性奴隷は泣かない〜現代ファンタジーBL〜

月歌(ツキウタ)

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第48話 伍代と竜一

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◆◆◆◆◆◆


俺は、速水が嫌いだ。

「くそ、竜一さんと取っ組み合いしている内に、寝室の鍵が閉められたじゃないですか。酷くないですかー、組長。俺は速水の護衛ですよ?寝室に入る権利はあると思うんですよね。なのに締め出すとか、ムカつくんですけど」
「いい加減に諦めろ、伍代」
「竜一さん。俺に制圧されてる時点で、その台詞になんの説得力もないって分かってます?」

この街では、不幸な境遇で育った奴なんて珍しくもない。速水も、その一人だと俺も認めている。だが、何時までも不幸な過去に囚われて抜け出せないあいつを見るとイライラする。

「ところで、竜一さん。なんで、右手を怪我しているんですー?」
「お前には関係ない」
「いや、関係あるでしょ?もしかして、速水に反撃されました?俺が寝室から追い出された直後から、速水の泣き喚く声が聞こえなくなりましたよね。もしかして、あいつの口に布でも突っ込んで黙らせました?」
「そんな訳ないだろ!!速水は、今は正気に戻っている。ちゃんと状況を説明するから、俺の拘束を解け」
「いや、無理です。抵抗はやめてくださいね、竜一さん。俺の寝技はねちっこいから、簡単には抜けられません」

護衛の仕事に就くにあたり柔道を習った。俺のやくざな師匠は、寝技で相手を失神させる事が大好物な奴だった。抵抗するほど、ねちっこく寝技がきまる。しかも、やくざな師匠は寝技で勃起する変態野郎だった。思い出すと、吐き気がするからやめよう。

「どうして、組長は・・俺を寝室から追い出したんですかねぇ?」
「お前が冷静さを失っていると、叔父は判断した。実際・・お前は冷静さを失っている」
「違う。俺は冷静だ。冷静さを失っていたのはあんたらだ。俺がいると都合の悪いことを、あんたらは速水にしたんでしょ、寝室で?」
「何が言いたい?」
「レイプされた速水を『慰める』とかなんとか理屈を付けて、二人で速水を弄んだんじゃないですか?やくざは卑劣ですからね。結局、速水はあんたらにとって『性奴隷』でしかないんでしょ?あいつが声をあげられない様に口に布突っ込んで、下からもペニスを突っ込んで楽しんだんでしょ?楽しかったですか、竜一さん?」
「伍代。やくざを卑劣と呼ぶお前も青山組のやくざだろうが・・そんなゲスな想像しかできない奴とは会話もしたくない!!」

突然、竜一が寝技を抜け出そうとした。どうやら竜一も柔道を習っていたようだが、正統派すぎる。やくざな師匠直伝の、変態寝技から抜け出せると思うな。と、思っていたが、正統派の方が優勢になってきた。まじか。

「・・はぁ・・はぁ・・」
「やべっ・・くそ、逃すか!!」

俺は竜一が寝技返しを掛けようとして右の掌が開いたことを見逃さなかった。その腕をがっちりつかむと掌の傷に思いっきり爪を立てて内部を抉った。

「ぐはぁ!!」
「うおっ、気持ち悪い。血が噴き出てきた!」
「やめろ・・伍代・・くそ!」
「ねえ、どうして傷を負ったのか教えてくださいよ?」
「ぐっ!!」

俺は傷を何度も抉って竜一に聞くと、竜一は寝技返しで抵抗する事をやめた。それでも、俺を睨みつけている。俺も竜一を睨み返していた。竜一は俺を睨んだまま口を開いた。

「速水がナイフで自殺を図った。俺はナイフの刃を掴んで怪我を負った」
「自殺を図った・・速水が・・」

俺は急激に力が抜けるのを感じていた。その隙を竜一は逃さなかった。俺の寝技を返すと、拘束から抜け出す。だが、もう俺は竜一を追う気にはなれなかった。俺は寝室の扉を見つめながら、呟いていた。

「速水は無事なのか?」
「ああ無事だ」
「竜一さん。あんたバカでしょ?どういう状況か分からないけど、ナイフの刃を掴んでもナイフの勢いは簡単には止められない。あんたの肌を切り裂いたまま、速水の肌を傷つけてもおかしくなかった」
「無意識に刃を掴んでたんだから、仕方ないだろ。それより、伍代・・状況を説明するから、俺の掌の傷を治療してくれ。治療する気が無いなら、速水の様子は教えない」
「俺は別に速水の事なんて興味ないですけど」

「だったら、自分で治療する。お前に用はない、伍代。俺は以前から、お前は速水の護衛として相応しくないと思っていた。あいつへの気遣いが、感じられなかったからな。速水に興味が無いのなら、それも当然だ。叔父に別の護衛を付けるように進言しておく。お前は帰っていいぞ、伍代」

竜一が掌から血をぼたぼた流しながら、冷え冷えとした声でそう言った。俺は思わずぞくりとして竜一を見つめた。やくざとしては優しすぎる竜一だが、その体内に流れる血脈に親父である清一の匂いを嗅ぎ取った気がした。

速水を手放さない為に、必死に人を殺しまくった親父。その遺体の処理を、清一の息子である俺は知らぬ間にいくつか受け持っていたかもしれない。俺の異母兄弟の竜一は、不器用な清一と同じく、不器用に速水を愛している。俺は奇妙な血の繋がりに吐き気と倒錯した興奮を覚えた。

「この部屋は速水さんと組長の愛の巣ですからねー、竜一さんの血で穢されると困ります。俺が治療しますよ。竜一さんは、ソファーに座っていてください」
「伍代・・お前が、素直だと不気味さしか感じないな」
「何ですかーそれは。せっかく治療する気になったのに酷いですね。でも、速水の状況についてはきっちり説明を求めますよ?護衛として、必要な情報ですから」
「ああ、話してやるさ」

俺は医療キットを用意すると、竜一の掌の治療を始めた。かなり深い傷だ。これは傷痕が残るな。上手く治療しないと、再生した皮膚が引き攣って多少の後遺症が残るかもしれない。

「竜一さん。これは医師の治療が必要ですね。応急処置はしますが、すぐに専門医の治療を受けてください。傷痕は残るでしょうが、きっちり治療すれば後遺症は減らせるはずですから」
「分かった。応急処置だけでもありがたい」
「それで、速水が自殺を図る状態に陥った状況を教えてください、竜一さん」

俺は竜一の掌の傷を治療しながら、質問した。俺の質問に、竜一はすぐには答えない。俺は竜一の傷口に医療用ピンセットを食い込ませた。

「ぐおっ・・てめ・・伍代!」
「いやぁー、申し訳ございません。手が滑りました。んー、今日は手が震えるなぁ。緊張してるのかな??」
「お前の言い訳を聞くだけで腹が立つな。今、どう話すか考えていたとこだ。少し待て」
「待てませーん」

俺はもう一度医療用ピンセットを傷口に食い込ませた。なんだか、楽しいんだけど・・この行為に嵌りそうだ。

「伍代、この変態が!!まて、傷口を抉るなっ・・ぐぁ・・くそ!!何なんだよ、お前は!!」
「俺は皆さんと違って、速水の事が大っ嫌いです。ですが、組長から兄弟の様に接しろと命令されています。組長の命令は絶対です。俺は速水に兄の様に接する必要があります。で、もう一回抉ります?」

竜一は俺の顔をじろじろ見ていたが、深くため息を付いて口を開いた。

「伍代、お前は速水の事を大っ嫌いなままでいてくれ。こんな変態が速水のストーカーになることは考えるだけで恐ろしい」
「速水のストーカーとか有り得ないです、竜一さん」

「それは、安心した。その速水だが、竜二にセックスドラックと睡眠薬を飲まされていた。速水は、意識はあったが満足に動けない状態でレイプされた。速水は竜二とのセックスで今までにないほどの快感と興奮を得たそうだ。速水は、抵抗も出来ずレイプされたにも関わらず、怒ってもいなかった。『性奴隷』の自分には相応しい扱いだと思ったそうだ」

俺は思わず深くため息を付いた。速水は相変わらず、自分の事を『性奴隷』と捉えているようだ。清一は速水を『性奴隷』とする為に、どれだけ時間と金を掛けて調教したんだか。異常すぎる執着・・清一が気持ち悪すぎる。

「速水は意外なほど冷静に、自分の事を理解していますね。その状態で、自殺を図るとは思えないな?それなのに、組長や竜一さんの前で自殺を図ったのは・・もしかして、同情を買う為の演技じゃないですか?」
「そうだったなら良かったんだがな。速水が冷静さを取り戻したのは、解離状態が解けた後だ。あいつが自殺を図ったのは・・解離状態の最中だった」
「解離状態・・?あの『ムカデ男』に襲われた時みたいになったってことですか。切っ掛けは何ですか?」
「セックスドラックの影響だろうな。竜二とのセックスで過剰な幸せを味わったらしい。だが、クスリが抜けるにつれて、不安と恐怖が襲ってきたそうだ。その不安と恐怖にあいつは耐えられなかった。解離状態になって、あいつは親父の囲われものだった過去の自分に囚われた」
「それで?」
「俺はあいつに水を与える為に、清一のふりをして速水と会話した。いや、それだけじゃないな。俺は解離状態の速水と会話して、あいつを清一の囲いから連れ出したかった。だが、それが間違いだったのかもしれない。俺は、速水に『清一は死んで土の中にいる』事を教え込もうとした」

俺は竜一の治療をようやく終えて、医療キッドを片付けはじめる。まあ、かなり雑な治療になったが、後で医者にかかるなら問題ないだろう。それよりも、速水の話に集中したかった。

「はい、応急処置は終えましたよ。まじで、医者に掛かってくださいよ、竜一さん」
「ああ、悪いな」
「で、解離状態の速水は『清一』の死をどう受け止めました。喜んでました?それとも、悲しんでました?」
「俺は言葉選びを間違った。速水は、親父に犯されながら『土に埋めてくれ』と何時も懇願していた。その言葉が、俺の脳裏にこびり付いていたのか、『清一は死んで土の中にいる』と速水に言ってしまった。あいつは『土の中』という言葉に異常に反応して、俺に抱きつき俺を押し倒した。そして、俺に・・清一に『土の中に連れて帰って』と懇願した」

俺は思わず寝室の扉に視線を向けてしまった。つられたのか、竜一も寝室に視線を向ける。

「倒れ込んだ時に、俺が速水にあげた瑠璃色のペンがあいつの胸のポケットから転がり落ちた。俺よりも先にあいつはペンを手にした。速水は微笑みながらペンをナイフに切り替えて、それで自身の首に刺そうとした。あいつは『死にたい』と言っていた。俺は速水の微笑に魅入られていた。気が付くとナイフの刃を握ってた。で、俺が速水に愛情込めて語りかけたら、あいつは俺の存在に気が付いてくれた。正気に戻ってくれた。どう思う、伍代?」

俺は竜一の顔をまじまじと見ながら、治療の終わった手の平に思いっきりピンセットを突き込んだ。

「うごっ!!」
「何が『どう思う、伍代?』ですか!速水にプレゼントした瑠璃色のペンで傷を負うって・・馬鹿ですか?しかも、最期まで聞いてやったのに、惚気じゃないですか!まあ、とにかく、速水に潜在的に自殺願望があることはわかりました。護衛として・・兄貴分として接して速水を守りますよ。あんたらに任せてたら、絶対速水が早死にしそうですからね。俺も嫌々ながら協力します。この返事で満足しましたか、竜一さん?」

竜一は俺の言葉に鮮やかに笑って立ち上がると、俺に告げてきた。

「速水の護衛を頼む、伍代。俺は今から竜二に制裁を加えてくる」
「お気を付けて」


兄弟げんかなら勝手にどうぞ。俺の役目は、速水の護衛ですから。



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