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第19話 ピエロ看守の独白①
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◆◆◆◆◆
秋山君は僕を裏切っていた。
‥‥動揺することはない。
高校の頃から僕は秋山君に疑惑を抱いていた。
僕は傷ついていない。
傷つく必要もない。
だって、分かっていた事だから‥‥。
◇◇◇
僕の目の下には蝶の形の痣がある。
僕の顔を見た人は一瞬顔を顰めてすぐに表情を取り繕う。血の繋がった母親さえ同じ有り様で、彼女はやがて育児を完全に放棄した。
美容整形外科を手広く商う父にとっても僕は目障りで、同時にモルモットでもあった。
僕の痣を気にせず可愛がってくれたのは、祖父だけだったと思う。
痣を気にして生きてきた僕は酷く臆病で、人とうまく付き合えなかった。当然、そんな僕に友達はできない。
一人ぼっちの小中学校生活は寂しかったけど、先生の助けを借りてひどい虐めに遭う事なくなんとかやり過ごし卒業した。
その後は、親の希望に沿って県内で有名な私立の進学校を受験して、僕は高校生になる。
高校生になった僕は、過去と同じ様に一人で過ごすのだと思っていた。でも、そんな僕に声を掛けてくれる人がいて‥‥‥。
その人が秋山君だった。
同じクラスの秋山君は僕が班分けでハブられると、何時も声を掛けてくれる。掃除当番や図書委員を一緒にやったり、野外活動でも同じ班で行動した。
僕には背中に大きな痣がある。歪な蝶の形をした奇妙な痣。それを見られたくなくて、野外活動や修学旅行は全て休んで避けてきた。
でも、高校では初めて野外活動に参加した。行き先は白浜温泉。温泉には先生に事情を話して一人で入ったが、その他の活動は何時も秋山君と一緒だった。
楽しかった。
白浜の青い海を見て共に声を上げて白い砂を蹴散らして海に向かう。
泳ぐ時期ではなかったけれど、足首まで海水に浸かって寄せる波の心地よさにまた声をあげた。
秋山君は時々チグハグになる。
虚ろになり会話が途切れるのに、僕が話しかけると急に明るく振る舞う秋山君。そんな彼が心から楽しそうに海辺で遊んでいて、僕は目を奪われた。
僕の大切な友達。
そう思った。
一生、この絆を大事にしたい。
初めてそう思った。
だけど、野外活動から帰ると僕の学生生活は一変する。
八木達の虐めが始まったからだ。奴等は僕に集って金を要求してきた。それを拒めば奴等は僕を殴ると裸にして動画を撮った。金を払わないと裸の動画をSNSに流すと嗤う男達。
僕はそんな脅しに屈するつもりはなかった。すぐに担任の先生に虐めを報告して、虐めを終わらせるつもりでいた。でも、何故か僕の虐めを知っていた秋山君に止められて先生への相談を断念する。
その後の秋山君の行動はおかしかった。秋山君は八木に殴られる僕を庇って、奴等に殴りかかり逆に捕まって殴られて気絶してしまう。そんな目に遭っても、秋山君は誰にも相談しないと頑なだった。
秋山君が秘密にしたがっている。何故かは分からない。僅かな疑惑が頭をもたげたけれど、静かに心の奥に沈めた。そして、八木達から虐めを受ける日々が続く。
心はある日突然に壊れた。
何もかもが恐ろしく、全ての抵抗が無駄に思えて‥‥殴られても声が出なくなる。つまらなそうに殴る八木の顔を見ながら、何度も心のなかで殺した。
八木やその仲間を殺した。
同時に、自分自身も殺す。
八木達に殴られ陰茎を咥えさせられても、殺すことばかりを考えいた。自分も八木も全て殺す。
殺すんだ。
全てを殺して‥そして、
◇◇◇
『光一、俺は逃げたい!こんな過去はいらない!八木になんて会いたくなかった!巻き込んだのはお前だろ?気絶してないで俺を助けろ、光一!』
ーーーーーーーー!!
光一。
光一と呼ばれた。
そう呼ぶのは、秋山君だけで。
ああ、どうして。
僕は君の看守服に盗聴器を仕込んだんだ。真実を知りたかったから。
秋山君と八木達の関係をはっきりさせたかった。その上で、もう一度君との友情を築き直すつもりだった。
なのに‥‥‥秋山君と八木の会話を盗み聞きして、僕は君を恨んでしまった。自らの虐めから逃れるために僕を売った君を憎んで恨んだ。
一号監房の中で鎖に繋がれた君の姿に、僕は性的興奮さえ覚えた。そうだ、君は看守ではなく囚人が相応しい。僕を騙して生贄にした君に相応しい場所は牢獄の中だ。
なのに。
光一と呼ぶから。
僕を光一と呼ぶから‥‥‥。
僕は八木を刺していた。友達を苦しめる男が許せなかった。何度も想像した『死』を八木に食らわせる。
ナイフが肉を裂いてズブリと沈む。
これが刺す感覚。
溢れる血が熱い。
人間を刺している。
もっと深く。
深く。
刺してる。
僕は八木を刺した。
君が僕を『光一』と呼ぶから。僕の友達だと君が主張するから。
僕は八木を殺せる。
君の為なら殺せる。
◆◆◆◆◆◆
秋山君は僕を裏切っていた。
‥‥動揺することはない。
高校の頃から僕は秋山君に疑惑を抱いていた。
僕は傷ついていない。
傷つく必要もない。
だって、分かっていた事だから‥‥。
◇◇◇
僕の目の下には蝶の形の痣がある。
僕の顔を見た人は一瞬顔を顰めてすぐに表情を取り繕う。血の繋がった母親さえ同じ有り様で、彼女はやがて育児を完全に放棄した。
美容整形外科を手広く商う父にとっても僕は目障りで、同時にモルモットでもあった。
僕の痣を気にせず可愛がってくれたのは、祖父だけだったと思う。
痣を気にして生きてきた僕は酷く臆病で、人とうまく付き合えなかった。当然、そんな僕に友達はできない。
一人ぼっちの小中学校生活は寂しかったけど、先生の助けを借りてひどい虐めに遭う事なくなんとかやり過ごし卒業した。
その後は、親の希望に沿って県内で有名な私立の進学校を受験して、僕は高校生になる。
高校生になった僕は、過去と同じ様に一人で過ごすのだと思っていた。でも、そんな僕に声を掛けてくれる人がいて‥‥‥。
その人が秋山君だった。
同じクラスの秋山君は僕が班分けでハブられると、何時も声を掛けてくれる。掃除当番や図書委員を一緒にやったり、野外活動でも同じ班で行動した。
僕には背中に大きな痣がある。歪な蝶の形をした奇妙な痣。それを見られたくなくて、野外活動や修学旅行は全て休んで避けてきた。
でも、高校では初めて野外活動に参加した。行き先は白浜温泉。温泉には先生に事情を話して一人で入ったが、その他の活動は何時も秋山君と一緒だった。
楽しかった。
白浜の青い海を見て共に声を上げて白い砂を蹴散らして海に向かう。
泳ぐ時期ではなかったけれど、足首まで海水に浸かって寄せる波の心地よさにまた声をあげた。
秋山君は時々チグハグになる。
虚ろになり会話が途切れるのに、僕が話しかけると急に明るく振る舞う秋山君。そんな彼が心から楽しそうに海辺で遊んでいて、僕は目を奪われた。
僕の大切な友達。
そう思った。
一生、この絆を大事にしたい。
初めてそう思った。
だけど、野外活動から帰ると僕の学生生活は一変する。
八木達の虐めが始まったからだ。奴等は僕に集って金を要求してきた。それを拒めば奴等は僕を殴ると裸にして動画を撮った。金を払わないと裸の動画をSNSに流すと嗤う男達。
僕はそんな脅しに屈するつもりはなかった。すぐに担任の先生に虐めを報告して、虐めを終わらせるつもりでいた。でも、何故か僕の虐めを知っていた秋山君に止められて先生への相談を断念する。
その後の秋山君の行動はおかしかった。秋山君は八木に殴られる僕を庇って、奴等に殴りかかり逆に捕まって殴られて気絶してしまう。そんな目に遭っても、秋山君は誰にも相談しないと頑なだった。
秋山君が秘密にしたがっている。何故かは分からない。僅かな疑惑が頭をもたげたけれど、静かに心の奥に沈めた。そして、八木達から虐めを受ける日々が続く。
心はある日突然に壊れた。
何もかもが恐ろしく、全ての抵抗が無駄に思えて‥‥殴られても声が出なくなる。つまらなそうに殴る八木の顔を見ながら、何度も心のなかで殺した。
八木やその仲間を殺した。
同時に、自分自身も殺す。
八木達に殴られ陰茎を咥えさせられても、殺すことばかりを考えいた。自分も八木も全て殺す。
殺すんだ。
全てを殺して‥そして、
◇◇◇
『光一、俺は逃げたい!こんな過去はいらない!八木になんて会いたくなかった!巻き込んだのはお前だろ?気絶してないで俺を助けろ、光一!』
ーーーーーーーー!!
光一。
光一と呼ばれた。
そう呼ぶのは、秋山君だけで。
ああ、どうして。
僕は君の看守服に盗聴器を仕込んだんだ。真実を知りたかったから。
秋山君と八木達の関係をはっきりさせたかった。その上で、もう一度君との友情を築き直すつもりだった。
なのに‥‥‥秋山君と八木の会話を盗み聞きして、僕は君を恨んでしまった。自らの虐めから逃れるために僕を売った君を憎んで恨んだ。
一号監房の中で鎖に繋がれた君の姿に、僕は性的興奮さえ覚えた。そうだ、君は看守ではなく囚人が相応しい。僕を騙して生贄にした君に相応しい場所は牢獄の中だ。
なのに。
光一と呼ぶから。
僕を光一と呼ぶから‥‥‥。
僕は八木を刺していた。友達を苦しめる男が許せなかった。何度も想像した『死』を八木に食らわせる。
ナイフが肉を裂いてズブリと沈む。
これが刺す感覚。
溢れる血が熱い。
人間を刺している。
もっと深く。
深く。
刺してる。
僕は八木を刺した。
君が僕を『光一』と呼ぶから。僕の友達だと君が主張するから。
僕は八木を殺せる。
君の為なら殺せる。
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