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弥太郎さん

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支度部屋では弥太郎が待っていた。散花は振り袖に着替えるために、着物を脱ぎ始める。

「弥太郎さん、着物着せて」

「おう、分かった。指名が入ったんか、散花?相手は喜助か?」

「‥‥‥‥」

弥太郎は散花に振り袖を着せて帯を綺麗に結い上げると、黙り込む相手の顔を覗き込む。そして、眉をひそめた。

「散花‥‥何で泣いてるんや?」
「お菊姉ちゃん、死んでたから‥‥」
「え?」

「お姉ちゃんが死んで、代わりに私が水揚げされるらしい。」

弥太郎は驚いて狼狽える。それでも濡れた散花の頬を手ぬぐいで拭い、化粧台の前に座る事を促す。

「俺にはよくわからんが、陰間はどんな時も客の前では綺麗にしとかな。化粧直しするで、散花」

「年増の陰間に化粧をしても似合わんよ。体つきも、もう完全に男やし‥‥」

「いや、どうかな?手足はスラッとしてるけど、体つきは女みたいに柔らかい。餅の食いすぎやろ」

「餅は好きやけど‥‥あーもう、阿呆らし。弥太郎さんに真面目に相談した私も阿呆やわ。化粧して、弥太郎さん」

「今してるやろ。紅を差すから唇を動かすな。よーし、じっとしてろよ」

白粉をはたいた後は紅を差す。弥太郎は器用に散花に化粧を施す。弥太郎は紅を差しながら呟く。

「料理屋には俺がついて行くわ。なんかあったら俺に声掛けろ。で、散花の水揚げを考えてるのは誰や?」

「桔梗屋の若旦那で‥」

「桔梗屋!?あかん!あの助平変態はあかん!俺が陰間時代にどんだけ肛門を弄られたか。危うく裂けて‥‥違う!散花、俺と夜逃げしよ!桔梗屋の旦那に囲われたら、お前は玩具にされる!」

弥太郎に腕を取られて迫られて、散花は思わず笑う。そして、弥太郎の頬に手を添えて口を開いた。

「桔梗屋の若旦那やから。名前は左衛門さえもんさん。大旦那には息子がいてはったんやね」

「あかん~~!助平変態の息子は助平変態に決まっとる!水揚げの件は断われ。意地でも断われ、散花!」

「えぇ~、あの‥‥はい」

弥太郎の勢いに圧されて、散花は思わず『はい』と返事をしてしまう。



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