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第12話 ピエロの仮面
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◆◆◆◆◆
人が死んだ?
嘘だろ?
「どうする、金田?」
「‥‥‥‥‥。」
俺は声の震えを抑えながら金田に話しかける。だが、金田は沈黙したまま受話器を握りしめている。その手は震えていた。
「金田!」
「っ、」
「しっかりしろ!」
金田は俺に視線を向けると、ゆっくりと息を吐きだした。そして、小さな声で呟く。
「‥‥きっと、佐々木は勘違いしているんだよ。前も囚人が死んだと騒いだことがあって‥‥でも、生きてた。知的に問題があるから、そんな間違いを起こす。なにも問題はないはずだ。何も‥‥。」
金田はボソボソとそう呟くと、繋がった回線を無視して受話器を元に戻した。俺は驚いて金田に話しかける。
「ちょっと待てよ、金田。まさかこのまま放っておくわけじゃないよな?佐々木の勘違いだと決めつけて、確認に行かないつもりか?」
「今日はもうピエロのメイクを落としたから‥‥地下牢獄には行かない」
「はぁ?何言ってるのお前?今はピエロのメイクの事なんて言ってる場合かよ。もしかしたら瀕死の状態の囚人を、佐々木が死んだと勘違いしたのかもしれないだろ?なら、今すぐに行って救命措置を取るなり救急車を呼ぶなりしないと。」
俺が金田に詰め寄ると、男は苛立ちを見せながら答える。
「ピエロのメイクがないと‥‥僕は地下牢獄には行けないんだ!だから、すぐに行くのは‥‥無理だ。」
「なんで?」
「‥‥怖いから。」
「怖い?」
俺がさらに尋ねようとすると、金田が泣きそうな顔で言い募る。
「僕はピエロのメイクをしないと看守にはなれない。奴等の前に素顔で出たら、俺は囚人になってしまう。支配される側になって奴等の言いなりになりそうで‥‥怖い。僕は看守なのに看守になれない。ピエロなら看守になれる。でも、ピエロの仮面がないと‥‥ピエロの‥‥。」
金田が『ピエロ、ピエロ』と言葉を繰り返す度に俺の背中が泡立つ。
気持ちが悪い。
いまだに虐めの恐怖に取り憑かれた男が俺の前にいる。その闇を覗くのが恐ろしい。金田の恐怖が伝染しそうに思えて俺の心が男を拒絶した。
「わかった。俺が地下牢獄に行って確認してくる。だから、金田はここにいろ。」
「秋山君、それは駄目だ!君を地下牢獄で一人になんてできないよ。」
金田が俺の腕を掴もうとしたので、その手を思いっきり振り払った。
「だったら、さっさとピエロのメイクをしてこいよ、金田。俺は先に地下に行ってるから‥‥」
俺は金田の返事を待たずにエレベーターのロックを解除した。自分の誕生日が暗証番号とか‥‥嫌すぎるが仕方ない。
ガコンと音がしてエレベーターが動き出し、一階に着くと扉が開いた。俺はエレベーターに乗り込むと、金田に視線を向ける。
「待ってるからな、金田」
「分かった、秋山君!」
エレベーターの扉がゆっくりと閉まる。完全に扉が閉じると俺はその場で座り込んでしまった。
「‥‥金田、まじでヤバい」
金田には急いで来いと言ったが、正直なところピエロの看守とは再会したくない。
「誘拐された上に死体の確認に行く羽目になるとは‥‥‥。」
エレベーターが地下に降りていく。死者がいるかもしれない地下に。
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人が死んだ?
嘘だろ?
「どうする、金田?」
「‥‥‥‥‥。」
俺は声の震えを抑えながら金田に話しかける。だが、金田は沈黙したまま受話器を握りしめている。その手は震えていた。
「金田!」
「っ、」
「しっかりしろ!」
金田は俺に視線を向けると、ゆっくりと息を吐きだした。そして、小さな声で呟く。
「‥‥きっと、佐々木は勘違いしているんだよ。前も囚人が死んだと騒いだことがあって‥‥でも、生きてた。知的に問題があるから、そんな間違いを起こす。なにも問題はないはずだ。何も‥‥。」
金田はボソボソとそう呟くと、繋がった回線を無視して受話器を元に戻した。俺は驚いて金田に話しかける。
「ちょっと待てよ、金田。まさかこのまま放っておくわけじゃないよな?佐々木の勘違いだと決めつけて、確認に行かないつもりか?」
「今日はもうピエロのメイクを落としたから‥‥地下牢獄には行かない」
「はぁ?何言ってるのお前?今はピエロのメイクの事なんて言ってる場合かよ。もしかしたら瀕死の状態の囚人を、佐々木が死んだと勘違いしたのかもしれないだろ?なら、今すぐに行って救命措置を取るなり救急車を呼ぶなりしないと。」
俺が金田に詰め寄ると、男は苛立ちを見せながら答える。
「ピエロのメイクがないと‥‥僕は地下牢獄には行けないんだ!だから、すぐに行くのは‥‥無理だ。」
「なんで?」
「‥‥怖いから。」
「怖い?」
俺がさらに尋ねようとすると、金田が泣きそうな顔で言い募る。
「僕はピエロのメイクをしないと看守にはなれない。奴等の前に素顔で出たら、俺は囚人になってしまう。支配される側になって奴等の言いなりになりそうで‥‥怖い。僕は看守なのに看守になれない。ピエロなら看守になれる。でも、ピエロの仮面がないと‥‥ピエロの‥‥。」
金田が『ピエロ、ピエロ』と言葉を繰り返す度に俺の背中が泡立つ。
気持ちが悪い。
いまだに虐めの恐怖に取り憑かれた男が俺の前にいる。その闇を覗くのが恐ろしい。金田の恐怖が伝染しそうに思えて俺の心が男を拒絶した。
「わかった。俺が地下牢獄に行って確認してくる。だから、金田はここにいろ。」
「秋山君、それは駄目だ!君を地下牢獄で一人になんてできないよ。」
金田が俺の腕を掴もうとしたので、その手を思いっきり振り払った。
「だったら、さっさとピエロのメイクをしてこいよ、金田。俺は先に地下に行ってるから‥‥」
俺は金田の返事を待たずにエレベーターのロックを解除した。自分の誕生日が暗証番号とか‥‥嫌すぎるが仕方ない。
ガコンと音がしてエレベーターが動き出し、一階に着くと扉が開いた。俺はエレベーターに乗り込むと、金田に視線を向ける。
「待ってるからな、金田」
「分かった、秋山君!」
エレベーターの扉がゆっくりと閉まる。完全に扉が閉じると俺はその場で座り込んでしまった。
「‥‥金田、まじでヤバい」
金田には急いで来いと言ったが、正直なところピエロの看守とは再会したくない。
「誘拐された上に死体の確認に行く羽目になるとは‥‥‥。」
エレベーターが地下に降りていく。死者がいるかもしれない地下に。
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