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2. 桔梗屋の若旦那

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「水揚げですか?あの、何かの間違えではありませんか?私は年増の陰間『散る花』です。最近は指名も入らんので、そろそろ転業を考えているところで‥‥‥」

散花がしろともどろになりながらそう答えると、茶屋の旦那はにっこり笑って応じた。

「転業を考えてたなら、ちょうどええやないか。陰間の水揚げなんぞ滅多にないことや。散花は親の借金は払い終わっとるけど、蓄えはそないにないやろ?」

「はぁ‥‥蓄えはないです。なので、幇間ほうかんの仕事を旦那様に紹介してもらおうと思ってたところです」

「幇間は宴会の盛り上げ役やで?恥ずかしがりやの散花には無理やろ。裸踊り見せろと言われて、すぐに着物を脱げるか?」

「裸踊り‥‥」

散花は宴会で着物を脱ぎ散らす自身の姿を思い浮かべてた。そして、なんとも情けない表情を浮かべて首をふる。

「確かに私に幇間は向かんかもしれません。でも、私に水揚げの話があることが今だに信じられんのですが。私のご贔屓さんですか?」

散花はふと鳶職の喜助を思い浮かべる。喜助は『蕾める花』『盛りの花』『散る花』と、それぞれの散花を指名してくれる贔屓客だ。

「もしかして、喜助さん?」
「‥‥悪いが、違うお人や」

「あっ、そうですか!今の事は聞かんかった事にして下さい。お願いします」

散花は慌てて頭を下げる。余計なことを口走ったと後悔する散花に、茶屋の旦那は声を掛ける。

「お前を水揚げしたいと望んでるのは、桔梗屋ききょうやの若旦那や」

「ひっ!桔梗屋!?」

散花は膝をついたまま後退り、その場で畳に額を擦り付けて旦那に懇願する。

「桔梗屋の旦那だけは勘弁して下さい。あの人は助平な変態ですから!」



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