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第17話 五号監房の処刑台
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◆◆◆◆◆
「痛いぃ、死ぬっっーーーー!!」
床に倒れた八木が悶絶の声を上げた。俺はハッとして八木に視線を向ける。男の脇腹にはサバイバルナイフが深々と刺さり、鮮血が囚人服を赤黒く染めていた。
「‥‥っ、血が‥‥早く病院に」
「秋山君落ち着いて。」
「落ち着いてって、そんなの無理に決まってるだろ。早く救急車を呼ばないと!いや、その前に止血か?」
俺は混乱したまま立ち上がろうとして目眩を起こす。ふらつく俺の体を支えたのは金田だった。俺をゆっくりと立ち上がらせた金田は真顔で俺に訪ねてきた。
「秋山君の本心は違うよね?」
「え?」
「秋山君はこう言ったよ。『光一、俺は逃げたい』『こんな過去はいらない』『八木になんて会いたくなかった』‥‥そう言ったでしょ、秋山君」
俺は金田から視線を逸らすことができなかった。不気味に目を輝かせた金田は俺の返事を待つことなく言葉を発し続ける。
「それから秋山君はこう叫んだ。『巻き込んだのはお前だろ』『気絶してないで俺を助けろ、光一』って。僕は全て覚えてる。秋山君の心の声がちゃんと届いたから、僕は八木を刺せたんだ」
俺は衝撃を受けて金田を突き飛ばす。ふらつく足で後退り背後の壁に寄りかかった。そんな俺を金田が不思議そうに見つめる。
「秋山君?」
「俺は頼んでない」
「え?」
「八木を刺せなんて言ってない!八木を刺したのはお前の意志だろ、金田?俺に責任を押し付けるな!」
「秋山君に責任を押し付けるなつもりなんてないよ!僕はただ秋山君の言葉のお陰で『看守役』になれた事が嬉しくて‥‥お礼が言いたかっただけ。僕はようやく支配する側になれた。ありがとう、秋山君」
八木の叫びとうめき声が響き渡る監房の中で、金田は静かに頭を下げた。この男は確実に狂ってる。
「お前は狂ってる」
「‥‥そうかもしれない」
「お前にはついていけない」
「秋山君‥‥‥。」
金田は頭を上げると寂しげに俺を見つめた。俺が視線を逸らすと、ピエロの看守も視線をそらせる。そして、金田は八木に近寄って行った。
「ひっ、来るな!痛いっ、くそ!」
「君は死刑だ」
「は?」
「僕の中で判決がおりたんだ。」
「なっ、なっ!?」
「君は消えるべき過去だ。過去を消すには今の君も消えないと。今と過去は繋がっているからね‥‥」
「気狂い‥‥ひっ、逃げないと‥」
八木は脇腹にナイフが刺さった状態で地面を這い始めた。動く度に脇腹から血が流れ出す。呻きながら這いずる男が目指した先は、佐々木だった。
「痛えっ、クソ佐々木!」
「?」
「何してやがる!金田を自由にさせやがって。俺は刺された!お前のせいでだ!くそがっ。痛えっ‥‥早く助けろ!助けろーーーー!」
八木が地べたに這ったまま叫び声を上げた。俺は壁を背にしたまま巨漢の佐々木を見つめる。佐々木は首を軽くかしげると、視線を金田に向けた。金田は八木を見つめると静かに話し出す。
「佐々木は悪い奴に騙されやすいから、いつも会話を録音させていたんだ。全く気が付かないで佐々木を仲間に引き込もうとするなんて、やっぱり八木は悪いやつだね?」
「ぐぁぁっ、くそっ!くそっ!」
八木が監房の床を両拳で鈍い音を立てながら叩き始める。手の皮膚がズルリとめくれてもお構いなしだ。俺は八木から視線をずらして金田を見て口を開く。
「佐々木はお前を裏切ってなかったのか?」
「佐々木は裏切らないよ。彼は僕の祖父に恩義があるから。」
「恩義?」
金田は佐々木を見ながら口を開く。
「佐々木は考えなしだからすぐに悪い奴らに利用されてさ。最後には強盗までさせられて、警察に捕まって少年刑務所行き。そんな佐々木の保護司になったのが僕の祖父なんだ。」
「金田さんのおじいさんいい人。だから、孫の金田さんもいい人。」
佐々木が巨漢の体をゆらゆらさせながらそう呟く。確かに‥‥悪い奴に騙されるタイプだ。
「僕の命令には絶対に従う。そうだよね、佐々木?」
「従う。なんでも。」
佐々木の言葉に満足して金田は頷くと静かに命令した。
「八木を五号監房に連れて行け、佐々木。それと、装置を動かして処刑台の準備を進めておいてくれ。八木は絞首刑で確定だ。」
俺は『絞首刑』の言葉に身震いした。ピエロの金田は学生時代にひどい虐めにあった。特に八木からは壮絶な暴力を受けた。
だが、そのイジメは脇腹をナイフで刺され首を縛られて死ぬ程の罪なのか?
何もかもが歪んでいる。
金田も八木も佐々木も‥‥俺自身も。
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「痛いぃ、死ぬっっーーーー!!」
床に倒れた八木が悶絶の声を上げた。俺はハッとして八木に視線を向ける。男の脇腹にはサバイバルナイフが深々と刺さり、鮮血が囚人服を赤黒く染めていた。
「‥‥っ、血が‥‥早く病院に」
「秋山君落ち着いて。」
「落ち着いてって、そんなの無理に決まってるだろ。早く救急車を呼ばないと!いや、その前に止血か?」
俺は混乱したまま立ち上がろうとして目眩を起こす。ふらつく俺の体を支えたのは金田だった。俺をゆっくりと立ち上がらせた金田は真顔で俺に訪ねてきた。
「秋山君の本心は違うよね?」
「え?」
「秋山君はこう言ったよ。『光一、俺は逃げたい』『こんな過去はいらない』『八木になんて会いたくなかった』‥‥そう言ったでしょ、秋山君」
俺は金田から視線を逸らすことができなかった。不気味に目を輝かせた金田は俺の返事を待つことなく言葉を発し続ける。
「それから秋山君はこう叫んだ。『巻き込んだのはお前だろ』『気絶してないで俺を助けろ、光一』って。僕は全て覚えてる。秋山君の心の声がちゃんと届いたから、僕は八木を刺せたんだ」
俺は衝撃を受けて金田を突き飛ばす。ふらつく足で後退り背後の壁に寄りかかった。そんな俺を金田が不思議そうに見つめる。
「秋山君?」
「俺は頼んでない」
「え?」
「八木を刺せなんて言ってない!八木を刺したのはお前の意志だろ、金田?俺に責任を押し付けるな!」
「秋山君に責任を押し付けるなつもりなんてないよ!僕はただ秋山君の言葉のお陰で『看守役』になれた事が嬉しくて‥‥お礼が言いたかっただけ。僕はようやく支配する側になれた。ありがとう、秋山君」
八木の叫びとうめき声が響き渡る監房の中で、金田は静かに頭を下げた。この男は確実に狂ってる。
「お前は狂ってる」
「‥‥そうかもしれない」
「お前にはついていけない」
「秋山君‥‥‥。」
金田は頭を上げると寂しげに俺を見つめた。俺が視線を逸らすと、ピエロの看守も視線をそらせる。そして、金田は八木に近寄って行った。
「ひっ、来るな!痛いっ、くそ!」
「君は死刑だ」
「は?」
「僕の中で判決がおりたんだ。」
「なっ、なっ!?」
「君は消えるべき過去だ。過去を消すには今の君も消えないと。今と過去は繋がっているからね‥‥」
「気狂い‥‥ひっ、逃げないと‥」
八木は脇腹にナイフが刺さった状態で地面を這い始めた。動く度に脇腹から血が流れ出す。呻きながら這いずる男が目指した先は、佐々木だった。
「痛えっ、クソ佐々木!」
「?」
「何してやがる!金田を自由にさせやがって。俺は刺された!お前のせいでだ!くそがっ。痛えっ‥‥早く助けろ!助けろーーーー!」
八木が地べたに這ったまま叫び声を上げた。俺は壁を背にしたまま巨漢の佐々木を見つめる。佐々木は首を軽くかしげると、視線を金田に向けた。金田は八木を見つめると静かに話し出す。
「佐々木は悪い奴に騙されやすいから、いつも会話を録音させていたんだ。全く気が付かないで佐々木を仲間に引き込もうとするなんて、やっぱり八木は悪いやつだね?」
「ぐぁぁっ、くそっ!くそっ!」
八木が監房の床を両拳で鈍い音を立てながら叩き始める。手の皮膚がズルリとめくれてもお構いなしだ。俺は八木から視線をずらして金田を見て口を開く。
「佐々木はお前を裏切ってなかったのか?」
「佐々木は裏切らないよ。彼は僕の祖父に恩義があるから。」
「恩義?」
金田は佐々木を見ながら口を開く。
「佐々木は考えなしだからすぐに悪い奴らに利用されてさ。最後には強盗までさせられて、警察に捕まって少年刑務所行き。そんな佐々木の保護司になったのが僕の祖父なんだ。」
「金田さんのおじいさんいい人。だから、孫の金田さんもいい人。」
佐々木が巨漢の体をゆらゆらさせながらそう呟く。確かに‥‥悪い奴に騙されるタイプだ。
「僕の命令には絶対に従う。そうだよね、佐々木?」
「従う。なんでも。」
佐々木の言葉に満足して金田は頷くと静かに命令した。
「八木を五号監房に連れて行け、佐々木。それと、装置を動かして処刑台の準備を進めておいてくれ。八木は絞首刑で確定だ。」
俺は『絞首刑』の言葉に身震いした。ピエロの金田は学生時代にひどい虐めにあった。特に八木からは壮絶な暴力を受けた。
だが、そのイジメは脇腹をナイフで刺され首を縛られて死ぬ程の罪なのか?
何もかもが歪んでいる。
金田も八木も佐々木も‥‥俺自身も。
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