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傀儡の王と聖女召喚
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◆◆◆◆◆
彼は俺から僅かに視線をそらす。それでも、話してくれた。
「母君が第三王子を暗殺しようとするなど考えられません。優しい人だったのです。ですが、疑いは晴れず僻地の城に幽閉されました。そして、まもなくその地で亡くなりました。母君は獄中で病死したのです」
「・・そんな話、私は少しも知らなかった。パウル陛下は、私に何も話してくれなかった・・」
俺は思った以上に、ショックを受けていた。陛下と寝所を共にしながら、得ていたのは快楽だけってことか。
「どうして・・」
もしも、聖女の役目を終えたら陛下の心の友に・・親友になりたいと思っていた。だけど、それって俺が思ってるだけなのかな?
「パウル陛下は、どなたにも母君の話はなさいません。弟の俺にもです」
「そうなのですか?」
俺がブリギッタ殿下に尋ねると、彼は俯いて表情を隠してしまった。それでも、会話は続いた。
「傀儡の王となったパウル陛下は、公爵の言葉のままに母上を僻地の城に幽閉したのです。俺はその決定を取り消すように、何度も兄上の元に抗議に向かいました。しかし、兄上は・・陛下は反論もなさらず聞き流すだけです。その態度に、俺の心は蝕まれパウル兄上を憎むようになりました」
「ブリギッタ殿下・・」
不意に第三王子が顔を上げた。そして、苦しそうに言葉を紡ぐ。
「母上が僻地の城で亡くなった事を知った俺は、パウル兄上を罵倒しました。なんと情けない王なのかと。俺ならばお飾りの王様などにはならず、正義を成した筈だと兄上に言葉をぶつけました。それでも、兄上は亡くなった母上の事を嘆く事もなく・・俺を追い払ったのです。俺は兄上に失望しました。そして、憎むようになった」
「殿下・・」
俺は驚いてブリギッタ殿下を見た。彼は不意に顔をあげると、隣に座るウルスラに視線を向けた。俺の視線も自然とウルスラに向かう。ブリギッタ殿下が会話を再開する。
「そんな時でした。俺と兄上の不仲を知った乳母兄弟のウルスラが、俺に忠告してくれたのです。ハロンステーン公爵は俺を母上と共に排除するつもりで動いていたと。そして、陛下がその動きを阻止してくれたのだと」
俺は陛下の気持ちを思い、胸が痛くなった。傀儡の王としての精一杯の抵抗だったのだろう。第三王子への暗殺容疑で、弟と母親が僻地に幽閉されようとしている。公爵にとって真に邪魔な存在は誰なのか?
俺は自然と言葉を発していた。
「傀儡の王に仕立てたパウル陛下の婚約者は、公爵の孫娘のパール様。パール様が男子を生めば、その赤子が次期王となる。もし男子が生まれなければ、傀儡の王を退位させ第三王子のダニエル様に王位を継がせればいい。第三王子は公爵の外孫だから、公爵にとって都合がいい。後は・・」
俺の言葉にブリギッタ殿下が続く。
「後は、邪魔な第二王子である俺を、排除すれば公爵にとって好都合。俺とパウル陛下が不仲であることは、城内で噂になっていました。もしも、パウル陛下の身に何かあれば俺は確実に容疑を掛けられていた筈です」
俺は頷き言葉を交わす。
「パウル陛下はブリギッタ殿下を守りたかったのだと思います。同腹の兄弟は特別な絆があるはずですから。勿論、母君も守りたかった。でも、若く困難に直面した陛下には、二人を同時に救うことは出来なかった。僻地の城で母君が亡くなった事は、パウル陛下にとっても予想外の出来事だったのかもしれません。権力を公爵から奪い返した後に、母君をお迎えするつもりだったのではないでしょうか?」
「俺も今はそう思います。実際に、パウル陛下は傀儡の王を脱する為の手段を講じていました」
「その手段とは?」
俺の問いに対して、ブリギッタ殿下とウルスラが真っ直ぐに見つめてきた。
「聖女召喚の儀です、セツ様」
「え、私?」
俺は思わず首を傾げた。
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彼は俺から僅かに視線をそらす。それでも、話してくれた。
「母君が第三王子を暗殺しようとするなど考えられません。優しい人だったのです。ですが、疑いは晴れず僻地の城に幽閉されました。そして、まもなくその地で亡くなりました。母君は獄中で病死したのです」
「・・そんな話、私は少しも知らなかった。パウル陛下は、私に何も話してくれなかった・・」
俺は思った以上に、ショックを受けていた。陛下と寝所を共にしながら、得ていたのは快楽だけってことか。
「どうして・・」
もしも、聖女の役目を終えたら陛下の心の友に・・親友になりたいと思っていた。だけど、それって俺が思ってるだけなのかな?
「パウル陛下は、どなたにも母君の話はなさいません。弟の俺にもです」
「そうなのですか?」
俺がブリギッタ殿下に尋ねると、彼は俯いて表情を隠してしまった。それでも、会話は続いた。
「傀儡の王となったパウル陛下は、公爵の言葉のままに母上を僻地の城に幽閉したのです。俺はその決定を取り消すように、何度も兄上の元に抗議に向かいました。しかし、兄上は・・陛下は反論もなさらず聞き流すだけです。その態度に、俺の心は蝕まれパウル兄上を憎むようになりました」
「ブリギッタ殿下・・」
不意に第三王子が顔を上げた。そして、苦しそうに言葉を紡ぐ。
「母上が僻地の城で亡くなった事を知った俺は、パウル兄上を罵倒しました。なんと情けない王なのかと。俺ならばお飾りの王様などにはならず、正義を成した筈だと兄上に言葉をぶつけました。それでも、兄上は亡くなった母上の事を嘆く事もなく・・俺を追い払ったのです。俺は兄上に失望しました。そして、憎むようになった」
「殿下・・」
俺は驚いてブリギッタ殿下を見た。彼は不意に顔をあげると、隣に座るウルスラに視線を向けた。俺の視線も自然とウルスラに向かう。ブリギッタ殿下が会話を再開する。
「そんな時でした。俺と兄上の不仲を知った乳母兄弟のウルスラが、俺に忠告してくれたのです。ハロンステーン公爵は俺を母上と共に排除するつもりで動いていたと。そして、陛下がその動きを阻止してくれたのだと」
俺は陛下の気持ちを思い、胸が痛くなった。傀儡の王としての精一杯の抵抗だったのだろう。第三王子への暗殺容疑で、弟と母親が僻地に幽閉されようとしている。公爵にとって真に邪魔な存在は誰なのか?
俺は自然と言葉を発していた。
「傀儡の王に仕立てたパウル陛下の婚約者は、公爵の孫娘のパール様。パール様が男子を生めば、その赤子が次期王となる。もし男子が生まれなければ、傀儡の王を退位させ第三王子のダニエル様に王位を継がせればいい。第三王子は公爵の外孫だから、公爵にとって都合がいい。後は・・」
俺の言葉にブリギッタ殿下が続く。
「後は、邪魔な第二王子である俺を、排除すれば公爵にとって好都合。俺とパウル陛下が不仲であることは、城内で噂になっていました。もしも、パウル陛下の身に何かあれば俺は確実に容疑を掛けられていた筈です」
俺は頷き言葉を交わす。
「パウル陛下はブリギッタ殿下を守りたかったのだと思います。同腹の兄弟は特別な絆があるはずですから。勿論、母君も守りたかった。でも、若く困難に直面した陛下には、二人を同時に救うことは出来なかった。僻地の城で母君が亡くなった事は、パウル陛下にとっても予想外の出来事だったのかもしれません。権力を公爵から奪い返した後に、母君をお迎えするつもりだったのではないでしょうか?」
「俺も今はそう思います。実際に、パウル陛下は傀儡の王を脱する為の手段を講じていました」
「その手段とは?」
俺の問いに対して、ブリギッタ殿下とウルスラが真っ直ぐに見つめてきた。
「聖女召喚の儀です、セツ様」
「え、私?」
俺は思わず首を傾げた。
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