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第42話 竜二と速水
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「竜二さんも、このマンションに部屋を持っていたんだ。やっぱり、このマンション・・青山組の関係者しかいないのかな?」
「そうでもないぞ。下層部は、一般人も多く住んでいる。上層部に行くと、組関係の人間が増えるな。そういえば、この階には、新しい叔父の愛人が入居してきたぞ」
「知ってる。清二さんが、綺麗で大人しい人だとべた褒めしてたもの」
「・・・嫉妬とかしないのかよ?」
「どうして、嫉妬する必要があるの?」
速水は、飲みかけのコーヒーカップをテーブルに置くと、ソファーにコロンと寝転がった。そして、天井を見上げている。何とも無防備すぎる姿を俺の前で晒している。俺が速水に気があることは、本人も気が付いているはずなのに・・これは、誘っているのか?
「ねえ。竜一さんとの仲が悪化してるって耳にしたけど・・本当?」
「・・竜一の名は、今は聞きたくない」
「どうして?」
速水はソファーに寝転がったまま向きを変えたて、俺に視線を向けてきた。その視線が本当に俺を心配している事が分かり、俺はつまらない愚痴を速水に吐露していた。
「兄弟関係が悪化している訳じゃない。俺がただ嫉妬してるだけだ。兄貴が青山組の組長として着々と足元を固めているのに、俺は未だに風俗店を管理するだけのチンピラだ。昔から、兄貴と比べられて育ってきたが、いよいよその差が大きくなってきた。おまけに、組長になる理由が、俺から速水を守る為とか・・・なんだよそれ?」
速水は俺の話に不思議そうな顔をする。その表情もまた可愛い。襲ってほしいのか、そうなのか、速水??
「・・その話、誰に聞いたの?」
「伍代だ。あいつは、もうすぐお前の護衛として復帰するらしい。随分喜んでいたぞ。今の仕事が、どうにも性に合わないらしくてな。相方が最悪な趣味の持ち主らしい」
「そっか、『マムシドリンク事件』のお咎めが終わったんだ。良かった・・今の護衛の人には、不満があったんだよね。伍代さんの性格に難があるけど、戻ってくるなら嬉しい」
俺は速水を見つめたまま口を開いた。
「今の護衛にどんな不満があるんだ?真面目に働いているようだが」
「おー、竜二さんを騙せてるなら、なかなかのやり手だ。でもね、今の護衛さんは、僕の事を『性奴隷』だって見下してくるんだよね。時々、護衛するふりをしてお尻触ったりしてさ『嬉しいんだろ、性奴隷が』とかって言ってくるんだ。でもって、今日みたいな肝心な時にいないしね。多分パチンコに行っているんだよ」
「何だ、そいつは。全然、護衛役になってないじゃねーか?叔父には、その事を訴えたのか?」
そこで速水が意地悪そうな顔をして、俺に笑いかけてきた。
「言ってないよ。だって、清二さんは、そういう人間だって分かっていてわざと僕の護衛にしたのだもの。伍代さんが戻った時に、彼の事を慕うように仕向けたかったみたい。でも、予想外に馬鹿な護衛だったから・・今度は、僕からあいつを外してって頼んでくるのを清二さんは待っているみたいだよ。言わないけどね」
「意地悪だな、速水は。だが、その護衛は俺が処分する。構わないだろ?」
「えー、処分って言葉怖いな。殴るだけにしてね」
「ああ、そうする」
速水が不意にソファーから身をおこして、真剣な顔で俺に話しかけてきた。
「ねえ、竜一さんと仲違いするのはやめてね?」
俺は思わず顔を顰めていた。会話が一回転してまた、竜一の話題に戻ってきた。速水は真剣な顔で語りかけてきた。
「竜一さんや竜二さんと性的関係を持つのはやめろって、清二さんに言われているから。僕は清二さんの愛人だし、当然だけど・・二人とは関係を持つつもりはないからね。だから、兄弟で仲違いはしないでね」
「伍代にも、兄貴にも忠告された。だが、叔父はどうしてそこまで、俺たち兄弟をお前から引き剥がしたがる?」
「そんなの決まってるでしょ。僕が、清一さんの穢れた『性玩具』だったからだよ」
「速水!!」
俺は思わず速水に近づいて、そのほっそりとした肩を両腕で掴んだ。速水がびくりと震えるのが分かった。俺はそれでも、速水の拘束を解こうとはしなかった。
「竜二さん、もう・・僕の事は諦めて」
「何を言い出す?」
「竜二さんは、あの青山の屋敷の中で・・唯一、最初から僕に好意を抱いてくれていたよね。組長を穢す『性奴隷』の僕を皆は軽蔑してた。竜一さんでさえ、最初は僕を軽蔑してた。なのに・・竜二さんは最初から僕に好意的だった。嬉しかったよ。とても嬉しかった。僕も、竜二さんに好意を抱いているよ」
「なら、どうして、俺に諦めろなんて言う!!」
速水は俺の腕の拘束を振りほどき、すっと立ち上がった。そして、膝をついたままの俺に向かってはっきりと言い放った。
「だって、僕はもう囲われるのは嫌なんだ!!『性奴隷』としては、竜二さんは僕を囲わないでしょ?でもね、やっぱり、囲われると・・それは『性奴隷』で『性玩具』でしかないんだよ。もう僕を閉じ込めないで。清一さんは死んだ。やっと囲いから放たれたのに、もう囲われるのはごめんだ・・嫌なんだ、本当に・・」
俺は思わず唇を噛みしめて速水を見た。速水の瞳は虚ろで輝きがない。父親の『清一』の名前を口にするだけで、何時もこんな瞳をして上の空になる。分っているのか?お前はちっとも自由になっていない。未だに、親父の囲いから抜け出せずにいるじゃないか。
だから俺は・・お前を囲いたいんだ。親父の囲いから解き放つために。
「叔父だって、お前を愛人として囲っている」
「清二さんの囲いは、今にも壊れそうなほどの脆い囲いだよ。何時壊れるか、僕が心配するくらいにね。でも、竜二さんの囲いはとても頑丈そうだ」
「ああ、俺の囲いは頑丈だ。お前には頑丈な囲いが必要だとそろそろ分かれ、速水」
「竜二さん、それはどういう意味」
「お前は、あまりに長い時間を囲の中で過ごした。親父はその囲いの中で、お前を犯し弄んだ。お前には苦痛が日常だったはずだ。でも、いざその囲いがなくなったらどうだ?お前は、未だに恐怖を感じると退行して親父の・・『清一』の名を呼んで、その懐に入ろうとする。責苦を与えた人間に頼ろうとする。退行するその姿を見るたびに、俺がどんな思いをしているか分かっているのか、速水!!」
速水は、俺に向かって叫び出した。
「僕の精神にまで立ち入らないで。僕はもう清一さんの事は吹っ切れている」
「全然、吹っ切れていないから、俺は心配しているんだ。このままじゃ、お前は一生親父の囲いの中だ」
「黙れ!!」
速水が興奮して、身を震わせていた。その瞳は行き場を失った子供の様に、不安定に揺れていた。
「俺は、お前を囲う。頑丈な愛情の囲いだ。そこに『清一』の入り込む隙は無い。親父を取り除くためにも、俺はお前を囲う。その必要があるからだ。お前が解離状態を起こして『清一』を呼ぶ限りは、お前には、頑丈な囲いが必要だ。叔父にも、竜一にも、頑丈な囲いは作れない。心底お前に惚れているのは、俺だけだからだ。理解しろ、速水!!」
俺の語気に押されたのか、速水は一歩後ろに下がった。俺にはその行為が切なくも許せなかった。俺から逃げ出す速水を、早く囲いの中に入れなければ、俺は確実にこいつを失う。兄貴は・・竜一は、こいつの望む緩い囲いで速水を包み込むだろう。だが、それではこいつは救われない。こいつには、愛情の囲いでがんじがらめにしないと、親父の囲いから解放されない。
「速水・・俺はお前に惚れてる」
「竜二さん、どうしたの・・なんか、変だよ?」
兄貴が青山組の組長になってからでは遅い。速水に分からせないと。速水を本気で愛しているのは俺だけだと。その体に分からせないと、囲いの布石も打てない。
「速水、お前も俺を愛しているだろ?」
「好意と愛が違う事ぐらい・・分かるでしょ、竜二さん」
「ああ、そうだな。だが、愛情が後から芽生える事も知っている。親父は・・清一は、『性奴隷』のお前に惚れてた。最初は遊びだったのにな。最後は本気で惚れてた。それでも、最期までお前に対して『性奴隷』として接する事しか出来なかった。親父は、本当に悲惨だった。だが、俺は最初からお前の事を愛している。お前も、俺に好意を持っている。この囲いは完璧だと思わないか?」
速水を傷つけたくない。それでも、手に入れたい。俺は、速水に睡眠薬を盛ることにした。伍代が護衛でなくてよかった。あいつは、清二の命令に忠実だ。今なら、速水に俺の楔を打ち込む事が可能だ。俺は棚から、薬包を取り出した。
「竜二さん・・それなに?」
速水の問いには答えずに、俺は速水の飲みかけのコーヒーに薬包から粉薬を流し込んだ。速水の見ている目の前で、それをよくかき混ぜた。完全に溶けたところで、速水にコーヒーカップを差し出した。
「睡眠薬だ。速水、コーヒーが飲みかけだ・・最後まで飲め」
「でも、竜二さんはそのコーヒーに・・睡眠薬を入れたよ?」
「ああ、そうだ。飲め、速水」
「・・それを飲むとどうなるの?」
「親父によく飲まされていただろ。俺は親父の様に無理な体位は強要したりしないから安心しろ」
「・・僕と清一さんの行為を覗いていたの?」
「兄貴は嫌悪が勝って、見ようともしなかった。でも・・俺は違う。お前が泣き叫ぶ姿を、何度も覗き見た。睡眠薬でぐったりするお前を、弄ぶ親父の姿も見た。親父の囲いが容易には壊れないと思ったのは、お前と親父の行為を、子供の頃から見てきたからだ。まあ、親父は俺が覗き見している事に気が付いていたがな・・」
速水は俺が差し出した、飲みかけのコーヒーを受け取った。速水は目を閉じた後に、それを一気に飲み干した。俺は、速水から空になったカップをそっと奪ってテーブルに置いた。そして、速水を抱き寄せる。震える速水は、言葉を発することなく黙っていた。俺はふらつく速水を抱き寄せて、寝室に向かった。
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