1 / 20
1. 陰間の散花さん
しおりを挟む
◆◆◆◆◆
陰間茶屋【蔦屋】の旦那に呼ばれて散花は座敷に向かった。十歳で親に売られて陰間茶屋に来た散花を、茶屋の旦那の伊右衛門が陰間に仕込んだ。
最初は恨みもしたが、今はそんな気持ちも湧かなくなった。でも、旦那の前に出ると散花はいつも緊張する。
「旦那さま、散花です」
「ああ、入っておいで」
「はい」
襖越しに会話を終えると座敷に入り、襖を閉じて旦那の前に座り頭を下げた。その様子を見ていた伊右衛門が、満足そうに言葉を発する。
「散花は礼儀正しいな。一緒に陰間になった弥太郎とは大違いや。陰間をやめた弥太郎を茶屋の回しとして雇ったのに、あいつは相変わらず態度がでかい。」
回しとは茶屋に売られた子供らを、陰間として客の前に出せるよう仕込む生業の事。繊細な気遣いを必要とする仕事と言える。
「弥太郎さんは陰間の間では人気がありますよ。元陰間だけのことはあり、きめ細かい気遣いがありがたいと評判です」
散花が顔を上げてそう言うと、茶屋の旦那は柔らかく笑った。
「相変わらず二人は仲良いな‥‥もしかして二人は閨を共にする仲なのかい?」
その言葉に散花は慌てて否定する。
「弥太郎さんと私はそんな関係と違います!旦那さんは意地悪です!」
散花の言葉に伊右衛門は鷹揚に笑う。
「そう怒るな、散花。そしたら、今は付き合ってる相手はおらんのやな?想い人もおらんのか?」
「そんな人‥‥いてません」
「そうか。それは良かった」
「‥‥‥?」
伊右衛門は安堵の表情を浮かべたが、すぐに表情を改めて散花に語りかける。
「散花、お前に水揚げの話がきてる」
「えっ!?」
散花は驚きの声を上げた。
◆◆◆◆◆
陰間茶屋【蔦屋】の旦那に呼ばれて散花は座敷に向かった。十歳で親に売られて陰間茶屋に来た散花を、茶屋の旦那の伊右衛門が陰間に仕込んだ。
最初は恨みもしたが、今はそんな気持ちも湧かなくなった。でも、旦那の前に出ると散花はいつも緊張する。
「旦那さま、散花です」
「ああ、入っておいで」
「はい」
襖越しに会話を終えると座敷に入り、襖を閉じて旦那の前に座り頭を下げた。その様子を見ていた伊右衛門が、満足そうに言葉を発する。
「散花は礼儀正しいな。一緒に陰間になった弥太郎とは大違いや。陰間をやめた弥太郎を茶屋の回しとして雇ったのに、あいつは相変わらず態度がでかい。」
回しとは茶屋に売られた子供らを、陰間として客の前に出せるよう仕込む生業の事。繊細な気遣いを必要とする仕事と言える。
「弥太郎さんは陰間の間では人気がありますよ。元陰間だけのことはあり、きめ細かい気遣いがありがたいと評判です」
散花が顔を上げてそう言うと、茶屋の旦那は柔らかく笑った。
「相変わらず二人は仲良いな‥‥もしかして二人は閨を共にする仲なのかい?」
その言葉に散花は慌てて否定する。
「弥太郎さんと私はそんな関係と違います!旦那さんは意地悪です!」
散花の言葉に伊右衛門は鷹揚に笑う。
「そう怒るな、散花。そしたら、今は付き合ってる相手はおらんのやな?想い人もおらんのか?」
「そんな人‥‥いてません」
「そうか。それは良かった」
「‥‥‥?」
伊右衛門は安堵の表情を浮かべたが、すぐに表情を改めて散花に語りかける。
「散花、お前に水揚げの話がきてる」
「えっ!?」
散花は驚きの声を上げた。
◆◆◆◆◆
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
42
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる