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第56話 清一の遺言
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ベッドに寝転がったまま、僕は清二さんの顔を覗き込んでお願い事をする事にした。『内縁の妻』になったばかりで図々しいとは思うけど、仕方ない。
「あの、清二さん。少しいいですか?」
「なんだ?」
「伍代さんの事です。僕の護衛と世話係を兼務してくれていますが、彼は働き過ぎではないでしょうか?」
「伍代が、働きすぎ?いや、それはないだろ。あいつに限ってそれはない。」
「でも、最近の伍代さんは本当に様子がおかしいんです。女好きの伍代さんが、『かさぶらんか』のモニタールームで、男の人の喘ぎ声でオナニーしているんですよ!たぶん、忙しくて風俗店に通う時間がないのだと思います。従業員からも苦情が出ていて、正直困っています」
「伍代が男の喘ぎ声でオナニー」
急激に清二の顔が凶悪なものになる。思わず僕はビビってしまって少しどもり気味に言葉を続けた。
「お、女好きの伍代さんが、男でオナニーなんて相当に追い詰められてる証拠でしょ?伍代さんには護衛の仕事に専念してもらって、世話係は別の方にお願いしてもいいですか、清二さん?」
「確かに・・あの変態に速水の世話係を任せていた自分を罵りたい。あいつがあれほどの変態だと見抜けていれば、組員に拾い上げる事もなかったはずだ。だが、過去の事を嘆いても仕方ない。そうだな、速水の世話係か。うーん、『モグラ』にするか」
「モグラ?」
「元は潜入捜査官だと聞いているが、実際のところは良く分からん。お前は思い出したくも無いだろうが、『ムカデ男』の組織に潜って身バレしたらしい。『ムカデ男』に地下で拷問を受けて死に掛けてた『モグラ』を、兄貴が気紛れに拾ってきやがった」
「清一さんが?」
「『モグラ』は『ムカデ男』の地下で、ペニスを斬り落とされたらしい。兄貴は速水の身の周りの世話をさせるのに、『ペニスなし』がちょうどいいといって熱心に調教していた。調教がちょうど終わった頃に、その兄貴が死んじまった。今のところ、『もぐら』は組でただ飯食らってる状態で、組員からいい扱いはされてない。お前が嫌でなければそいつを付けるが、どうする?」
「いいよ。清二さんは、その人の境遇を変えてあげたいんだね。『モグラ』さんとは親しいの?」
「いや、親しくはない。ただ、お前に女の世話係を付けたくないからだ。兄貴の調教で『モグラ』は、医療の知識も身に付けているしな。どうする、『モグラ』でいいか?」
「・・女の世話係」
別に女の世話係が欲しかったわけでもないのに、僕は無意識に呟いてしまっていた。呟いてからその事に気が付いた。そして、何故か下半身が熱くなったような気がした。気のせいかもしれないけど。
「『モグラ』で決定だ、速水。『モグラ』にする!」
清二さんが何故か慌てた様子で、裸のままベッドから降りた。上着に入ったスマホを取り出すと、部下に『モグラ』をマンションに連れてくるように指示をだした。清二さんと部下の通話が途切れると、『女の世話係』が遠のいてしまったことに、何故か切なくなってしまった。またもや無意識に呟いてしまう。
「・・女の世話係」
僕は、突然清二さんに抱き上げられた。驚いて清二さんを見ると、必死の形相の清二さんと目が合いぎょっとした。その清二さんが、とんでもない早口で女性の扱いについて語りながら浴室に向かって突進していった。
「速水、女は非常に面倒な生き物であることを知らない。お前が女を相手にするには、まだまだ経験値が足りん。女に襲われて気が付けば童貞喪失なんてお前も嫌だろ?これから浴室に入りながら、俺がたっぷりと女の面倒なところを話してやるからな」
「え、あ。清二さんーーー!!」
◇◇◇◇
「んっ・・清二さん、自分でやるから・・あぁん!」
清二さんの指がアナルの中に挿入され、中を動き回っている。僕は我慢できず、思わずはしたない声を出してしまった。体内に放出した精液はどうなるのかと、清二さんに聞かれ正直に答えてしまった。まずかった。
「知らなかった。すまない、速水。精液を体内から掻き出す作業をしなければ腹を壊すとは、速水はなんて繊細なんだ。速水が何時も湯船に長く浸かっていたのは、作業をする為だったのか。自らの指をアナルに突き込み、トロトロの精液を湯の中に溶かす。俺はすぐにのぼせるから、さっさと湯船を出ていたが・・速水に、どれ程切ない思いをさせていたかを考えると胸が潰れそうだ!」
「清二さん、それ、言葉責めだから、やめてーーひはぁ、ぜ、前立腺にあったってるから、あぁあ!!」
背後から僕を抱きしめた清二は、僕の脚を大きく開かせて頑張って精液を掻き出そうとしているが、なんか全然出ていない気がする。それより、この格好はまずい。中心が熱くなっていく。
「せ、清二さん・・はぁ・・はぁ・・勃起してきました、すみません、ううう」
「流石に速水は若いな。どれどれ、俺の息子は・・・・」
「清二さん?」
「奇跡だ。速水の可愛らしさが、俺の息子に奇跡を起こした!」
「・・・・」
「挿入できる硬さに復活している。指抜くぞ、速水」
「ひぁ、んっ・・!」
清二さんの声は甘く低く浴室に響き、僕のペニスがぴくっと震えた気がした。なんか、凄い清二さんが色っぽい。あう。
「いいか・・挿入しても?」
「入れて欲しい」
真っ赤になりながらそう答えると、清二さんは少し笑って僕を少し抱き上げた。そして、僕のアナルにペニスを宛がう。力のこもった僕の太ももを優しく撫でながら、清二は背後から僕の体内にペニスを挿入した。ずぶりと体内に沈む清二のペニスの形を意識してしまって、体内がきゅってしまった。
「んっ・・はぁ・・はぁ・・、あ、清二さん・・・ぁんん!!」
「一回目より、アナルが緩んで・・はぁ・・挿入しやすかった・・だが・・」
「清二さん?」
「今、物凄く締め付けられて・・・いってしまった」
「あ、あ、今、清二さんのペニスの形を体内で感じて・・締めちゃった」
「また、精液を掻き出す必要が出来たな?」
「今度は僕が自分でするから、清二さんはさわらないでね?」
僕の言葉に清二さんがしょんぼりしたので、おかしくて笑い出してしまった。清二も同時に笑い出すと、挿入したペニスを抜きだし優しく僕を抱きしめた。
◇◇◇◇
寝室のソファーで濡れた髪を拭いていると、隣に座った清二さんが僕に話しかけてきた。
「速水を手に入れる為に、若い奴らが必死に上を目指して競い合ってる。近い将来、競い合いに勝った奴が速水の前に現れて、俺からお前を奪っていくはずだ。俺はまた『内縁の妻』を失うはめになるんだろうな。まあ、病魔に妻を奪われるよりはましだが」
「清二さん!」
僕は清二の言葉に驚き髪を拭く事をやめ、清二さんを真っ正面から見据えた。そして、彼に思いっきり抱きついた。こんな話は聞きたくない。
「清二さん、どうしてそんな事を言うの。愛しあったばかりで、どうして別れるような事を口にするの?僕に、満足できなかったから?それなら、はっきり言ってほしい・・僕はもっと、清二さんに尽くせるから」
清二は苦笑いを浮かべながら、僕を抱きしめ返してくれた。
「速水は、天然で可愛いこと言うからたまらん。もしそれが計算でもたまらん。とにかく、お前は可愛い」
「清二さん!」
「速水、現実を見ろ。竜一も竜二もお前に夢中だ。あいつらは確実に俺からお前を奪いにくるぞ。だが、どうせ奪われるなら、速水と相思相愛の奴であって欲しいと思っている。あるいは、相思相愛ではなくとも、お前を大切に扱う奴であって欲しい。だが、先の事は分からん。清一のような奴が突然速水の前に現れて、お前を『性奴隷』として囲う可能性だって否定できない」
「やだ、そんなの・・やだ」
僕は恐怖に襲われて体を震わせた。それに気が付いた清二が、僕の背中を撫でる。僕はゆっくりと息を吐き出しながら、清二さんの言葉を待った。
「速水、お前は俺と初めて対面した日の事を覚えているか?」
「うん、覚えているよ」
「俺は、その日にお前を抱いて『愛人』にした。お前を『愛人』とする理由として、俺は兄貴の遺言を持ちだした。『病床の兄貴から頼まれたんだよ、速水を守ってくれって。くそ兄貴の遺言を俺に反故にしろって言うのか?』たしか、そう言ったはずだ」
「うん、覚えてる。でも、清二さんが僕を抱いて『愛人』にした本当の理由は、竜一さんや竜二さんから僕を引き離す事だったんだよね?清一さんの遺言は関係ないって、清二さん自身が寝室で話していたよ?」
清二さんは僕の背中を優しく撫で、抱きしめたまま僅かに笑った。
「よく覚えているな、速水は。確かにお前を『愛人』にした理由は、竜一や竜二からお前を引き離す為だった。あの時の俺にとって、お前は清一の『性奴隷』でしかなく穢れた存在だと思っていたからな。勿論、今は違うぞ」
「うん、わかってる。ちゃんと清二さんの愛情を感じているよ?」
「そう聞いて、安心した」
「でも、以前から清一さんの遺言に関しては違和感は感じていたんだよね。『速水を守ってくれ』なんて遺言、清一さんは絶対に残さない気がする」
「本当に鋭いな、お前は。実際、あの時、お前と竜一に伝えた兄貴の遺言の内容はでたらめだったからな」
「やっぱり!じゃあ、清一さんは清二さんに遺言を残さなかったんだね」
「そうじゃない。清一はお前に関する遺言を俺に残した」
不意に、清一さんの気配を感じた気がして体が震え出した。僕は清二さんにぎゅっと抱き付き、その気配をやり過ごした。
「清一さんの・・遺言の内容は?」
「『誠に執着するあまり、約束を果たすことなく先に死ぬ事になってしまった。清二、お前に頼みたい。誠から好きな山を聞き出したら、楽な方法で殺してやってくれ。そして、その山に埋めてやってくれ』」
「ああ・・ああ、清一さん・・」
「速水、どうしても兄貴の遺言が必要だと感じたら俺に言え。どこにいようとも、お前を殺して山に埋めてやる」
「清二さん。僕はもう、囲われの『性奴隷』には戻りたくない」
「ああ。そうだな、速水。お前がそうなる前に・・俺が殺してやるから安心しろ」
僕は清二さんに抱き付き泣き出していた。
渦巻く様々な感情が僕を支配していた。清一さんが僕を愛していたかなんてわからない。今でも憎しみは消えない。それでも、僕の過去の多くを清一さんが占めている。
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