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左衛門と弥太郎
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◆◆◆◆◆
弥太郎は左衛門と視線が合うと、しばらく見つめた後に頭を下げつつ口を開く。
「若旦那様、ご無礼をお許し下さい。桔梗屋の大旦那様が急なご用命で若旦那様をお呼びです。丁稚が迎えに来ておりますので、どうぞご準備をお願いします」
弥太郎の言葉に左衛門は独りごちる。
「父上に散花の水揚げの件が漏れたか。まあ、いずれバレることだから構わないが‥‥邪魔をされるのは困るな。」
弥太郎は左衛門の言葉に反応してピクリと眉をひそめる。その様子を見咎めた左衛門は、声を鋭くして弥太郎に問う。
「君は蔦屋の者かい?」
「左様です、若旦那様。弥太郎と申します‥‥お見知りおきを。」
左衛門は上半身を起こすと、簾衝立越しに弥太郎を見つめて応じる。
「蔦屋は仕えるものに礼節を教えていないとみえる。寝所の襖を返事も待たず開けるとは、無礼で無粋だ。そうは思わないかい、弥太郎?」
「申し訳ございません、若旦那様。」
弥太郎は素直に謝るもその瞳には苛立ちがみえる。左衛門はその理由に思いを巡らせつつ、弥太郎に向けて命じた。
「丁稚には待たずに店に帰る様に伝えてもらえるか?これが目覚めるまで床を共にするつもりだ。散花からまだ返事を貰っていないからね」
「散花は姉の死を知り動揺しています。咽び泣く声も聞こえました。その様に疲れた有り様では、まともな判断が出来るとは思えません。散花に水揚げ話をなさるのは、別日になさっては如何でしょうか?」
左衛門を少し目を細めて弥太郎を見つめる。そして、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「年増の陰間を水揚げしたいと申し出ている。これは散花にとっては願ってもない話のはず。今日でも後日でも別日でも、返事は変わらないと思うがね?」
左衛門の言葉に弥太郎は即座に応じる。
「散花はすでに親の借金を返し終えています。蔦屋の主からも、水揚げ話を受けるか断るかは、散花自身で決めて良いと言われてます。若旦那に水揚げされることが、全てに勝る事ではございません」
左衛門は弥太郎から散花に視線を移す。そして、散花の体にそっと触れた。まだよく眠っている。それを確認した左衛門は、散花に囁くように呟いた。
「ならば、散花が断れぬように‥‥懇ろにならねばならないね。弥太郎、座敷に入って襖を閉じなさい。」
「え?」
「散花が振り袖を着たまま眠ってしまった。帯が窮屈に見える。帯を解いてもらおうか、弥太郎?」
左衛門の挑発的な言葉に弥太郎は唇を噛みしめる。だが、弥太郎はすぐに座敷に上がると襖を閉めて、簾衝立を押しのけて中に入ってきた。
「散花‥‥」
弥太郎の言葉に散花は睫毛をピクリと震わせる。
◆◆◆◆◆
弥太郎は左衛門と視線が合うと、しばらく見つめた後に頭を下げつつ口を開く。
「若旦那様、ご無礼をお許し下さい。桔梗屋の大旦那様が急なご用命で若旦那様をお呼びです。丁稚が迎えに来ておりますので、どうぞご準備をお願いします」
弥太郎の言葉に左衛門は独りごちる。
「父上に散花の水揚げの件が漏れたか。まあ、いずれバレることだから構わないが‥‥邪魔をされるのは困るな。」
弥太郎は左衛門の言葉に反応してピクリと眉をひそめる。その様子を見咎めた左衛門は、声を鋭くして弥太郎に問う。
「君は蔦屋の者かい?」
「左様です、若旦那様。弥太郎と申します‥‥お見知りおきを。」
左衛門は上半身を起こすと、簾衝立越しに弥太郎を見つめて応じる。
「蔦屋は仕えるものに礼節を教えていないとみえる。寝所の襖を返事も待たず開けるとは、無礼で無粋だ。そうは思わないかい、弥太郎?」
「申し訳ございません、若旦那様。」
弥太郎は素直に謝るもその瞳には苛立ちがみえる。左衛門はその理由に思いを巡らせつつ、弥太郎に向けて命じた。
「丁稚には待たずに店に帰る様に伝えてもらえるか?これが目覚めるまで床を共にするつもりだ。散花からまだ返事を貰っていないからね」
「散花は姉の死を知り動揺しています。咽び泣く声も聞こえました。その様に疲れた有り様では、まともな判断が出来るとは思えません。散花に水揚げ話をなさるのは、別日になさっては如何でしょうか?」
左衛門を少し目を細めて弥太郎を見つめる。そして、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「年増の陰間を水揚げしたいと申し出ている。これは散花にとっては願ってもない話のはず。今日でも後日でも別日でも、返事は変わらないと思うがね?」
左衛門の言葉に弥太郎は即座に応じる。
「散花はすでに親の借金を返し終えています。蔦屋の主からも、水揚げ話を受けるか断るかは、散花自身で決めて良いと言われてます。若旦那に水揚げされることが、全てに勝る事ではございません」
左衛門は弥太郎から散花に視線を移す。そして、散花の体にそっと触れた。まだよく眠っている。それを確認した左衛門は、散花に囁くように呟いた。
「ならば、散花が断れぬように‥‥懇ろにならねばならないね。弥太郎、座敷に入って襖を閉じなさい。」
「え?」
「散花が振り袖を着たまま眠ってしまった。帯が窮屈に見える。帯を解いてもらおうか、弥太郎?」
左衛門の挑発的な言葉に弥太郎は唇を噛みしめる。だが、弥太郎はすぐに座敷に上がると襖を閉めて、簾衝立を押しのけて中に入ってきた。
「散花‥‥」
弥太郎の言葉に散花は睫毛をピクリと震わせる。
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