召喚聖女が十歳だったので、古株の男聖女はまだ陛下の閨に呼ばれるようです

月歌(ツキウタ)

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公爵とシャフツベリー王国

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◆◆◆◆◆

ブリギッタ殿下とウルスラが、両脇で俺の様子を伺っている。俺がこれ以上不甲斐ない態度を見せれば、この先情報の開示を二人が躊躇うかもしれない。

俺は背を伸ばして深く呼吸した。そして、意識して声を張り言葉を紡ぐ。

「公爵がハロンステーン公国の樹立を宣言したのは、パウル陛下への当て付けのように思えます。或いは・・私怨。そのような目的では、公爵を支持する者や、後に続き独立を宣言するものはいないはず」

ブリギッタ殿下が深く頷いた。

「エクストランド王国において、公爵は孤立しています。孫に当たる第三王子のダニエルも、公爵に見切りをつけました。公爵の味方はシャフツベリー王国ぐらいです。まあ、そこが厄介なのですが・・」

俺は第三王子の動向が気になり、殿下に視線を向けた。

「ダニエル様はどうされていますか?」

「弟のダニエルはパウル陛下に、公爵との戦の先陣に立ちたいと願い出ました。そして、陛下よりその許可が降りております。本格的な戦になればダニエルが先陣を切ります」

俺は驚いて目を見開いた。

「ダニエル様は公爵の孫ですよ?その二人を戦わせるなんて・・」

二人を戦わせるなんてあんまりだ。そう言い掛けて口を閉じた。

ダニエル様は公爵と関係を絶つことで、身の潔白を証明したいのだろう。そして、パウル陛下はダニエル様の裏切りの可能性を加味しつつ、彼を先陣に指名する事で弟への信頼を示した。

ならば、俺が口出しする事ではない。

「・・・」
「聖女様?」

「あ、ごめんなさい。少し考え事をしていました。ところで、ブリギッタ殿下?先ほど、シャフツベリー王国が公爵の味方に付いたと仰っていましたが、何故ですか?」

「何故とは?」

「公爵の味方をして、シャフツベリー王国に利益がありますか?」

俺の質問にブリギッタ殿下は苦い表情を浮かべた。

「我が国とシャフツベリー王国は山脈と内海により隔てられ、これまで戦になることはありませんでした。ですが、シャフツベリー王国で召喚された聖女の一人が、造船技術に特化した能力を持っていた様で・・多くの兵士を乗せる事が可能な船を開発したようです。内海を越えることが可能な船です、聖女様」

「造船に特化したチートスキル!うーむ。その聖女は造船会社に勤めていたのかな?とにかく、内海を越えてシャフツベリー王国が攻めてくる可能性があるわけですね?」

「そうです、聖女様。そして、船を陸地につけるには港が必要です。シャフツベリー王国は公爵を支援することで、そこからエクストランド国を侵略するつもりと思われます」

ブリギッタ殿下の話に頭がついていかなくなる。

「何だか、頭が混乱してきました~」

「情報収集は終わりにしましょう」
「そうしましょう、聖女様」

両脇の美男子が俺を気遣う。

もしも俺が女子なら、心が蕩けていたに違いない。だが、俺は男だ。心は蕩けていないが、情報過多で脳細胞が溶けている気がする。

休憩が必要だ。



◆◆◆◆◆


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