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第7話 『ピエロ』の顔の痣
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◆◆◆◆◆
「風呂からも海が見えるのか‥」
俺は湯船に浸かりながらボソリと呟いた。独り言のつもりだったが、その声をピエロ看守は拾う。
「綺麗ですよね。浴室から見える景色に一目惚れをして、僕はこの建物を購入しました。」
金田は俺に背を向けたまま体を洗っている。男の背中には蝶のような痣があり、見てはいけないモノを見た気がして俺はすぐに視線をそらした。
今、ピエロ看守と一緒に風呂に入っている‥‥‥‥カオス!
なぜこうなった。いや、もう何も考えたくない。
「秋山君には申し訳ないと思っています。貴方に盛った睡眠薬には尿閉の副作用があるので、念の為に尿道カテーテルを挿入さてもらいました。でも、その治療のせいで秋山君の矜持を深く傷つけてしまった‥‥ごめんなさい。」
金田が俺に背を向けたまま謝罪する。背を丸めた男は意気消沈していたが、慰める気にはならない。
「もうその話はやめてくれ‥‥。」
「秋山君」
「黙っていられないのか!」
「‥‥‥わかりました」
金田は俺に背を向けたまま黙々と体を洗い始める。
「くそっ」
俺は小さく呟いて湯に深く浸かる。頭を支配するのは、ついさっき起った出来事ばかり。
◇◇◇
玄関に向かって逃げ出した俺だが、尿道カテーテルに驚いてそのまま床に伏せてしまった。金田は近づくと無理やりズボンをずらし、俺の陰茎を取り出す。そして、そこに刺さった尿道カテーテルを素早く抜き去った。
痛みに悲鳴を上げたが、看守ピエロは無言のまま俺を抱き上げる。そのまま浴室に連れ込まれると、隅々まで体を洗われて湯船に入れられた。
◇◇◇
はっきり言って俺に矜持なんて大層なモノはない。でも、羞恥心はある。泣きたいほど辛い。これ以上ピエロ看守に弱みを見せたくない。
それは矜持からくるものではない。
恐怖だ。
恐怖から弱みを見せることを恐れている。弱みを見せれば喰われる。そう思えて仕方ない。
「秋山君?」
「え?」
「僕も湯船に入っていいですか?」
「勝手にしろよ‥‥‥えっ?」
俺はピエロ看守に視線を向けたが、そこにピエロはいなかった。ピエロの化粧を落とした金田は俺に素顔を晒す。
目の下にハートの痣があり、それが原因で『ピエロ』と呼ばれ男はいじめられていた。だが、そのハートの痣がない。いや、実際には痣はあるが目立たないくらいに薄くなっている。
「『ピエロ』ではなくなっているな」
俺は傷つけることを承知で『ピエロ』と口にした。すると、金田は薄く笑って口を開く。
「僕の実家は美容整形クリニックを幾つも経営しているので‥‥痣のある息子がいると病院の評判に関わるんです。だから、子供の頃から様々な処置を受けさせられました。」
「ああ、金田は医者の子だったな」
金田は湯船に浸かると視線を窓の外の海に向けた。俺も自然に白浜の海を眺める。
「痛い処置や苦しい処置を何度も受けました。お陰で顔の痣は薄くなりましたが、完全には消えない。これが消えるまでは‥‥僕は父や兄のモルモットですよ。」
「モルモット‥‥」
モルモットの言葉に俺は衝撃を受けた。だが、金田は平然と言葉を続ける。
「まあ、モルモットと違って、僕は賃金を貰って実験体をかって出ているんですけどね。背中の痣は全く消えてないし‥‥しばらくはお金には困りません。」
「働いてはいないのか?」
俺の疑問に金田が応じる。
「高校卒業後は引きこもりになった僕に働き口はありません。親が医者なので小遣いを貰って好き勝手させてもらってます。まあ、その対価としてモルモットをしているわけですけどね。」
金田の顔の痣は確かに薄くなった。だが、金田は確かに『ピエロ』でその心は闇に堕ちてる‥‥そう俺は感じた。
◆◆◆◆◆
「風呂からも海が見えるのか‥」
俺は湯船に浸かりながらボソリと呟いた。独り言のつもりだったが、その声をピエロ看守は拾う。
「綺麗ですよね。浴室から見える景色に一目惚れをして、僕はこの建物を購入しました。」
金田は俺に背を向けたまま体を洗っている。男の背中には蝶のような痣があり、見てはいけないモノを見た気がして俺はすぐに視線をそらした。
今、ピエロ看守と一緒に風呂に入っている‥‥‥‥カオス!
なぜこうなった。いや、もう何も考えたくない。
「秋山君には申し訳ないと思っています。貴方に盛った睡眠薬には尿閉の副作用があるので、念の為に尿道カテーテルを挿入さてもらいました。でも、その治療のせいで秋山君の矜持を深く傷つけてしまった‥‥ごめんなさい。」
金田が俺に背を向けたまま謝罪する。背を丸めた男は意気消沈していたが、慰める気にはならない。
「もうその話はやめてくれ‥‥。」
「秋山君」
「黙っていられないのか!」
「‥‥‥わかりました」
金田は俺に背を向けたまま黙々と体を洗い始める。
「くそっ」
俺は小さく呟いて湯に深く浸かる。頭を支配するのは、ついさっき起った出来事ばかり。
◇◇◇
玄関に向かって逃げ出した俺だが、尿道カテーテルに驚いてそのまま床に伏せてしまった。金田は近づくと無理やりズボンをずらし、俺の陰茎を取り出す。そして、そこに刺さった尿道カテーテルを素早く抜き去った。
痛みに悲鳴を上げたが、看守ピエロは無言のまま俺を抱き上げる。そのまま浴室に連れ込まれると、隅々まで体を洗われて湯船に入れられた。
◇◇◇
はっきり言って俺に矜持なんて大層なモノはない。でも、羞恥心はある。泣きたいほど辛い。これ以上ピエロ看守に弱みを見せたくない。
それは矜持からくるものではない。
恐怖だ。
恐怖から弱みを見せることを恐れている。弱みを見せれば喰われる。そう思えて仕方ない。
「秋山君?」
「え?」
「僕も湯船に入っていいですか?」
「勝手にしろよ‥‥‥えっ?」
俺はピエロ看守に視線を向けたが、そこにピエロはいなかった。ピエロの化粧を落とした金田は俺に素顔を晒す。
目の下にハートの痣があり、それが原因で『ピエロ』と呼ばれ男はいじめられていた。だが、そのハートの痣がない。いや、実際には痣はあるが目立たないくらいに薄くなっている。
「『ピエロ』ではなくなっているな」
俺は傷つけることを承知で『ピエロ』と口にした。すると、金田は薄く笑って口を開く。
「僕の実家は美容整形クリニックを幾つも経営しているので‥‥痣のある息子がいると病院の評判に関わるんです。だから、子供の頃から様々な処置を受けさせられました。」
「ああ、金田は医者の子だったな」
金田は湯船に浸かると視線を窓の外の海に向けた。俺も自然に白浜の海を眺める。
「痛い処置や苦しい処置を何度も受けました。お陰で顔の痣は薄くなりましたが、完全には消えない。これが消えるまでは‥‥僕は父や兄のモルモットですよ。」
「モルモット‥‥」
モルモットの言葉に俺は衝撃を受けた。だが、金田は平然と言葉を続ける。
「まあ、モルモットと違って、僕は賃金を貰って実験体をかって出ているんですけどね。背中の痣は全く消えてないし‥‥しばらくはお金には困りません。」
「働いてはいないのか?」
俺の疑問に金田が応じる。
「高校卒業後は引きこもりになった僕に働き口はありません。親が医者なので小遣いを貰って好き勝手させてもらってます。まあ、その対価としてモルモットをしているわけですけどね。」
金田の顔の痣は確かに薄くなった。だが、金田は確かに『ピエロ』でその心は闇に堕ちてる‥‥そう俺は感じた。
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