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第60話 石井さんの暴走
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清二さんから貰った大きな花束を胸に抱えながら、伍代さんからの厳しい尋問を受けていた。視野欠損の経緯と三原が知っていた理由を問われたので、まずは三原の件を説明した。
「『かさぶらんか』のモニタールームを初めて見学した時、ちょっと室内が暗かったんだよね。だから、照明を明るくしてもらう為に、三原に視野欠損がある事を説明したの。まあ、実際はモニタールーム位の明るさなら問題なく歩けたんだけど、不注意で僕が転んだものだから、余計に心配かけてしまって。三原は、優しい上に心配性だから、モニタールームや地下の風俗店に向かう階段を降りる時に、手を繋いでくれるようになったんだよ。三原の件はこれでいい?」
伍代は何故かスマホのメモ帳アプリに『三原、心配性エロ要注意』と書き込んでいる。いや、それ書く意味あるの、伍代?
「なるほど。三原が人目の無いところで、速水とイチャイチャしていたのはそのせいか。視野欠損の事実を逆手にとって、正当に速水とイチャイチャする機会を手に入れるとは・・三原は油断ならないな」
「伍代さん、誤解だから。三原とイチャイチャなんてしてないから!」
「よし、次は視野欠損の経緯だ。病気か?事故か?」
「あー、それ聞くの?」
「聞くに決まっているだろ?あ、まさかあの時か?『ムカデ男』が持ち込んだアナルスタンガンで、ボケた秋山に頭をポカポカ叩かれただろ。あれか、原因は?」
「思い出したくない記憶だ。でも、違うから」
「じゃあ、正直に答えろ」
「・・理由聞いても、引かないでよ?」
「心配しないで早く話せ、速水」
まだ、伍代の尋問は続くらしい。清二さんから貰った花束で顔を隠しながら、視野欠損の経緯を一気に話すことにした。いやー、まじ話したくないなぁ。
「柱にぶつけて、眼底出血して一部が視野欠損しました。眼科にちゃんと掛かって、視野検査も受けて欠損部分も把握しているし、日常生活に問題は感じていないから。ただ、モニタールームはまだ大丈夫だけど、風俗店に向かう階段は、若干足元が見えにくくて怖いなって感じるかな。でも、この視野欠損は進行はしないから、安心して」
「全然、安心できん。柱には自らぶつかったのか、誰かにぶつけられたのかが知りたい。経緯を正直に話せ」
僕は花束で顔を隠し目を閉じると、一気に過去の事を話し出した。相手は元『性奴隷』の伍代さんだ。多少、卑猥な話でも、僕の事を変な目で見る事は無いだろうから、大丈夫。
「原因は・・清一さんの『性奴隷』だった時に負った傷。その時期、僕は清一さん好みの『性奴隷』になるべく調教されていたんだ。清一さんは、僕のアナルの締まり具合を調整する為に専属医師を雇ってた。その医者は、清一さんの指示に従って、僕の肛門に注射を打ったり、器具を入れて肛門括約筋を鍛えさせたり色々してた。ただし、最終的に調整具合を確認するのは、清一さんの役目。僕を抱いて好みの締まり具合になっているかチェックして、また医師に指示を出すわけ。だけど、ある日・・その変態医師は清一さんとの決まりを破って、ペニスを取り出して、直接僕に挿入しようとしたんだ。慌てた僕は部屋を逃げ惑って、柱にぶつかって目を負傷。その時に眼底出血して、視野が少しかけた。清一さんに助けられて、変態医師を半殺しにするのをみた。それ以来、変態医師は見かけなくなった。処分されたのかも。これで満足した、伍代さん?」
話しながら自分の過去に嫌気がさして、僕は泣けてきた。閉じた眦から涙がポロリとポロリと零れ落ちて、僕の顔を隠す花束を雫が濡らした。
話し終えても、伍代からの返事がなかった。目の前の伍代から少し動揺している気配を感じた。もしかしたら、花束で隠した涙に気づかれたのかもしれない。最近の伍代さんは妙に心配性だからな。でも、僕の感情ばかりを気にしていると、必要な情報を何も聞き出せなくなってしまうよ、伍代さん?それじゃあ、護衛失格になっちゃうよ?僕と伍代さんは少し近づき過ぎたのかもしれないね。
伍代の動揺を感じつつも、僕は彼からの言葉を待っていた。でも、突然誰かがこちらに足早に近づく気配がしたので、顔を隠していた花束を下ろす。すると、石井が凶悪な顔でこちらに迫ってきていた。ぎょっとした僕だが、狙いは伍代だった。伍代の髪を無造作に掴むと、石井は店内から店外へ彼を無理矢理引きずりだした。伍代は防御の姿勢を取ろうとしたが間に合わなかった。
「おまえ、速水になに言わせとるんじゃ・・あぁっ!!」
石井がそう叫びながら放った膝蹴りが伍代の腹に食い込む。防御態勢を取れずに一撃をくらった伍代は、髪を掴まれたまま地面に座り込んだ。石井は座り込んだ伍代の鳩尾にさらに蹴りを食らわせた。石井が伍代の髪を離すと、伍代はそのまま地面に倒れ込んで、咳き込んだ後嘔吐した。それでも、石井は攻撃をやめようとはせず、蹴りを入れ続ける。
「伍代さん!!」
僕は慌てて店外に飛び出した。石井の背中からは恐ろしいほどの怒りを感じた。蹴られ続け地面に伏せていた伍代だが、僕の声に反応する。でも、彼の視線は僕を素通りして僕の背後に向けられた。振り返ると三原がいて、彼が僕の腕を掴んで店内に連れ戻そうとする。
「三原、どうして!!」
「伍代が、『お前を避難させろ』って、目線で俺に指示してきたからだ!店内に戻るぞ!!」
「違うよ!今の視線は、僕たちに助けを求める視線だろ!?」
僕は三原の手を振り払って、石井に駆け寄った。武器になるものは花束しかなかった。僕は、清二さんから貰ったばかりの花束を石井の背中にぶつけた。花びらが飛び散るが、何度も何度も石井の背中を花束で叩いた。
すると、石井は動きが止めてゆっくりと背後を振り返った。
僕は石井の眼光の鋭さに触れて、息も出来ず立ちつくしてしまった。そこに三原が駆け寄り、僕を背後に庇う。三原が傍に来てくれただけで、呼吸を取り戻すことが出来た。それでも、石井が怖くて涙がボロボロと出て止まらない。
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