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第51話 速水のメッセージカード
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『かさぶらんか』周辺の見回りを終えて店内に戻ると、花に囲まれた弟分の速水が『尻』の話に夢中になっていた。
中々に倒錯的光景に若干の興奮を覚えたが、護衛としては従業員の三原と秋山の様子が気になる。『ムカデ男』の災難を共に経験し、仲間意識が高まったのだろうが速水に構いすぎだ。
三原は速水と二人きりになると、俺の弟分に馴れ馴れしい態度を取る。秋山に至っては、無意識に速水の尻を目で追っている。速水の護衛としては、早々に奴らを始末したいところだ。
「ねえ、伍代さん・・顔が凶悪になってるけど、どうしたの?」
「えー、凶悪な顔だなんて酷いなぁ?それより、速水さんは俺に相談があるんでしょ?」
「うーん、あのね・・清二さんは、今忙しいのかな?」
「青山組の組長ですから、そりゃ何時だって忙しいでしょうね。でもまあ、竜一さんが組長代理をする事も多くなったので、少しはプライベートな時間を取りやすくなったんじゃないですか?」
俺がそう答えると、速水は少し俯いてグズグズと考え事を始めたようだ。うん、イライラする。
「速水さん、俺は護衛ではなく兄貴分として相談に乗ります。ですが、気が短いので一秒以内に相談内容を述べてください」
「清二さんと、セックスしていません!!」
「うん?」
「だから・・竜二さんとセックスして以来、清二さんが僕の元を訪れなくなったの!これって『愛人』の座の危機だと思う、伍代さん?」
「そんなこと、俺に分かるわけないでしょ?」
「兄貴分なのに、相談に乗る気ないじゃないかー!」
速水が逆ギレした。いや、それって護衛に相談することじゃねーし。とはいえ、組長から兄のように速水に接しろと命じているだけに仕方がない。
「あー、速水さん。そんなに、清二さんとセックスしたいなら、自分から誘えばいいんじゃないですか?」
「うーん。セックスしたいというより、自分の立ち位置を確認したくて清二さんに会いたいんだ」
「自分の立ち位置ですか?速水さんは、組長の『愛人』以外の何ものでもありませんよ。それ以外に、何かあります?『かさぶらんか』のオーナーでいられるのも、組長の援助あってのものです。花束作りもくそ下手ですし」
俺の正しい指摘に、何故だか速水は不満げな表情で俺を睨んできた。生意気だ、俺の弟分のくせに。
「伍代さん、僕が『愛人』以外に才能なしみたいな言い方やめてよ。花束だって、少しは上達してきたんだから」
「あのキモイ花束で上達したと感じている速水さんが、少し気の毒になってきました。まあ、『愛人』の才能があってよかったじゃないですか、速水さん?」
「もういいです、本題に入ります。伍代さんは、竜二さんの風俗店管理の後任に就任した人をご存じですか?」
俺は速水の言葉からその人物の顔と経歴を思い出して口を開いた。
「ああ、石井大河か。竜二さんと入れ替わりに、神戸の上部組織から出向してきた人ですね。当初は、青山組を監視する為に上層部から送り込まれたと噂されてましたけど、普通に風俗管理に専念してるみたいですよ?何か問題がありましたか?」
「『かさぶらんか』は風俗店も経営しているから、仕事上でメッセージのやり取りをしていたんだけど、最近はプライベートなメッセージが入りだして、どうしたものかと・・」
何だそれは。それって、めちゃくちゃ護衛の仕事に関わってるじゃねーか。俺はそのプライベートメッセージを速水に見せてもらった。
「『速水は組長に捨てられた』と噂が流れていますが、大丈夫ですか?このまま噂が広まると『かさぶらんか』や貴方に嫌がらせが始まるかもしれません。お困りの際には、俺を頼ってください』なんですか、このメッセージは、速水さん!!」
「いや、僕に怒らないでよ。清二さんが僕を捨てるつもりなら対策を考えないと駄目でしょ?でも、清二さんが僕を訪ねてくれないから、僕の事をどう思っているのかもわからなくて・・」
「馬鹿ですか。そんな心配をするなら、自分から清二さんを誘えばいいでしょ。速水さんは『愛人』なんだから、連絡して『会いたい』って伝えれば、事は済むでしょ?」
そう俺が言うと、速水はまたもや俯いた。いや、そこはグズグズ考えても仕方ないでしょ。何を迷う、弟分よ。それにしても、速水が組長から捨てられるなんて噂は聞いていない。そんな噂が水面下で流れているのか?それとも、石井大河が速水を誘う為に嘘をついたのか?どちらとも判断できないな。
くそ、竜二が去ったってのに、また変なのがこの街にやってきたよ。この街は変態の巣窟なのか?まともなのは、俺だけじゃねー?速水も相当おかしいやつだしな。俺が護衛として守ってやらないと。仕方ない、アイデアを出すか。
「速水さん、組長にメッセージカード入りのお花を送ってはどうですか?組長の好みの女は慎ましく、大人しい女です。積極的に迫るよりも、そちらの方が効果があるかもしれませんよ?」
俺の発言に速水が驚きの表情を浮かべ呟いた。
「伍代さんが、まともな発言してる・・・怖い」
「怒りますよ、速水さん」
「わ、ごめんなさい。でも、いいアイデアありがとうございます!!」
「あ、花束は貴方は作らず三原が作った売り物を使いましょう。メッセージは速水さんが自由に書いてください」
「え、三原が作ったものを渡すの?なんか、騙しているみたいじゃない?」
「速水さんがノリノリで作るとゴミのような花束が出来ますから、組長に届く前に捨てられると思いますよ」
「泣きたい。花屋のオーナーなのに」
「花束は俺が組長好みのものを選びますから、メッセージをレジカウンターで書いていてください」
「分かった。綺麗な花束を選んでね。あ、でも三原の作った花束は全部綺麗だけど」
まあ、速水のものに比べればすべてが美しい。速水のグロテスクな色彩の花束を贈られては、流石の組長も呪われたと思って焼き捨てる可能性も否定できない。俺は適当に花束を選び、真剣にメッセージを描いている速水の手元を覗き込んだ。
速水がアナルを描き込んでいた。
速水が、大胆過ぎてびびった。これは、慎ましい『愛人』のメッセージとは言えないのではないか?いや・・速水の事だ。とんでもなく、ハイセンスなイラストを描いている可能性は否定できない。俺の弟分は不思議ちゃん。
「速水さん、これは何の絵ですか」
「向日葵です」
「そ、そうですか・・・」
「向日葵ですよ。文句でもあります、伍代さん!」
何故か、速水の目が据わっている。もしや、他人にも『アナル向日葵』と散々指摘されたのかもしれない。それにも関わらず向日葵を描き込む速水は、称えるべき精神の持ち主かもしれない。しかし、このままでは卑猥すぎる。卑猥すぎるが中々、俺の好みのイラストだ。更なる、革新的な芸術を完成させたい。
「速水さん、素晴らしい芸術を感じます。ですが、残念ながら組長は芸術を理解していません。向日葵の下には『ひまわりのイラスト』と書き込んでおきましょう。それから、向日葵だけでは寂しいので、その横のあたりにトウモロコシのイラストも描きましょう」
「トウモロコシ?まあ、いいけど・・描けるかな?」
速水がペニスを描き込んだ。
「す、素晴らしい!!」
「本当、伍代さん?褒められたの、初めてだ!」
アナルにペニスが挿入される寸前のイラストが出来上がった。しかも、『トウモロコシペニス』は絶品だ。きゅうりか、なすびか、フランクフルトにするか迷ったがトウモロコシが最高だ。このイラストだけで、オナニーできそうだ。こんな才能が速水にあったとは意外だ。
「では、さっそくこれを組長に送りましょう。きっと速水さんに精神状態の確認の連絡がありますよ」
「なんで、精神状態確認の連絡なの、伍代さん?」
「いえいえ、言い間違えただけです。下っ端護衛が『かさぶらんか』の周りにはたくさんいますので、彼らの誰かに青山の屋敷にさっそく届けてもらいますね。速水さんはどうされます?一緒に来ますか?」
「僕は店番あるから・・すぐに帰ってきてね、伍代さん」
「・・・・」
「伍代さん?」
「速水さんの護衛ですから、すぐ戻ります」
俺は急いで、下っ端護衛に卑猥なメッセージカード入りの花束を託し、『かさぶらんか』に踵を返す。店内に人の気配があった。客だとは思うが俺は慌てて『かさぶらんか』に引き返した。店内に入ると客は二人だと分かった。しかも、歓迎すべき相手ではなかった。
「あ、伍代さん・・」
速水が震えた声で俺を呼ぶ。客の一人が速水の手を掴んでいた。俺が男の背後に近づこうとすると、もう一人の男が、速水の手を掴む男を庇うように立ちふさがった。
「これは、これは。何時も『かさぶらんか』を御贔屓にしていただきありがとうございます。西成東警察署の後藤署長、それと小林刑事でしたね。ところで、ここは花街ではなく、花屋ですよ?速水は花ではないので、手を離していただけませんかねー?」
「速水さんを一人で店番をさせるのは危険ではありませんか、護衛さん?元花街のここでは、速水さんのような可愛らしい男性も、性の対象とされますからね。伍代さんの父親である、青山清一のような性癖の方も多いですからね」
後藤署長が俺を挑発してきた。こいつ、まじムカつく。
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