。
「八木は昔と変らない。いじめっ子のまま大人になった。監獄に入れても暴力性はそのままで、秋山君に酷いことをした。だから僕は決断したんだ。看守役として八木を処刑する。」
「‥‥‥。」
僕の言葉に秋山君は押し黙る。しばらく言葉を待ったが返事はない。秋山君の気持ちが気になったが、その気持ちを振り切る。そして、佐々木に視線を向けて命じた。
「佐々木、その男を連れて行け。」
「わかった」
「嫌だ!待ってくれ。痛いっ、引っ張るな。嫌だ、死にたくない‥死ぬのは‥‥‥助けてくれ、助けて‥‥‥」
八木が引き摺られていく。すぐに監房内からは見えなくなり、悲鳴だけが地下監獄に響いていた。
「顔色が悪いね、秋山君?」
青ざめた秋山君の様子が気になり声を掛ける。彼と視線は合うが返事がない。なので、更に顔を近づけて問いかけた。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
秋山君の言葉に一瞬言葉を失いそうになる。『大丈夫じゃない』か‥‥当然の反応なのに胸が苦しい。
「そうだね。」
そう返事をするのが精一杯だった。
「‥‥本気で殺すつもりなのか?」
「もう答えは出たから」
「‥‥‥。」
秋山君は返事をせずに静かに顔を伏せた。表情が見えない‥‥それだけで不安になる。僕は君の気持ちを知りたい。
牢獄での秋山君の様子を見れば分かる。君は八木の奴隷だった。『公衆便所』と呼ばれて酷い事をされていた。そして、その命令に従う自分に絶望している‥‥僕にはそう見えた。
八木は消すべき存在だ。
秋山君にもそう望んで欲しい。
秋山君が八木の死を望むなら、迷わず僕は手を汚せる。
「俺は‥‥手伝えない」
不意に溢れた言葉に僕は目を見開く。一瞬聞き違いかと思った。でも、その言葉は紛れもなく秋山君が発したもので‥‥。
僕は思わず笑みを浮かべてしまった。八木の死を望むどころか、僕と共犯になる事まで考えてくれたんだね。それだけで十分だよ。
「手伝ってなんて頼まないよ。それより、秋山君は先にエレベーターで地上に上がっていてくれる?処理に時間が掛かりそうだから、先に寝てくれていいよ」
僕がそう伝えると秋山君は安堵の息をつくと小さく呟いた。
「わかった‥‥。」
僕は頷くと秋山君を促して第一監房を出た。そして、エレベーターに向かい歩きだす。だが、すぐに互いの歩みが止まった。
男の断末魔の叫びが地下牢獄に響き渡ったからだ。
体を強張らせた秋山君の肩に触れながら僕は慌てて話し掛ける。
「佐々木が僕の命令を待たずに八木をロープで吊ったのかもしれない。早くレバーを引いて床下を開けてあげないと八木はずっと死ねない!首が絞まったまま‥‥‥」
首が絞まったまま十分以上は苦しみ続ける事になる‥‥あまりに残酷な死。
「拷問だろ‥‥それは」
秋山君の言葉にはっとして、僕は五号監房に向かい走り出していた。
「金田!」
秋山君に呼ばれたが僕は背後を振り向くことなく走り続ける。
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