陰間の散花♂は大店の旦那に溺愛される【江戸風ファンタジー】

月歌(ツキウタ)

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弥太郎と左衛門

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◆◆◆◆◆

「うっ、んっ‥‥‥ぁ。」

弥太郎が散花の帯を解き始めると、陰間が少し艶っぽい声を洩らした。散花を見つめながら、左衛門は弥太郎に話しかける。

「弥太郎だったか?君が私の命令に黙って従うとは少し拍子抜けしたよ。弥太郎はこの水揚げに反対していると思ったが違うのかい?」

弥太郎は散花に視線を向けたまま、若旦那の問に応じる。

「俺は元陰間です。陰間の水揚げが稀なことで、ありがたい事だと承知しています。桔梗屋の若旦那が散花自身を想って懇ろになりたいと仰るなら‥‥手伝いは致します。」

弥太郎は寝床に横たわる散花から、鮮やかな手付きで帯を解いて抜き取った。振り袖の襟元がくたりと崩れて、襦袢姿の陰間が現れる。

「『散花自身を想って懇ろに』‥‥随分含みのある言い方をするね、弥太郎?」

弥太郎は左衛門の言葉には応じず別の事を聞いた。

「長襦袢の帯も解きますか?」
「いや、そのままでいい」
「承知しました」

弥太郎はそう答えると帯を畳んでその場で一礼する。しかし、衝立のそばに座り直すと動く様子がない。左衛門は散花を抱き寄せると、からかいを込めて弥太郎に問う。

「言動不一致とはこの事だな。私と散花が懇ろになる手伝いをするのではないのかい?そう不機嫌な顔でそばにいられては不快だ。なにか言いたいことがあるなら、はっきりと言ってはどうだ?」

若旦那の言葉に弥太郎は怯むことなく応じる。

「もしも、若旦那様が散花を『菊乃』として扱うならば、散花を担いででも蔦屋に連れて戻ります。俺は散花の幼馴染として、散花の事を散花として愛してくださる御仁と添い遂げて欲しいのです」

左衛門は弥太郎の言葉に目を丸くした。



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